『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』

葉月奈津・男

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レーディング15(R15)・表現深化バージョン~刺激的な表現を含みます

第38話 63階層の死闘 後編 ~空からの断罪~

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 モンスターのレベル帯は変わったが、やる事は変わらない。
 40階層までのモンスターを送り出して『人間』たちを攻め立てるのだ。

 40階層までの主体となるモンスターは『トノサマバッタ』、『オニヤンマ』、『コクワガタ』、『カミキリムシ』となる。
 『トノサマバッタ』などはまんま『オンブバッタ』の上位互換だ。

 基本ステータスが上昇していることで、個別の破壊力が高くなる。
 これは、どのモンスターにも当てはまるものだ。
 戦闘力が一段高くなった。

 「階層が変わった?」
 と、偵察用『トンボ』が百合根先輩の呟きを拾った。

 「間違いないわね」
 戦闘中のモンスターを観察して、大きく頷いている。

 「みんな! 敵は40階層より下の雑魚よ! 落ち着いて対応して!」
 間違ってはいない。

 深層まで一人の犠牲もなく来たのだ。
 冷静に戦えば勝てない相手ではない。

 「理由はわからないけど、弱い奴らから順にじゃないと出せないんだわ。この戦い、勝てるわよ!」
 仲間を鼓舞する女指揮官。
 絵になるほど美しい。

 ・・・いや、実際、見た目だけなら本当に絵になる。
 鋭い視線、迷いのない声、風に揺れる髪。
 あの横顔は、まるで戦場に咲く花のようだった。

 ・・・と、思ってしまった自分に、内心で舌打ちする。

 何を見とれてるんだ、オレは。

 しかも、指摘が的確だ。
 モンスターのレベル帯に気付かれた。

 踏ん張りどころ。
 そう気を張った横顔が、凛々しすぎる。

 ・・・中身はともかく。


 背後で、カエル女が画面をにらみつけていた。
 視線は鋭く、指先はわずかに震えている。

 嫉妬に駆られて。

 それが、彼女自身にもわかっているのかは、定かじゃない。
 でも、空気が少しだけ重くなったのは、確かだった。

 ◇抗戦(百合根友梨視点)◇

「階層が変わった?」
 口にした瞬間、違和感が確信に変わる。
 魔法の反応速度、モンスターの動き、攻撃の重さ——すべてが、今までと違う。
 これは、間違いない。

「みんな! 敵は40階層より下の雑魚よ!」
 声が響いた瞬間、仲間たちの動きが整う。

 冷静に見てみれば、ここへ来るまでに相手してきたモンスターだ。
 冷静になりさえすれば、対処法もわかっている。

 問題なく動けていた。
 その様子に、胸の奥が静かに熱を帯びる。

 ——見えてる。
 ——理解できてる。
 ——導けている。

 これが、私の役割。
 これが、私の戦場。
 主力からは外れてしまったけれど、『ココ』も重要な役割には違いない。
 果たし切って見せる!

「勝てるわよ!」
 その言葉に、迷いはなかった。
 敵の強さも、仲間の不安も、全部見えている。
 だから、勝てる。
 私がいる限り。


 一瞬だけ、視線が逸れた。
 見るつもりなんてなかった。
 でも、目に入ってしまった。

 ——彼が、誰かと抱き合っていた。
 その誰かは、私じゃなかった。

 それは、『私』が生き延びた先の——ずっと、ずっと信じていた『ご褒美』のはずだったのに。

 その光景が、あっさりと崩した。
 私がここまで来た理由。
 指揮官として、仲間を導いてきた意味。

 ——全部、ただのエゴだったんだ。

 誰かのため、なんて綺麗な言葉で包んでたけど、結局は、自分のためだった。

 生き延びて、彼の隣に立ちたかっただけ。
 それだけだった。

 でも、その場所には、もう私の立つ余地なんてなかった。

 声が出なかった。
 ほんの一瞬。

 その隙を、空が裂いた。

 音もなく、影が落ちる。

 視界の端に、黒い稲妻のような軌跡が走った。

 魔法が——間に合わない。

 次の瞬間、

「——ッ!」

 肩に、灼けるような痛みが走った。

 オニヤンマの巨大な顎が、私の肩に喰らいついていた。

 肉が裂ける音が、耳の奥で爆ぜる。
 骨が砕ける鈍い音が、頭蓋に響いた。

 しぶきを上げて吹き上がる血。
 鉄の匂いが、空気を満たす。

 その熱が、髪と頬を濡らしていく。

 それでも、私は叫ばなかった。
 声が出なかった。

 心が、音もなく沈んでいた。

 感情に流された自分が、許せなかった。
 後悔だけが募る。

 ——しまった。
 どうして、あんなものを見てしまった?
 どうして、あの瞬間に心を揺らした?

 自分が許せない。

 戦場で、指揮官であるはずの私が。
 感情に流されて、『ただの女』になってしまった。

 でも、もういい。
 感情なんて、いらない。
 熱なんて、邪魔だ。

 私は、冷たくなる。
 凍らせる。
 そうすれば、誰にも揺らされない。

 心が、音もなく沈んだ。
 それは、名前を呼べなかった痛みだった。

 ああ、でも、それも——もう意味はない。
 空が遠い。
 地面が遠い。

 そして、戦場が遠くなる。

 ◇カルマ視点◇

 百合根先輩の檄を受けて、反撃が始まった。
 手を付けていなかった使い捨て魔法道具による、物量戦にシフトしてきたのだ。
 それでも、こちらだって戦力は上がっている。

 『トノサマバッタ』の跳躍は地面にクレーターを刻み、『コクワガタ』は硬質な体で突進し、挟撃による拘束を仕掛ける。  
『カミキリムシ』は属性魔法を撥ね返し、魔職を翻弄する。

 それでも、本来ならばそう苦戦するものでもなかっただろう。
 百合根先輩が指摘した通りだ。
 『人間』たちがちゃんと連携できていれば、『コクワガタ』には魔職が、『カミキリムシ』には近接職が。
 それぞれに相手どればいいだけのこと。

 だが、その連携は音を立てて崩れ始めている。

 「って、百合根先輩いないじゃん?!」
 指揮所に姿がない。  
 探すと、空から急降下した『オニヤンマ』に捕らえられていた。

 魔法をものともせず、鋭い顎が肩を切り裂いている。  
 爪と顎で拘束され、逃れるのは困難だ。

 空間の広さと高さが災いしていた。 
 指揮所は、空からの攻撃に対して無防備なのだ。  
 まるで、生贄のように晒されていた。

 「もう立て直せないだろう」
 
 誰かが叫んでいる。
 でも、声は届かない。
 あの教室でも、誰かの声は、ずっと届かなかった。

 魔法が放たれた。
 けれど、狙いは定まらない。
 旧校舎では、なにを目指すべきか何も見えていなかった。

 剣が振るわれた。
 けれど、連携はもうない。
 あの教室に携える手は存在していなかった。

 モンスターが跳ねる。
 地面が割れる。
 でも、誰も見ていない。
 旧校舎の戸脇駆馬と同様に。

 指示がない。
 だから、誰も動けない。

 それでも、戦いは続いている。
 虫型モンスターは確かに倒され続けていた。
 同時に、『人間側』の損耗も激しい。

 一人、一人、また一人。
 名前が消えていく。

 風が吹いた。
 冷たい。
 静かだ。

 そして、戦場は止まった。
 激闘の夏が過ぎ、冬が始まろうとしている。


 もはや、63階層の戦い。  
 その帰趨は、決した。

 ただ、勝者が誰だったのか。
 それを知る者は、もういない。
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