『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』

葉月奈津・男

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レーディング15(R15)・表現深化バージョン~刺激的な表現を含みます

第106話 ひとり ~そして、ひとり~ 前編

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 ──風が、止んだ。
 雷が、沈黙した。
 哄笑は、空に吸い込まれ、跡形もなく消えた。

 葉隠霞は、立っていた。
 戦場の中心で、ただ一人。

 足元には、砕けた羽根。
 焼け焦げた甲殻。
 裂かれた刃の破片。

 敵の姿は、もうない。
 仲間の声も、どこにもない。
 風は、彼女の周囲をかすかに流れていた。
 それは、ただの空気の動き。
 熱を奪い、静かに通り過ぎていくだけの、無機質な流れ。

 霞の手には、まだ雷の残滓があった。
 指先に残る微かな痺れと、焦げた匂い。
 団扇は、地面に落ちたまま、乾いた音を立てて転がっている。
 肌には、風の痕跡のような痕が残っていた。
 赤く、熱を帯びた線が、腕から肩へと走っている。

「・・・終わった?」

 その声は、かすれていた。
 誰に向けたものでもない。
 ただ、空気に溶けていくように。

 返事はない。
 風は吹き抜けるだけ。
 雷は、もう音を立てない。

 霞は、ゆっくりと周囲を見渡した。
 誰もいない。
 敵も、仲間も、誰も。

「・・・あたし、ひとりか?」

 その言葉も、風にさらわれていく。
 胸の奥で、雷のような鼓動が静かに響いていた。
 それは、まだ終わっていないと告げるようで、それでも、何も始まらないままだった。

 力は、まだ霞の中にあった。
 だが、それを向ける先がない。
 怒りも、恐怖も、歓喜も、すべてが行き場を失い、霞の中で渦を巻いていた。

 彼女は、立っていた。
 風の中で。 雷の余韻の中で。
 そして、孤独の中心で。

 ──葉隠霞。
 その名を呼ぶ声は、もうどこにもない。
 ただ、霞の中にだけ、その名が残っていた。

 そして、静寂の中で──霞は、初めて『自分の声』だけを聞いた。
 それは、風でも雷でもない。
 誰かの囁きでもない。
 ただ、自分の中から響いてくる、荒く、乾いた、知らない声だった。

「・・・これが、あたし?」

 その声に、答える者はいなかった。

 ──肉体は、もう形を保てなかった。
 皮膚は裂け、骨は軋み、風紋は暴走し、雷紋は焼き尽くした。
 葉隠霞の身体は、崩れ落ちていた。

 けれど──力は、まだそこにあった。

 風が、彼女の周囲を巡る。
 それは、もはや空気の流れではなかった。
 霞の『気根』——根幹そのものが、空間に染み出していた。

 雷が、地面を這う。
 それは、もはや電気ではなかった。
 霞の『怒り』と『願い』が、形を変えて残っていた。

 彼女の肉体は、崩れた。
 だが、彼女の『存在』は、まだ消えていなかった。

 ──霞の名を、誰かが呼んだ。

 遠くから、かすかな声。
 それは、風に乗って届いた。
 雷の残響に混ざって、霞の『耳』に届いた。

「・・・かすみ」

 その瞬間、風が揺れた。
 雷が、脈を打った。

 崩れた肉体の中で、何かが震えた。
 それは、霞の『意識』だった。
 まだ、そこに残っていた。
 まだ、『名前』を覚えていた。

「・・・あたし・・・」

 風が、彼女の名を思い出す。
 雷が、彼女の心を探し始める。

 ──葉隠霞。
 その名が、もう一度、風に刻まれた。
 その名が、もう一度、雷に焼き付けられた。

 そして、崩れた身体の中で──霞は、もう一度、目を開けようとしていた。

 風は、彼女の名を囁き続けていた。
 雷は、彼女の心を離さなかった。
 魂は、肉体を離れながらも、力の残滓に吸い寄せられていた。

 霞は、意識の深淵で目を開ける。
 そこは、風と雷の渦の中。
 彼女の『存在』だけが、そこに浮かんでいた。

 ふと、視線を巡らせる。
 ──屍。
 無数の屍が、風に晒されていた。
 敵のものだけではない。
 ──仲間たちも、そこにいた。
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