『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』

葉月奈津・男

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レーディング15(R15)・表現深化バージョン~刺激的な表現を含みます

第17話 末路① ~小さきものたち~ 

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 「吸い尽くして、バラけたら対処できなくなる!」
 「まだ男子に吸いついているうちに焼き払わないと被害倍増よ?!」
 剣で切り払える相手ではない。
 寝ているうちに集られたら、今回がそうであるように声も出せないまま『終わる』。

 半端ない危機感が語られた。
 強くデカいモンスターも恐ろしいが、気が付かないうちに集まってくる小さい虫はもっと怖い。
 二人の危機感は、4人にも伝わる。

 「こ、これは、しかたな——」
 「私もそうおも——」
 「被害を最小で食い止めるのには必要——」
 口々に賛同の声が出始めた矢先・・・。

 「【ファイアウォール】!」
 叫びではなく、悲鳴だった。
 悲鳴だった。呪詛だった。祈りだった。

 魔法使いの瞳は、炎よりも赤く染まっていた。
 炎の壁がテントを囲んで立ち上がる。
 まるで、結界のように。

 見張りの時間が終われば、次に寝るのは自分たちだ。
 その寝床に、虫なんて一匹でもいてはならない!
 殺意高めの目が、『対象物』を見据えている。

 その脳裏には『システム』チャットがスクロールしている。
 いくつかレベルが上がり、称号も増えた。
 『階層主討伐者』の称号だ。
 それが三つ。

 「た、倒せたわ。集っていたのは51、53、55の階層ボスで、『ノミ』、『ダニ』、『シラミ』だったみたい。あんな小さなのが、『ボス』だったなんて」
『階層主討伐者』の称号は文字通り、『階層主を討伐したもの』に与えられる称号だ。
 それが増えているという現実を見れば、そういうことになる。

『階層主討伐者』──。
 その称号が、チャットログに三つ並んでいた。

 それは、誇りの証だった。 かつては。

 今は──『知らぬ間に、誰かを焼き殺した証拠』だった。

「っ・・・」
 魔法使いは、頭を振って浮かびかけた考えを振り払った。

 考えてはいけない!

 「階層ボスって、50階層から一層おきで出てたやつ?」
 「なんか中途半端だなって思ってた。空き部屋があるのとかとくに」
 「違ったんだわ。本当は各層にボスがいたのよ」
 「もしかして、ボス部屋。つまり次の層に行く手前で小休止を入れることを想定しての罠だった?」
 ボス部屋とはボスのいる部屋という意味だが、その奥には次の層へと続く階段なり通路、転移門がある。
 通常、ここはボスを討伐してからリポップまでの24時間はモンスターのいない安全な空間となるため、格好の野営場所とされる。

 もし、そういう場所で無防備に寝ているとき、この襲撃を受けていたら・・・。
 
 ぞっとする話だ。
 誰も言葉を発せず、ただ、自分の腕を抱きしめた。

 炎の残り香だけが、静かに空間を満たしている。
 焦げた布の匂い。
 焼けた肉の匂い。
 そして、何かが弾けたような、甘ったるい異臭。

 それが、虫だけのものではないことを、 誰もが、言葉にせずに理解していた。

   ◇

 ウィンドウ越しに、カルマは静かに頷いた。
 ノミ、ダニ、シラミ。
 かつて『無視された者』たちが、今は『無視できない存在』になった。

 それが、迷宮の答えだった。
 誰にも見てもらえなかった者が、今、見られている。 
 誰にも聞いてもらえなかった声が、今、悲鳴として響いている。

 カルマは、指先でウィンドウをなぞった。
 そこに映るのは、炎と、逃げ惑う者たち。
 そして、焼かれながらも蠢く『命の波』。

「『一寸の虫にも五分の魂』、昔の人は偉大だね」

 カルマは、ウィンドウに映る炎を見つめながら、静かに呟いた。
 逃げ惑う者たち。
 焼かれながらも蠢く『命の波』。
 それは、かつて無視された命。
 今は、無視できない魂。

「どんなに小さくて、気持ち悪くても。この世に存在している命を、蔑ろにしてはならない」

 カルマの指先が、ウィンドウをなぞる。
 その軌跡は、まるで迷宮の神経を撫でるようだった。

「忘れた者には、思い出させてあげないとね。命って、そんなに軽くないってことを」

 迷宮が、静かに脈打っていた。
 それは、魂の重さを刻む鼓動だった。


 これは序曲。
 迷宮内に入り込んだ『お客様』のおもてなしは続く。
『お客様』のいる限り。

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