『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』

葉月奈津・男

文字の大きさ
226 / 327
レーディング15(R15)・表現深化バージョン~刺激的な表現を含みます

第110話 最下層の討伐者たち⑦ ~沈黙の罪~ 後編

しおりを挟む
 

「は?」 「へ?」

 リーダーとサブリーダーが、同時に声を漏らす。

「今、ダンジョン内で一番『お宝』に近い位置にいる・・・いてもおかしくないのが、先駆けA班ってわけ」
 リーダーAの声には、かすかな怒気が混じっていた。
 彼らはメインルートの露払いを任されていた。
 最前線を走っていたのは、間違いない。

「だ、だけど・・・」
 サブリーダーは視線を泳がせる。
 疑念が、じわじわと胸を締めつけていく。

「そうか。なるほどな」
 リーダーの目が、氷のように冷たく光った。

「な、なにが『なるほど』なのよ!?」
「・・・あいつらのミスだ。属性の反転を伝えてきた『方法』と『タイミング』を思い出せ。通話じゃなく、曖昧なテキストで送ってきた。あれが、もし『わざと』だったとしたら?」

「・・・あっ」
 サブリーダーの顔から血の気が引いた。

 あの時、属性反転の報告が遅れたせいで、複数の班が大きな被害を受けた。
 進行は遅れ、戦力は削られた。
 だが、もしそれが『事故』ではなく、『計画』だったとしたら――?

「う、裏切り・・・? なんで・・・?」
 可能性は理解できる。
 だが、動機が見えない。
 なぜ、仲間を犠牲にしてまで、そんなことを?

 沈黙が落ちた。
 だがその沈黙の奥で、何かが確かに軋んでいた。
 信頼という名の鎖が、音もなくほどけていく。

「このままでも、『ダンジョンマスター』初討伐の栄誉は全校生徒のものだ。『レイド』なんだから、個人のものにはならない。・・・はずだった」

 リーダーは、言い聞かせるように呟いた。
 目立つ者と、そうでない者。
 それは仕方のないこと。
 だが、裏切りを選ぶほどの動機があるとは思えなかった。

「――不信感」
 リーダーAが、ぽつりと呟いた。
 そして、スマホの画面を差し出す。

 そこには、雑談掲示板のログが並んでいた。


『レイド本隊は俺たちを見捨てるかもしれない』 
『例のアイツ、助ける手だてはあった。なのに、平然と殺している』
『エリクサー、あれ一本与えておくだけでいい』
『なんで渡してないの?』 
『って言うか渡してるんじゃない?』
『だったらそう言うだろ。人一人生贄にしたってことで動き鈍ってるやつ、普通にいるし』
『なら、なぜ?』
『だから・・・本隊の奴らだけが生きて帰って、金も名誉も独占。俺たちは無念の死ってことじゃねぇのかってこと!』
『一般の生徒は皆殺しってか?!』
『あ、あり得るかも。今回の報酬と影響は莫大だし!』
『……』
『……』
『おい。黙り込むなよ。頼むから!』
『……』 
『……』
『おーい?!』

 その沈黙は、ただの『無言』ではなかった。
 言葉を失ったのか、あるいは・・・口を閉ざすよう命じられたのか。

 リーダーの背筋に、冷たいものが走った。
 誰かが、すでに『情報』を操作している。
 それは、外か。
 中か。
 あるいは、すぐ隣か――。



「エリクサー・・・そうか、確かに。クソっ!」
 リーダーが拳を握りしめた。 骨が軋む音が、静かな空気を裂く。

 言われてみれば、そうだ。
『ダンジョン内』に限られるが、人は――死から戻れる。
 たった一本のエリクサーで、命は繋がったかもしれない。

『アイツ』に、それを持たせていれば。
 全員、生きて帰れたかもしれないのに。

 なのに――なぜ、誰も渡さなかった?
 なぜ、誰もその可能性を口にしなかった?

