『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』

葉月奈津・男

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レーディング15(R15)・表現深化バージョン~刺激的な表現を含みます

第124話 揺れる隊列(女小隊長A視点) 前編

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「サブリーダー、どうしたんですか? さっきまで普通だったのに……」

「連絡も取れないんですけど……まさか、何かあったんですか?」

 レイドメンバーたちの声が、次々と飛び交う。
 不安と疑念が、隊列の隙間からじわじわと染み込んでくる。

 女小隊長A――沙羅は、隊の後方からその空気を感じ取っていた。
 誰もが、何かがおかしいと気づいている。
 でも、誰も口に出せない。

 リーダーは、静かに息を吐いた。
 そして、表情を崩さずに答えた。

「体調不良だ。少し前から無理してたみたいでな。今は休養を取らせてる。連絡は控えてくれ」

 一瞬、沈黙が落ちた。
 その言葉は、あまりにも整いすぎていて、逆に不自然だった。

「えっ……でも、そんな急に?」

「急に倒れることもある。レイドの準備で負担も大きかったからな。ポーションを乱用していたようだ。度を超すと効かなくなる。今は、そんな状態なんだ。回復を優先するべきだ」

 その言葉に、メンバーたちはしぶしぶ頷いた。
 納得ではなく、沈黙の選択。
 誰もが疑問を抱えながらも、リーダーの言葉に逆らうことはできなかった。

 女小隊長Aは、リーダーの横顔を見つめた。
 その瞳の奥に、苦い決意が滲んでいるのがわかった。

 キリトは、内心で苦い思いを噛みしめていた。
 本当の理由は言えない。
 言えば、チームが崩れる。
 だから、守るしかなかった。

 秩序を。
 信頼を。
 そして――一葉を。



「体調不良、ね……」

 沙羅は、誰にも聞こえないように呟いた。
 その声には、冷ややかな違和感が滲んでいた。

 サブリーダーが、突然姿を消した。
 リーダーは冷静に「休養中」と言った。
 でも、何かが違う。
 空気が、異様に張り詰めている。

 そして―― 彼女の端末に、一通の個人チャットが届いていた。

 送信者は……サブリーダー。

『一葉に気をつけて。彼女は罪を隠すためにリーダーにすり寄っている。あなたの隊にも影響が出るかもしれない。これは警告よ。』

 その文面を見た瞬間、沙羅の中で、何かが繋がった。

 最近囁かれている、『先駆けA班』による目的物独占疑惑。
 その不自然な動き。
 サブリーダーの失踪。
 そして――一葉の行動の、リーダーへの急接近。

「……内輪もめ、か」

 呟きながら、彼女は視線を巡らせた。
 隊の中に、わずかに揺れる空気がある。
 そこに、火種を落とすのは簡単だった。

 あえて、何人かのメンバーにそれとなく話を振る。

「先駆けA班の全滅って、本当かしら?」

「サブリーダーが抜けたのって、もしかして……内部の争いだったりして」

 言葉は、あくまで曖昧に。
 確証は与えない。
 でも、疑念という種は、確実に撒かれていく。

 そしてその種は、静かに、確実に、隊列の隙間に根を張っていく。

 信頼は、音もなく崩れる。
 秩序は、内側から腐っていく。

 沙羅は、何も言わずにその様子を見つめていた。
 揺れる隊列の中で、誰が沈み、誰が浮かび上がるのか――それを見極める目だけは、曇らせないように。

 女小隊長Aは、冷静だった。
 感情ではなく、秩序のために動いている――そう、自分では思っていた。

 けれど、その目には、確かに一葉への警戒が宿っていた。
 それは、理性の仮面をかぶった本能のざわめき。

      ◇

「先駆けB班、今どこまで進んでる?」

 端末越しに連絡を取る。
 表向きは進行状況の確認。
 でも、本当の目的は――情報の裏取り。

「A班が実は健在って噂。どう思う?」

 全滅したはずのA班。
 その情報を最初に流したのは、B班のリーダーの彼女だった。
 だが今、その情報に綻びが見え始めている。

 B班の隊長は、少し沈黙してから答えた。

「……妙な点は多いわ。一番おかしいのは、スマホの通信状況。全滅してるなら『通信不能』になるはず。でも、既読にはならないのに、受信はしてるっぽいの。ひとつ残らずね」

「ダンジョンのどこかに放置されたスマホが、壊されもせず、全部生きてるってこと?」

「そういうこと」

 その言葉に、女小隊長Aの胸がざわついた。
 サブリーダーからの警告が、脳裏に浮かぶ。

『一葉に気をつけて。彼女は罪を隠すためにリーダーにすり寄っている。』

 もしも――リーダーよりも前から、一葉がA班と通じていたとしたら?

 その時だった。
 端末に、新たな通知が届いた。

 受けたのは、B班との連絡に立ち会ってくれていた小隊長B。
 そっと画面を見せてくれた。

 送信者は――一葉。

『女小隊長Aが、B班と裏で連絡を取ってます。何か探ってるみたいです。各自、気を付けて』

 その文面に、女小隊長A——沙羅は目を細めた。

 一葉が、こちらの動きに気づいている。
 そして、幹部たちに――リーダーに、告げ口をしている。

「……いきなりサブリーダー気取りね」

 幹部たちの連絡用チャット。
 本来、一葉にはアクセス権限がない。
 それなのに、彼女はそこにいる。

 サブリーダーの警告が、急に現実味を帯びてきた。
 罪を隠す者は、情報の流れに敏感だ。
 そして、疑念を潰すために、先手を打つ。

 女小隊長Aは、静かに端末を閉じた。
 冷静さの裏で、心が静かに軋む。

 疑念は、もう『可能性』ではない。
『兆し』になっていた。

 そしてその兆しは、やがて『確信』という名の刃に変わる。

 女小隊長Aは、端末を閉じた。
 そして、静かに――別のルートを開いた。

 それは、隊列の秩序を守るための、最初の『監視』だった。

 誰かを疑うということ。
 誰かを見張るということ。
 それは、秩序を守るための『必要悪』――そう、自分に言い聞かせる。

 画面に映るのは、アクセスログ。
 通信履歴。
 位置情報の断片。
 そして、非公開チャネルの動き。

「……一葉。あなたが何者なのか、確かめさせてもらうわ」

 声は低く、感情を押し殺していた。
 これは、私情じゃない。
 これは、秩序のため。

 だが、心の奥底では、別の声が囁いていた。

 ――もし、あの子が本当に『中枢』に触れていたとしたら?
 ――もし、すべてを操っていたとしたら?

 その時、私は―― 何を守り、誰を信じる?

 女小隊長Aの指が、静かに動く。
 監視は始まった。
 沈黙の中で、真実を暴くために。
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