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レーディング15(R15)・表現深化バージョン~刺激的な表現を含みます
第101話 妖怪制作⑦ ~天狗(葉隠霞)~
しおりを挟む「あれ? 葉隠霞?」
ダンゴムシの通過跡に残されたマンガのような人型。
覗き込むと、知人がいた。
ただ、その姿は記憶していたモノとは異なっている。
清涼な雰囲気を有する女性だったのだが、泥まみれで横たわっている。
その体は『人』の色を失っていた。
赤く、黒く、末端部にいたっては白くすらある。
透明感のある白ではない、濁り黄色っぽい色。
仰向けに押し込まれているが、顔は見る影もなかった。
女性であることは、丸みのある体付きで知ることができる。
だけど、顔は一目で判別できる状態ではなかった。
なら、なぜすぐに個人名が出たのかだが、服装が特殊だったからだ。
胸のさらし、モスグリーンの肩掛け、紺の道中着。
時代劇に出て来る『女渡世人』みたいな服装なのだ。
こんな服は、彼女『葉隠霞』しかしない。
『風』と『雷』を操る九大魔女——探索者の中でも特異な能力を持つ、選ばれし九人の魔法使い——の一人だ。
ただし、少しばかりの協調性の乏しさが玉に瑕だった。
群れることを嫌うあまり、単独行が多い。
パーティを組んでも、協力よりも先に自分から前へ出てしまう。
単独で戦える能力があるからでもあるが、あまり良くは思われていない。
そのせいで実力はあるのに主力には入っていなかった。
「そう、だよな」
主力に入っていなかったのだ。
ここにいたわけで、63階層全滅なら、こうなっていて当然か。
カルマは目を閉じて、静かに息を吐き出した。
小さく頭を振る。
そして・・・。
「はじめよう」
目を開けて、『葉隠霞』だったものを見据えた。
風は止んでいた。
でも、雷の匂いが、まだ空気に残っていた。
それは、彼女が『まだ終わっていない』という証。
カルマは、風の中に問いと答えを探し始めた。
◆50階層の追憶◆
「おい! 後ろに下がるんじゃねぇぞ? そこにいろ!」
カルマの右側に並び、彼女はそう命じた。
他のパーティメンバーは後ろに引っ込んでいるのに。
別に嫌だと言うつもりはないが、ちょっと不思議だ。
隣にいることで何のメリットがあるのかがわからない。
でも、『隣にいる』だけでいいのなら、カルマでもできる。
むしろ、『誰かの隣』はカルマにとっても特別だ。
戦闘のたび、彼女の周囲を取り巻く風の余波で髪は乱れ、目も痛い。
だが、その分だけ頼もしさと安心感があった。
間近で見る『雷』は煌めいていた。
儚さと力強さのバランスにクラクラする。
「こえぇぇぇ」
「凄まじいよな」
「やっぱ、私らいらないじゃん!」
「一応活動しないと! あとで報酬減っちゃうでしょ?!」
「そうだぜ、ついて歩くだけ儲かるんだ。文句は言うな」
背後から、聞かせないように気遣う気はあるのか? そう問いたくなるようなあからさまな言葉が聞こえてくる。
彼女の左拳が、握りしめられた。
彼女は彼女で、孤独であるらしい。
「・・・・・・」
それはいいが・・・カルマは傷だらけだった。
彼女の風は確かにカルマを守ってくれる。
だが、敵に向かう真空の刃の余波がときおり、カルマをも切りつけてくるのだ。
これがあるから、みんな後方へ下がるのである。
カルマもできれば後ろに行きたかった。
『誰かの隣』が特別だとは言っても、切り刻まれることを許容はできない。
「あからさまに血を拭ってんしゃねぇよ!」
流れ出る血を拭きとるカルマの肩が小突かれた。
「そよ風程度で傷ついてんじゃねぇぞって、言いたくなるだろ?」
礼子は目を逸らしながら、苛立ちを隠すように呟いた。
血を拭ったカルマに、彼女は苛立っている。
傷つくのがおかしいという論理だ。
ただ、怒っているわけではないないらしい。
『探索者』なのに!
そう言いたいのだろうが、どこかで「それでもいいんだ」と思っているといったところだろうか。
吹いているのは、『そよ風』などと言える風ではないのだし。
彼女の纏う風は、敵を斬る刃であると同時に、仲間を遠ざける『隔たり』でもあった。
彼女の『強さ』であり、『孤独』だ。
だけど、この時。
風はカルマだけを受け入れていた。
カルマだけが風の隔たりを越えられていたからだ。
たとえ傷ついても、『誰か』の隣にいることの選択。
誰からも大事にされてこなかったカルマには、ただ一つの正解。
隣にいてくれる人のためなら、自分の痛みを踏み越え得る。
カルマのその覚悟を、風は認めていた。
認められたカルマにはわからないことだったけれど。
ささやかな、痛みを伴うやり取り。
少し不穏な空気の中、それでも二人は確かに寄り添っていた。
そんなやりとりが、探索中ずっと続いた。
終わったのは討伐対象の『中ボス』を討伐した後だ。
「勝ったな」
笑みを含む声がカルマに投げかけられる。
「・・・」
とどめの稲妻がかすって、右肩が焼けているカルマは答えられなかった。
治療のために、回復ポーションを取り出すのに必死だったのだ。。
相場をはるかに超える金額で買わされていたものだ。
「よわっ!」
うずくまっているカルマを見下ろし、霞は呆れているようだ。
カルマは、つらそうに見上げている。
「ほら」
彼女が手を伸ばした。
カルマの手が、彼女の手に触れる。
その手が、微かに震えている。
礼子の目が、わずかに怯えている。
痛みに委縮しているカルマが気付くことはなかったけれど。
「ありがとうございます」
彼女が原因なのだが、言っても仕方がない。
ここは感謝を伝える場面だろう、とカルマは思ったのだ。
差し出されている手を握った。
強い力で引き寄せられる。
「怯えないんだな?」
細く小さな呟き。
ほんの些細な風にでも掻き消されてしまう。
そんな声。
カルマは聞き逃した。
気付く余裕はなかったのだ。
いや、気付いていた。
ただ、反応する勇気が出なかった。
勇気があったら、何か聞けただろうか?
彼女が、誰かの横にいたかった理由。
そんなことを。
◇
カルマは、霞の傍らにしゃがみ込んだ。
泥にまみれたその体に、そっと手を伸ばす。
指先が触れた瞬間、微かな風が頬を撫でた。
「・・・怯えないんだな?」
あの時の声が、ふと蘇る。
霞の手が震えていたこと。
その目が、わずかに怯えていたこと。
カルマは、気づいていた。
でも、応えられなかった。
「・・・確かめる機会はまだあったんだな」
永久に途切れるはずの絆が、ここに存在している。
本人が望むか否かにかかわらず。
歪で血に濡れているとしても。
「・・・・・・」
妖怪たちは確信する。
カルマが人格ある妖怪を生み出すとき、そこに彼の人間性があることを。
彼はまだ『人間』を諦めてはいない。
そこに、わずかながらも『救い』が垣間見える気がした。
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