『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』

葉月奈津・男

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レーディング15(R15)・表現深化バージョン~刺激的な表現を含みます

第79話 妖怪制作④ ~つんぷく達磨(曽根崎志乃)~ 忘れられた玩具の記憶 

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「おっ」

カルマが足を止めた。
朱が滲む水面に、ゆらりと浮かぶ白い影。
その中心に、女がひとり、静かに揺れていた。

「つん、ぷく。つん、ぷく」

水の深みに沈んでは浮かび、また沈む。
まるで、誰かに遊ばれたあとの人形のように。

「・・・曽根崎志乃先輩、じゃないですか」

カルマは水辺にしゃがみ込み、長く濡れた黒髪をそっと引いた。
髪に引かれて、彼女の身体がゆっくりと水面から現れる。
赤く染まった白小袖が、かろうじて形を保っていた。
だが、その下にあるものは、すでに『人』ではなかった。

あったはずのものが、ない。
手も、足も、どこかへ消えていた。
水に沈んだ赤い袴が、彼女の過去を象徴するように揺れている。

それでも、カルマの目は冷静だった。
彼が見ているのは、肉体ではない。
そこに刻まれた記憶と、可能性。

「再生・・・いや、いらないな」
彼は微笑んだ。

「このまま、ダルマさんにしよう」

曽根崎志乃。
闇と土の魔法を操る中級探索者。
かつては主力の一角だった。

「なのに、なんで・・・?」

カルマが首を傾げると、しらゆきが答えた。

「ドロップアイテムの回収だけだったからよ。ボス戦がないなら、力は要らないって。彼女、無駄な魔力の使用、嫌ってたでしょ?」

吐息のような笑いが、冷たい空気に溶けていく。
妖怪たちが、静かに頷いた。

カルマには、信じがたかった。
なぜなら、彼女はいつも――

「・・・ポンポンと、術をかけてきてたけざね―?」

彼の声に、わずかな棘が混じる。
それは怒りではない。
ただ、記憶の中で何かが軋む音。

水面に浮かぶ志乃の姿は、まるで忘れられた玩具のようだった。
誰にも必要とされず、誰にも惜しまれず、ただ沈んでいく。
その身体に刻まれた痕は、語らない。
けれど、確かにそこに『何か』があったことだけは、カルマの目が知っている。

「ようこそ、舞台へ。志乃先輩」

彼はそっと手を差し伸べた。
その手は、まるで壊れた人形を拾い上げる子どものように、優しく、無邪気だった。 

     ◆ダンジョン42階層の追憶◆

   (回想シーン)

「立っていると疲れるでしょう? 座ってもよろしくてよ」

くるしゅうないわ。
涼やかで、どこか芝居がかった声が、空間に響いた。

ここは42階層の中級ボスルーム。
すでに討伐済みで、次のリポップまでは10時間。
柱状石が林立する、静かで美しい空間。
だが、今はその静けさが、逆に不気味だった。

