『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』

葉月奈津・男

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レーディング15(R15)・表現深化バージョン~刺激的な表現を含みます

第123話 崩壊する関係 後編

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 一葉は、静かに息を吸った。
 そして、震える声で語り始めた。

「……私、横流ししてたのは事実よ。でも、それは……どうしても、どうしても必要だったの」

 キリトは、黙って耳を傾けていた。
 一葉の目には、涙が滲んでいた。
 それでも、彼女は言葉を止めなかった。

「親の借金が、もう限界だったの。あと少しで完済できるってところまで来てた。だから……一瓶でも、横流しに回したかった」

 その言葉に、キリトの胸が締め付けられる。
 一葉は、拳を握りしめて続けた。

「でも……そのせいで、必要だったはずの人にすら渡せなかった。命を救えるはずだったのに……私、渡さなかったの」
 
 涙が頬を伝い、制服の襟元に落ちる。
 その姿は、いつもの冷静な一葉ではなかった。
 罪を背負い、後悔に沈む、ただの少女だった。

「私が殺したようなものなの。わかってる。でも、それでも……生きるためだったの。生きるために、私は……誰かの命を見捨てたの」

 キリトは、言葉を失っていた。
 胸の奥で、何かが軋む音がした。

 真梨華の密会映像が脳裏にちらつく。
 あれは、誰かと結託して一葉を追い詰めるためのものだったのか。
 裏で仕組まれた罠。
 感情を操るための演技。

 そして今、目の前で涙を流す彼女は――自分の罪を隠さず、語っている。

 どちらが本当の顔なのか。
 どちらが、信じるに値するのか。

 キリトの心の天秤は、静かに、確かに―― 一葉の方へと傾いていった。

 そしてその傾きは、もう――戻らない。

 一葉の涙が静かに落ちる中、背後で、何かが軋んだ。

 振り返るまでもなく、そこにいたのは――真梨華だった。

 その顔は、怒りと焦りに染まっていた。
 けれど、どこか壊れたような、空虚な目をしていた。

「ふざけないで……!」

 叫びと同時に、真梨華が一葉に向かって駆け出す。
 その動きは、もはや冷静さを欠いていた。
 理性の鎖が、完全に断ち切られていた。

 武器も、証拠も、もう彼女には残っていない。
 残されたのは――暴力という最後の手段。

「あなたなんかに、負けるはずがないのよ!」

 キリトは咄嗟に一葉の前に立った。
 真梨華の手が宙を裂く。
 その勢いに、空気が震えた。

「やめろ!」

 キリトの声が、空間を貫いた。
 真梨華の動きが止まる。
 その目が、リーダーを見つめる。
 怒りと、悲しみと、そして――絶望。

「どうして……あなたまで、あの子の味方をするの?」

 問いかけは、震えていた。
 それは、恋人としての問いではなかった。
 信じていた世界が崩れた者の、最後の叫びだった。

 キリトは、答えなかった。
 ただ、静かに一葉の肩に手を置いた。
 その仕草が、すべてを物語っていた。

 真梨華は、崩れるようにその場に膝をついた。
 彼女の目には、涙はなかった。
 あるのは、敗北の色だけ。

 確実に排除できると思っていた。
 でも、気づけば、自分が排除される流れになっていた。
 そして、もう――武器は残っていなかった。

 キリトは、口を開こうとした。
 何かを言わなければ。
 このままでは、彼女が壊れてしまう。
 そう思った、その瞬間――

 真梨華が、立ち上がった。

 その動きは、ゆっくりだった。
 でも、確実だった。
 そして、彼女の目が一葉を捉える。

 その瞳には、涙も怒りもなかった。
 ただ、冷たい光だけが宿っていた。

「絶対許さない。……殺してやる」

 声は、静かだった。
 叫びでも、怒鳴りでもない。
 まるで、天気の報告でもするかのような口調だった。

 一葉は、微動だにしなかった。
 キリトも、言葉を失っていた。
 その場の空気が、一瞬で凍りついた。

 真梨華は、誰にも触れず、誰にも振り返らず、ただその場を去っていった。

 足音だけが、静かに、冷たく響いていた。

 残されたのは―― 一葉の涙。
 キリトの沈黙。
 そして、空気の中に残る――宣告の余韻。

 それは、嵐の前の静けさ。
 そして、誰かが壊れる音の、始まりだった。

     ◇

「意外だったな。ここに来るのは一葉の予定だったんだけど」

 男の声には、笑うような響きが宿っていた。
 軽薄で、どこか愉快そうな音色。

 真梨華は、あの部屋にいた。
 本隊とは、もう行動を共にできない。
 信頼も、立場も、すべてを失った。
 身を寄せられるのは、ここだけだった。

「一葉狙い、だったの?」

 驚いた様子もなく迎えた男に、問いかける。
 声は低く、乾いていた。

「どうかな? 少なくとも、今回の一手で排除されるのは一葉だと思っていたってこと」

「……そう」

 だとしたら、こいつを責めるのはお門違いだ。
 一葉を貶めるために手を貸してくれていたのは、本当なのだろうから。

「一葉を、どうしたかったの?」

「とりあえず、八つ裂きかな?」

「……!?」

 一瞬、息が詰まる。
 でも、すぐにその言葉を飲み込む。
 むしろ、それは望んでいた言葉だった。

「なら、それは――私にやらせてちょうだい。チャンスを作ってくれれば、私が……」

 殺す。

 その言葉は、口に出さずとも、空気が震えるほどの殺気が、全身から噴き出していた。

 怒りではない。
 悲しみでもない。
 ただ、存在を支えるための『目的』としての殺意。

「わかった。一葉を殺す役は、君にあげるよ」

 男の声は、変わらず軽やかだった。
 だが、その一言が、すべてを決定づけた。

 ……契約が、成立した。

 復讐という名の儀式が、静かに始まった。

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