 自分が忘れていたのは、まだ理解できる。
 エリクサーは、あまりに高価で、攻略組の自分ですら、そう簡単に手に入れられる代物ではなかった。

 だから、無意識に『選択肢』から外していた。
『あれは万一の備え』。
 そして、自分の役割は『万一を起こさないこと』。
 ――だから、気づかなかった。

 だが。

「・・・教師どもは? それを作れる『聖女一歩前』、一葉は?」
 声が震える。
 怒りか、悔しさか、それとも――恐怖か。

「俺は、忘れていた。でも、あいつらは違う。作れる者がいて、持っている者がいて・・・それでも、誰も渡さなかった。それは、『選択』だ。見殺しにするという、明確な選択だ!」

「た、高い薬だし・・・『アイツ』には買えないってことじゃ・・・?」
 サブリーダーの声は、かすれていた。

「レイドの予算で考えれば、エリクサーとはいえ一本なんて端数だ!」
 リーダーの声が、鋭く空気を裂く。

 確かに、個人では手が届かない。
 だが、266人が参加する国家級レイドの予算から見れば、それは『おまけ』のような金額にすぎない。

 成功すれば、『アイツ』にも報酬は入る。
 その金で、いくらでも買えたはずだ。
 いや、皆で少しずつ出し合えば、すぐにでも用意できた。

 手段は、いくらでもあった。
 それでも、誰も動かなかった。

 ――気づかなかったのではない。
 気づいていたのに、黙っていたのだ。

 エリクサーがあれば、犠牲はゼロだった。
 ただ、『その未来』を選ばなかっただけ。

『なぜ気がつかなかったか』――その問いを、彼は口にしなかった。
 それこそが、彼の『人間性』だった。
 自省の欠如。
 怒りの裏に隠された、思考の停止。

 気づく機会は、いくらでもあった。
『カルマを爆弾にする』と聞いた瞬間。
 その力を利用する前に、助ける方法はないか? と考えていれば、『エリクサー』という答えは、すぐに浮かんだはずだった。

 一葉――『聖女一歩手前』と呼ばれる彼女とは旧知の仲。
 毎日顔を合わせ、会話もしていた。
 調薬中に訪ねたこともある。
 材料採取のクエストも受けた。
 それでも、思い出さなかった。

 たった一つの条件。
『カルマを助ける』という視点を持っていれば。
 それだけで、すべては変わっていた。

 つまり――彼自身が、カルマを『人』として見ていなかった。
 それに尽きる。

「あいつが黙っていたせいで、アイツは死んだ。俺たちは、仲間を爆弾にしてしまった。  その罪を、俺は背負う。だが・・・あいつは、裁かれるべきだ」

「・・・そうね。とりあえず問い質す必要はあるわ」
 サブリーダーが、何かを思案しながら深くうなずいた。

「え? そ、そっち?」
 リーダーAが慌てる。
 今、優先すべきはA班の動向確認ではないのか?

「A班の追及は無理だ。ここから追いつくには、走り続けるしかない。現実的じゃない」
 焦っても、意味はない。
 モンスターの襲撃もある。
 それが、冷静な判断だった。

「・・・あ、ああ。そ、そうなるのか」
 リーダーAは、現実の壁に押されるように、言葉を引っ込めた。

「とりあえず、一葉には私が訊いてみる」
 サブリーダーが申し出る。

「あー。うん、そうだな。あいつとは幼馴染だ。俺だと押し切れないか、引きすぎるかだな」 リーダーは、難しい問題から一歩引いた。
 剣で斬り捨てればいいわけではない問題には、 挑みたくない。

 それもまた、彼の『人間性』だった。
 英雄の仮面の下にある、凡人の弱さ。
 その弱さが、静かに、確実に、レイドの運命を揺らしていた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。

昼寝部
キャラ文芸
 俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。  その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。  とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。  まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。  これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について

のびすけ。
恋愛
春から一人暮らしを始めた大学一年生、天城コウは――ただの一般人だった。 だが、再会した義妹・ひよりのひと言で、そんな日常は吹き飛ぶ。 「お兄ちゃんにしか頼めないの、私の“中の人”になって!」 ひよりはフォロワー20万人超えの人気Vtuber《ひよこまる♪》。 だが突然の喉の不調で、配信ができなくなったらしい。 その代役に選ばれたのが、イケボだけが取り柄のコウ――つまり俺!? 仕方なく始めた“妹の中の人”としての活動だったが、 「え、ひよこまるの声、なんか色っぽくない!?」 「中の人、彼氏か?」 視聴者の反応は想定外。まさかのバズり現象が発生!? しかも、ひよりはそのまま「兄妹ユニット結成♡」を言い出して―― 同居、配信、秘密の関係……って、これほぼ恋人同棲じゃん!? 「お兄ちゃんの声、独り占めしたいのに……他の女と絡まないでよっ!」 代役から始まる、妹と秘密の“中の人”Vライフ×甘々ハーレムラブコメ、ここに開幕!

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

処理中です...