『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』

葉月奈津・男

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レーディング15(R15)・表現深化バージョン~刺激的な表現を含みます

第80話  裏切られる巫女 ~祈りを失った者の問い~ 前編

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     (曽根崎志乃視点) 

 夕暮れのダンジョンは、まるで戦場だった。
 空は灰色に染まり、風は血の匂いを運んでくる。

「・・・なんで?」

 志乃の唇から、呟きがこぼれた。
 ここは『安全地帯』のはずだった。
 敵の侵入はないとされていた。
 けれど、それはただの幻想だった。

 虫がいた。
 敵意すらない。
 ただ、捕食のために動く存在。

「ああ・・・そうね。これが、ダンジョンよね」

 世界中にあるダンジョンの噂。
 そのどれもが、探索者を誘い、食らうための仕掛けに満ちている。
 弱い敵と、ほどほどの報酬。
 奥へ進むほどに、敵は強く、報酬は魅力的になる。

 それは、誘い。
 罠。
 そして、終わりへの道。

 安全地帯など、最初から存在しない。
 それを信じていた自分たちこそが、愚かだった。

「みんなが、無事に切り抜けられますように!」

 シャン。

 志乃は祈る。
 それが、彼女の役目だった。

 シャン。

 味方の足が止まらぬように。
 敵の爪が鈍るように。
 戦場に響く鈴の音は、希望の音だった。

 シャン。

 その祈りは、何度も仲間を救ってきた。
 彼女は『戦巫女』と呼ばれ、守り神のように崇められていた。

 ……シャン……

 祈りは、まだ届くと信じていた。

 だが――祈りは、届かなくなる。

 虫の軍勢が、予想を超えていた。
 防御陣は崩れ、戦線は崩壊寸前。
 志乃は悟る。
 これは、終わる。

 その瞬間、誰かが叫んだ。

「ここにも爆弾がある!」

 腕を掴まれる。
 振り返ると、そこには仲間たち。
 いつも祈りを受けていた者たち。
 その中の一人――『リーダー』と呼ばれていた後輩が、彼女の手に石を握らせた。

「ごめんね。でも、いつもみたいに守ってくれるでしょ?」

 その石は、爆裂玉。
 昨日、使い捨てられた仲間が持たされていたもの。
 それを渡された意味は、あまりにも明白だった。

「感謝はしてるよ? 本当に。でも・・・死にたくないの!」

 その言葉は、志乃の耳には届かなかった。
 爆裂玉に光が宿り、彼女の魔力を吸い上げていく。
 破滅の光が、彼女の祈りを飲み込んだ。

 その瞬間、志乃は巫女ではなくなった。
 祈る者ではなく、捧げられる者。
 ただの『贄』として、そこに在るだけの存在になった。

 鈴の音は、もう響かない。
 祈りは、もう届かない。

 彼女の問いは、風に溶けていった。

  ◇妖怪化後◇

 そして、死。
 祈りを捧げ続けた魂は、仲間に見捨てられ、静かに砕けた。

 その欠片を拾い上げたのは、悪しき神――『ダンジョンマスター』と呼ばれる存在だった。

「君の祈りは美しい。でもね、裏切られた者の祈りは、もっと美しいんだよ」

 クスクスと笑う声。
 あの時と同じ。
 ただ、立場は逆転していた。

 彼――カルマは、志乃に手を与えなかった。
 足も、与えなかった。
 片目すら、空洞のままにした。

「祈るしか能がない女。それが、君だろ?」

 それは、かつて志乃が彼に向けた言葉。
 今、そっくりそのまま返される。
 意趣返し。
 わかりやすく、そして痛い。

 達磨として目覚めた志乃は、もう祈らない。
 祈る資格がない。
 祈りは、誰かを守るためのものだった。
 だが、あの瞬間、自分は『誰かの盾』として差し出された。

 誰が石を用意したのか。
 誰が彼女を選んだのか。
 もう、どうでもよかった。
 気にしてはいけない。
 なぜなら――

 彼女の想いは、彼の想いでもあるから。

 カルマ。
 かつて人間だった彼。
 名も知らぬ兵士ではない。
 名を知っていた。
 声を知っていた。
 少なからず、関わりがあった。

 それでも、彼を見捨てた。
 戦場に置き去りにし、敵の前に差し出した。

 死の間際、彼は口元を歪めていた。
 あれは、きっと自嘲だった。
 裏切られ、使い潰される自分を、笑っていた。
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