『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』

葉月奈津・男

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レーディング15(R15)・表現深化バージョン~刺激的な表現を含みます

第111話 サブリーダーの独白 ~微笑みの毒~

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 一葉の名前が出た瞬間、胸の奥がざわりと波打った。
 ずっと、この時を待っていた。
 あの『善人』の仮面に、泥を投げつける日を。

 誰も気づかない。
 誰も見ていない。
 でも、私は知っていた。
 彼女の存在は、ずっと『水面の光』だった。

 手が届きそうで、届かない。
 水面に揺れる光のように、掴もうとすればするほど、遠ざかる。
 少しだけ上にいて、少しだけ綺麗で、少しだけ『聖女』に近い。
 その『少し』が積もり積もって、今や、私の影すら映らないほど遠い。

 彼女は『作れる』。
 私は『作れない』。
 彼女は『選ばれる』。
 私は『支える』だけ。

 それが、ずっと悔しかった。
 でも、悔しいなんて言えなかった。
 だって、彼女は『善人』だから。
 誰もが信じる、『聖女一歩前』だから。

 でも――今なら、違う。

 カルマの件。
 エリクサーの件。

『渡さなかったと』いう、たった一点。
 それだけで、彼女は沈む。
 私が沈めなくても、周囲が勝手に引きずり下ろす。

 なら、少しだけ『流れ』を整えてあげよう。
 直接潰したりはしない。
 嘘だって、つかない。

 ただ、疑念を一滴。
 不信を一滴。
 それだけで、彼女の光は濁る。

 そして――その濁った水面を、私は見下ろす。
 愛する人の隣に立って。

 濁った水の底で、あの女はどんな顔をするのかしら?
 その顔を、私はずっと見たかった。

「ふふふ……」
「お、おい。どうした?」
 笑う場面か?
 ――戸惑う顔が、すぐそこにある。

 その顔。
 その困ったような目。
 ……ああ、やっぱり、可愛い。

「大丈夫。心配しないで。彼女にはきっと、誰もが納得する理由があるに違いないのですもの。そうでしょう?」
 私は、そっと胸に手を当てて、念を押すように微笑んだ。

「あ、ああ。そうだとも。そうに決まってるさ……たぶんな」
 彼は目を逸らし、歯切れの悪い声で答えた。

 ――他人から見れば、頼りないのかもしれない。
 でも、私は好き。
 その不安げな横顔も、優柔不断なところも。
 全部、全部、愛してる。

 私の、大好きな坊や。
 可愛い、可愛い坊や。

 いっぱい愛してあげる。
 いっぱい甘えさせてあげる。
 いっぱい、守ってあげる。

 だから――私の胸の中で、おやすみなさい。
 いつまでも。
 いつまでも……。

 あなたは、私なしでは生きられないのよ。
 もう、どこにも行けないの。

 ◇リーダーのおそれ◆

 サブリーダーの笑顔は、いつも通りだった。
 柔らかくて、優しくて、どこか甘ったるい。
 ……なのに、今は、ほんの少しだけ違って見えた。

 胸に手を当てて微笑む彼女の姿は、まるで『舞台の上の聖女』。
 完璧すぎる。
 整いすぎている。
 そして、どこか――冷たい。

「そうに決まっているさ……たぶんな」
 自分の言葉が、空気に溶けなかった。
 彼女の笑顔に吸い込まれず、ただ、宙に浮いていた。

 その違和感が、喉の奥に引っかかる。
 何かが、違う。
 何かが、濁っている。

 彼女の手が、自分の腕にそっと触れた。
 その瞬間――ほんの半歩だけ、足が後ろに動いた。

 無意識だった。
 でも、確かに動いた。

 彼女は気づいていない。
 ……いや、気づいていないふりをしている。

 その可能性が、胸の奥に冷たい波紋を広げていく。
 一滴、また一滴。
 静かに、確実に、彼の中に『冷たい水』が流れ始めていた。

 それは、恐怖か。
 それとも、罪悪感か。
 あるいは――まだ名もない、終わりの予感か。

 ◇サブリーダー◇

 彼の足が、ほんの半歩だけ後ろに動いた。
 その瞬間、空気がわずかに揺れた。
 彼は、気づいていないふりをしている。

 でも、私は知っている。
 彼は、確かに『感じた』のだ。

 私の笑顔の奥にある、温度のない何かを。
 言葉の端に滲んだ、意図された冷たさを。
 そして──私の『意図』そのものを。

 けれど、それでいい。
 気づいても、動けない。
 気づいても、逃げられない。

 だって、彼は『私の坊や』。
 私の腕の中でしか、呼吸できない。

 だから、毒の種類を変えよう。
 彼を傷つけないために。

 強すぎれば、彼まで壊れてしまう。
 弱すぎれば、一葉は沈まない。

 必要なのは、『彼が納得できる濁り』。
「仕方ない」と思える程度の毒。
 それでいて、確実に、彼女の光を曇らせるもの。

 たとえば──「彼女は迷っていた」「彼女は判断を誤った」「彼女は、誰かに止められていた」

 そう、『理解できる罪』。
 それなら、彼は私を責めない。
 むしろ、私を頼る。
 そして、私の隣に立つ。

 ふふ。
 この流れは、私のもの。
 彼も、彼女も、みんな私の支配する海の中。

 私は、ただ『曇らせる』だけ。
 静かに。
 確実に。

 ──その時、ふと目に入った。
 個人チャットの通知。

『城野敦』……誰だったかしら?

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