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レーディング15(R15)・表現深化バージョン~刺激的な表現を含みます
第110話 最下層の討伐者たち⑦ ~沈黙の罪~ 後編
しおりを挟む「は?」 「へ?」
リーダーとサブリーダーが、同時に声を漏らす。
「今、ダンジョン内で一番『お宝』に近い位置にいる・・・いてもおかしくないのが、先駆けA班ってわけ」
リーダーAの声には、かすかな怒気が混じっていた。
彼らはメインルートの露払いを任されていた。
最前線を走っていたのは、間違いない。
「だ、だけど・・・」
サブリーダーは視線を泳がせる。
疑念が、じわじわと胸を締めつけていく。
「そうか。なるほどな」
リーダーの目が、氷のように冷たく光った。
「な、なにが『なるほど』なのよ!?」
「・・・あいつらのミスだ。属性の反転を伝えてきた『方法』と『タイミング』を思い出せ。通話じゃなく、曖昧なテキストで送ってきた。あれが、もし『わざと』だったとしたら?」
「・・・あっ」
サブリーダーの顔から血の気が引いた。
あの時、属性反転の報告が遅れたせいで、複数の班が大きな被害を受けた。
進行は遅れ、戦力は削られた。
だが、もしそれが『事故』ではなく、『計画』だったとしたら――?
「う、裏切り・・・? なんで・・・?」
可能性は理解できる。
だが、動機が見えない。
なぜ、仲間を犠牲にしてまで、そんなことを?
沈黙が落ちた。
だがその沈黙の奥で、何かが確かに軋んでいた。
信頼という名の鎖が、音もなくほどけていく。
「このままでも、『ダンジョンマスター』初討伐の栄誉は全校生徒のものだ。『レイド』なんだから、個人のものにはならない。・・・はずだった」
リーダーは、言い聞かせるように呟いた。
目立つ者と、そうでない者。
それは仕方のないこと。
だが、裏切りを選ぶほどの動機があるとは思えなかった。
「――不信感」
リーダーAが、ぽつりと呟いた。
そして、スマホの画面を差し出す。
そこには、雑談掲示板のログが並んでいた。
『レイド本隊は俺たちを見捨てるかもしれない』
『例のアイツ、助ける手だてはあった。なのに、平然と殺している』
『エリクサー、あれ一本与えておくだけでいい』
『なんで渡してないの?』
『って言うか渡してるんじゃない?』
『だったらそう言うだろ。人一人生贄にしたってことで動き鈍ってるやつ、普通にいるし』
『なら、なぜ?』
『だから・・・本隊の奴らだけが生きて帰って、金も名誉も独占。俺たちは無念の死ってことじゃねぇのかってこと!』
『一般の生徒は皆殺しってか?!』
『あ、あり得るかも。今回の報酬と影響は莫大だし!』
『……』
『……』
『おい。黙り込むなよ。頼むから!』
『……』
『……』
『おーい?!』
その沈黙は、ただの『無言』ではなかった。
言葉を失ったのか、あるいは・・・口を閉ざすよう命じられたのか。
リーダーの背筋に、冷たいものが走った。
誰かが、すでに『情報』を操作している。
それは、外か。
中か。
あるいは、すぐ隣か――。
「エリクサー・・・そうか、確かに。クソっ!」
リーダーが拳を握りしめた。 骨が軋む音が、静かな空気を裂く。
言われてみれば、そうだ。
『ダンジョン内』に限られるが、人は――死から戻れる。
たった一本のエリクサーで、命は繋がったかもしれない。
『アイツ』に、それを持たせていれば。
全員、生きて帰れたかもしれないのに。
なのに――なぜ、誰も渡さなかった?
なぜ、誰もその可能性を口にしなかった?
自分が忘れていたのは、まだ理解できる。
エリクサーは、あまりに高価で、攻略組の自分ですら、そう簡単に手に入れられる代物ではなかった。
だから、無意識に『選択肢』から外していた。
『あれは万一の備え』。
そして、自分の役割は『万一を起こさないこと』。
――だから、気づかなかった。
だが。
「・・・教師どもは? それを作れる『聖女一歩前』、一葉は?」
声が震える。
怒りか、悔しさか、それとも――恐怖か。
「俺は、忘れていた。でも、あいつらは違う。作れる者がいて、持っている者がいて・・・それでも、誰も渡さなかった。それは、『選択』だ。見殺しにするという、明確な選択だ!」
「た、高い薬だし・・・『アイツ』には買えないってことじゃ・・・?」
サブリーダーの声は、かすれていた。
「レイドの予算で考えれば、エリクサーとはいえ一本なんて端数だ!」
リーダーの声が、鋭く空気を裂く。
確かに、個人では手が届かない。
だが、266人が参加する国家級レイドの予算から見れば、それは『おまけ』のような金額にすぎない。
成功すれば、『アイツ』にも報酬は入る。
その金で、いくらでも買えたはずだ。
いや、皆で少しずつ出し合えば、すぐにでも用意できた。
手段は、いくらでもあった。
それでも、誰も動かなかった。
――気づかなかったのではない。
気づいていたのに、黙っていたのだ。
エリクサーがあれば、犠牲はゼロだった。
ただ、『その未来』を選ばなかっただけ。
『なぜ気がつかなかったか』――その問いを、彼は口にしなかった。
それこそが、彼の『人間性』だった。
自省の欠如。
怒りの裏に隠された、思考の停止。
気づく機会は、いくらでもあった。
『カルマを爆弾にする』と聞いた瞬間。
その力を利用する前に、助ける方法はないか? と考えていれば、『エリクサー』という答えは、すぐに浮かんだはずだった。
一葉――『聖女一歩手前』と呼ばれる彼女とは旧知の仲。
毎日顔を合わせ、会話もしていた。
調薬中に訪ねたこともある。
材料採取のクエストも受けた。
それでも、思い出さなかった。
たった一つの条件。
『カルマを助ける』という視点を持っていれば。
それだけで、すべては変わっていた。
つまり――彼自身が、カルマを『人』として見ていなかった。
それに尽きる。
「あいつが黙っていたせいで、アイツは死んだ。俺たちは、仲間を爆弾にしてしまった。 その罪を、俺は背負う。だが・・・あいつは、裁かれるべきだ」
「・・・そうね。とりあえず問い質す必要はあるわ」
サブリーダーが、何かを思案しながら深くうなずいた。
「え? そ、そっち?」
リーダーAが慌てる。
今、優先すべきはA班の動向確認ではないのか?
「A班の追及は無理だ。ここから追いつくには、走り続けるしかない。現実的じゃない」
焦っても、意味はない。
モンスターの襲撃もある。
それが、冷静な判断だった。
「・・・あ、ああ。そ、そうなるのか」
リーダーAは、現実の壁に押されるように、言葉を引っ込めた。
「とりあえず、一葉には私が訊いてみる」
サブリーダーが申し出る。
「あー。うん、そうだな。あいつとは幼馴染だ。俺だと押し切れないか、引きすぎるかだな」 リーダーは、難しい問題から一歩引いた。
剣で斬り捨てればいいわけではない問題には、 挑みたくない。
それもまた、彼の『人間性』だった。
英雄の仮面の下にある、凡人の弱さ。
その弱さが、静かに、確実に、レイドの運命を揺らしていた。
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