『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』

葉月奈津・男

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レーディング15(R15)・表現深化バージョン~刺激的な表現を含みます

第107話 ひとり ~そして、ひとり~ 後編

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「・・・なんで」
 霞の声は、風に溶けていく。

「逃げたはず、なのに。なんで、ここにいるの」
 風は答えない。
 雷も沈黙している。
 ただ、屍たちの表情が、霞の心を刺す。

 わたしが呼び戻した?
 風が・・・?
 それとも、知らない間に追いかけていたのだろうか?
 置き去りにしていった彼らを?

 恐怖。
 後悔。
 憎悪。
 そして──罪悪感。

 彼女を差し出したはずの仲間たちが、なぜか彼女のそばで、息絶えていた。
 まるで、逃げ切れなかったかのように。
 まるで、彼女の力が彼らを呼び戻したかのように。
 まるで・・・きっと・・・おそらく。

 霞の魂は、風の中で震えた。
「・・・あたしが、やったの? この力が、あたしの意思を超えて・・・」

 霞は、目を閉じた。
 風が頬を撫でる。
 雷が、胸を静かに叩く。
 それは、答えではなく、肯定だった。

 ──葉隠霞。 肉体は崩れた。
 でも魂は、まだここにある。
 力の残滓に囚われながらも、その中心に、彼女の『意志』が残っていた。

 屍の中で、風が吹いた。
 雷が、空を裂いた。
 そして、霞はその中心で、まだ存在していた。

 ──風が、問いかけた。
「まだ、戦えるかい?」

 その声は、誰のものでもなかった。
 霞の魂に、直接響いた。
 それは、彼女自身の問いだった。

 霞は、ゆっくりと目を開けた。
 視界はまだぼやけていた。
 けれど、その奥にあるものは、はっきりと見えていた。

「・・・わかんないよ」

 霞は、かすかに笑った。
 それは、涙のにじむ笑みだった。

「でも・・・やらなきゃ、いけないんだろ?」

 風が、そっと吹いた。
 雷が、静かに鳴った。

「だったら、もう一度・・・あたしの名前で、立たせてよ」

 風が、彼女の魂を包む。
 雷が、彼女の心を貫く。

 ──葉隠霞。
 その名が、再び風に刻まれた。
 その名が、再び雷に焼き付けられた。

 そして、崩れた肉体の中で──新たな『器』が、静かに形を取り始めていた。

「相手が、人間でも?」

 その問いに、霞は一瞬だけ黙った。
 でも、それは『ためらい』ではなかった。
 ただ、言葉を選んでいただけ。

「かまわないよ。モンスターも、人間も・・・同じだ。違いなんて、ないさ。だって、あたしを差し出したのは『人間』だった。壊したのも、裏切ったのも、『人間』だった」
 風が、彼女の言葉を抱きしめるように吹いた。
 雷が、彼女の魂を震わせるように鳴った。

「だったら、あたしは・・・誰であろうと、壊すだけだよ」
 その瞬間、風が彼女の魂を包み、雷が彼女の形を再び描き始めた。

 ──葉隠霞。
 人でも、妖でもない。
 ただ、力そのものとして、再び戦場に立とうとしていた。
 そして、風の向こうで誰かが静かに囁いた。

「ようこそ、こちら側へ」

 ──風が、静かに吹いていた。
 雷は、遠くで鳴っていた。
 葉隠霞は、戦場の残響の中で立ち尽くしていた。

 力は、彼女の周囲に渦巻いている。
 風は、彼女の髪を逆立て、
 雷は、彼女の皮膚の下で脈打っている。
 でも──それは、彼女のものではなかった。

 魂は、疲弊していた。
 戦うたびに、削られていく。
 怒り、後悔、快感、恐怖── そのすべてが、力に喰われていく。
 彼女は、力を振るうたびに、『自分』が少しずつ遠ざかっていくのを感じていた。

 でも、止められない。
 止まれば、壊れる。
 進めば、削れる。
 その葛藤が、彼女の魂を蝕んでいく。

「いつか・・・この力を、従えられるのかな。それとも、あたしが呑まれるのかな」
 風が、そっと頬を撫でた。 
 が、胸の奥で静かに鳴った。
 それは、答えではなく、問いの余韻だった。


 ──『葉隠かすみ』。
 魂と力が乖離したまま、戦いの中で揺れ続ける存在。

 その歩みは、まだ終わらない。
 風は、彼女の名を忘れていない。
 雷は、彼女の心を見つめている。
 
 ◇

「また、横にいてくれるかな?」

 記憶の回廊を抜けた先。
 人とそうでないモノの境の場。
 死んだはずの『彼』がいた。

『天狗』として、立ち上がったかすみに問いを投げかけてくる。
 それは、いつか、カルマが聞き損ねた問いだった。

「・・・私に、焼かれたいのかよ?」
 軽く上げられた腕、掌の上で雷が爆ぜた。

「オレを二度、殺すことに耐えられるならどうぞ」
 軽く腕を拡げるカルマ。
 
 かすみは、しばらくカルマを見つめていた。
 雷の熱が、掌から静かに消えていく。
 
「・・・・・・」
 かすみは腕を下ろした。
 
 カルマの横に並んで立つ。
 なぜか、『風』と『雷』も隣りにいる気がした。

 誰かと並ぶことができると、初めて信じられた瞬間だった。
 
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