「・・・」

カルマは、言われるままに座る。
空気を読んで、正座を選んだ。

「あらあら、なにも正座することはありませんのよ。座禅でお願いしますわ」

座禅――けっかふざ?
音しか知らない。
あぐらでいいだろう。

「座りましたわね? もう立つには及びませんわ」

シャン。

鈴の音とともに、祝詞が紡がれる。

――動かない。

足が、重い。
空気が、砂のようにまとわりつく。
肺が圧迫され、呼吸が浅くなる。

「立てないと、歩けませんでしょう? 飛ぶとよろしいわ」

控えていた信徒が二人、前に出る。
カルマの腕を水平に引き上げる。

「あなたの腕を飛行機の翼にして差し上げます。水平に、ね?」

シャン。

腕も、動かなくなった。
まるで、見えない糸で操られる人形のように。

曾根崎志乃。
加護と呪いを操るバッファー。
味方には祝福を、敵には呪詛を。
その力は、戦況を支配する。

「ほら、何か言ってごらんなさいな?」

シャン。

「志乃さまのお言いつけだ。なんか言ってみてくれよ?」

「無視はだめだぞ!」

信徒たちが、左右から囁く。
だが、カルマは答えない。
答えられない。

目は見える。
耳も聞こえる。
意識はある。
だが、声が出ない。
筋肉が動かない。

沈黙が、口を塞いでいた。

「それでも答えないか」

「よし、飛ばしてやろう! 気分が上がれば、口も軽くなるさ!」

左右に広げられた腕を、信徒たちが肩にかける。
カルマの体が、持ち上がる。

人間の身体は、水平に腕を保つようにはできていない。
筋肉が引き伸ばされ、関節が軋む。
だが、呪いで固定された体は、悲鳴すら上げられない。

「おお、障害物だ!」

「いかん、よけろ!」

柱状石に向かって、わざと走る。
カルマの体が、まるで荷物のようにぶつけられる。

ゴン。

衝撃が、全身に響く。
痛みは、ちゃんと届く。
それだけは、奪われていなかった。

声を上げることもできず、ただ、痛みだけが確かだった。
 
「――—、――――」

澄んだ声が響いた。
神々しく、冷たく、どこか祝詞のような響き。
きっと、加護の呪文。
信徒たちへの。

「投げてごらんなさいな。飛べるかどうか、見てみましょう」

見なくてもわかることを、あえて提案する。
それは、確認ではなく“儀式”だった。

カルマ飛行機は、当然に墜落した。
腕は水平のまま、体は無様に地面へ叩きつけられる。

「飛ばないようですわね。飛ばない翼は、ただの飾りですもの。いらないのではなくて?」

腕の呪縛が解かれる。
『たたんでよろしい』――つまり、腕を組めということ。

カルマは胸の前で腕を組んだ。
その瞬間――

シャラーン。

鈴の音が転がる。
再び、腕が固定される。
今度は、胸の前で。

「さっきは悪かったな」
「遊ぼうぜ?」

信徒たちが笑いながら、カルマを持ち上げる。
積み上げられた木箱の上へ。
50×50×50の箱が五段。
その上に、飾りとして置かれる。

「ようし、『カルマ落とし』だ!」
「民芸品かよ!」

アイテムボックスから取り出されたのは、柄の長いハンマー。
笑いながら、彼らは『遊び』を始める。

カルマは、ただの飾りだった。
笑いのための道具。
舞台に置かれた、忘れられた玩具。

「楽しそうね」

志乃が、クスクスと笑う。
その笑いは、鈴のように転がる。
祝詞のように響く。
誰かの尊厳を祓うための、冷たい音。

カルマの上に、笑い声が降る。
彼は転がっていた。
いいかげんに積まれた木箱は、二段目がうまく抜けなかった。

だから、落ちきれなかった。
だから、壊れきれなかった。

カルマは、そのまま放置される。
帰る直前まで。
誰にも触れられず、誰にも気にされず。

忘れられた玩具のように。
ただ、そこに置かれていた。

     ◇カルマの工作室◇

 「妖怪化するとして・・・どうしようかな?」
 河童なら甲羅と皿。
 雪女には雪虫。
 垢嘗めには似合いの制服。
 泥田坊には泥を塗りこみ、ウシガエルというお供もつけた。

 さて、『達磨』には何が必要か?

 「どう、思う?」

 同じく喪失系妖怪のテケテケに聞いてみた。
 達磨は手足だが、テケテケは臍の上から下がない。

 「・・・移動力・・・?」

 ジトっとした目で、ボソッと返された。

 うん。予想通りの答えだ。
手足を補う妖怪を作ればいいよね。

 Bランクの『人間の体の一部』妖怪だ。

 「はい。完成!」

 パパっと作ったのは『腕だけ』と『足だけ』だ。
伝統的な妖怪『手長・足長』の派生妖怪ってことでいいだろう。

ついでで作るのは、『オケオケ』。
テケテケを乗せる、女性の下半身型支柱妖怪。
誰の下半身かは不明。
『園田裕子』の下半身は失われてるし・・・。

 データから復帰は可能だけど・・・余ってたので使わせていただく。

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