『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』

葉月奈津・男

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レーディング15(R15)・表現深化バージョン~刺激的な表現を含みます

第109話 最下層の討伐者たち⑦ ~沈黙の罪~ 前編

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 レイド本隊。
 かつては96人の精鋭が揃っていた。

 今、その姿を確認できるのは、本隊の24人と、先駆けB班の5人だけ。
 残りの者たちは、誰もその行方を知らない。

 ――だが、彼らはまだ気づいていない。
 自分たちが、すでに『最前線』に取り残されていることに。


「なんか、手ぇ抜いてんな。・・・まあ、いいけどさ」
 スマホのチャット画面を開いたレイドリーダーが、ぼそりと呟いた。

 先駆け各班からの状況報告。
 本隊の戦力を無駄にしないため、逐一の報告を義務づけていた。
 敵を確実に排除してから進む。
 それが、このレイドの鉄則だった。

 だが、ここ数日、チャットに届くのは「接敵」「撃破」「進行中」――そんな、血の通わない短文ばかり。

「いいんじゃない? 便りのないのは無事な証拠ってやつでしょ?」
 サブリーダーが、冗談めかして笑いかける。

 地上に戻れば婚約する予定の二人。
 その距離は、戦場に似つかわしくないほど近い。

 けれど、彼らは知らない。
 その報告文が、すでに死者の指で打たれたものであることを。

 カルマは、回収したスマホを器用に操っていた。
 指紋認証など、彼にとってはただの形式にすぎない。
 ――遺体から剥がした指先が、まだ温かいうちに済ませればいい。

「・・・そうだな」
 何かが引っかかるように、レイドリーダーは眉をひそめたが、すぐにその違和感を飲み込んだ。

「それよりさ! 私たち、帰ったら婚約でしょ? そうだよね?」
 何度も交わした約束。
 けれど、サブリーダーの声には、かすかな不安が滲んでいた。

 このレイドが終われば、彼は『英雄』になる。
 そして英雄には、必ず『影』がつきまとう。

「すぐってわけじゃないぞ。犠牲者への哀悼が先だ。世間がそう求める」
 彼はそう言いながら、アイテムボックスに忍ばせた『弔文』の存在を思い出す。
 ――すでに、誰が死ぬかを知っている者の準備だった。

「ああ、『アレ』のことか。でも、これだけの規模のレイドで、世界初の『ダンジョンマスター』討伐よ? 誰も文句言えないと思うけど」
 サブリーダーは、少し誇らしげに言った。

「・・・自分が当事者ならな。違う学校で同じことして、そこのリーダーとサブリーダーが『婚約します』とか発表したら。どうする?」
 リーダーの声は、静かに冷えていた。

「・・・っ。ゴシップネタ、流しまくるわね。不適切な関係だとか、そんな感じの」
 サブリーダーは、言いながら自分の言葉に寒気を覚えた。

「そういうことだ」
 リーダーは、感情を見せずに言い切った。

『探索者』同士の連絡掲示板。
 そこに流れる情報は、真実よりも『面白さ』が優先される。
 誹謗中傷は日常茶飯事。
 英雄は、いつだって『叩かれる側』になる。

 今はまだ、外部との接続は遮断されている。
『ダンジョン』内では、秘密保持のために通信は完全にロックされる。
 スマホ事業者は、この産業最大のスポンサー。
 その管理体制は、まるで監獄のように厳格だった。


「ちょっと、なんか変な話になってるよ?」
 二人だけの会話に割り込むように、別の女が現れた。
 このレイドで合同パーティを組んでいる、リーダーA。

『本隊』は四つのパーティで構成されている。
 彼女は、そのうちの一つを率いるリーダーの一人だった。

「変な話?」
 サブリーダーは眉をひそめる。
 ダンジョン内では外部通信は遮断されている。
『変な話』が入ってくる余地など、ないはずだった。

「待機ばっかで退屈だからさ。冷やかしで、個人チャットに愚痴を一斉送信してみたの。そしたら、返事が来たのよ」
「・・・ああ、そういうことか」
 ダンジョン内、しかも十階層以内なら通信は可能。
 ――カタログ上は、だ。
 実際には、五階層を超えると通信はほぼ途絶する。

「で、問題はその内容よ」
 リーダーAは声を潜め、顔を寄せる。

「先駆けのA班。全滅したって言われてるけど、実は無事って話なの」

「? それって、いいことじゃない?」
 サブリーダーは首をかしげる。
 犠牲者がいないなら、喜ぶべきことのはずだ。

「・・・いや。もしそれが本当なら、『いいこと』ではないぞ」
 レイドリーダーの声は、低く、重かった。

「え? なんでよ?」

「考えてみろ。自分たちが『全滅した』って噂されてるのに、無事なら何かしら反応するはずだろ?」
「それこそ、戦闘中で返信できないとか」
「ずっとか? スマホを見る暇もなく? そんなに戦闘してるなら、『無事』なわけがない。  だが、もし本当に全滅してるなら、『実は無事』なんて情報が出るはずがない」

 沈黙が落ちた。
 情報の矛盾は、何かが『狂っている』証だった。
 そしてその『何か』は、すでに彼らのすぐそばにいるのかもしれない。

「で、これよ」
 リーダーAがスマホを突き出した。 
 画面には、たった一行のメッセージが表示されていた。

『A班の奴ら、先行してお宝独占する気だぞ!』
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