『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』

葉月奈津・男

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レーディング15(R15)・表現深化バージョン~刺激的な表現を含みます

第128話 疑惑から、分断へ② 前編

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「埒が明かない。なら、直接聞こう」

 リーダーの声は低く、しかし揺るぎなかった。
 その一言が、場の空気を一変させる。

「このままじゃ隊が崩れる。お前たちの言葉が、隊列を裂いてるんだ。ここで止めないと、レイドは失敗する。何もかもが――意味をなくすことになる」

 沙羅も、一葉も、言葉を止めた。
 その場に、緊張が走る。

 呼び出されたのは――『先駆けB班』の班長。
 泥にまみれた装備のまま、彼女は姿を現した。
 その顔には、疲労と、わずかな警戒が浮かんでいた。

「質問するわ」

 一葉が、静かに口を開いた。
 その声は冷たく、鋭い。
 まるで、水面に落ちる氷の刃。

「あなたたちは、A班が『全滅したかもしれない』と言っていたわね」

「ええ、そうです」

「でも――あなたたちが、その『噂』を流した可能性は?」

 班長の目が、わずかに揺れた。
 その一瞬の沈黙が、場の緊張をさらに高める。

「それは……違います。状況的に正しいと思われる判断です。正規の報告でしかA班のことは上げていません。だから、『噂』と言われるのは心外です」

「じゃあ、誰が?」

「それは……わかりません」

「わからない? それでよく『誤解を解きに来た』なんて言えたわね」

 一葉の言葉が、じわじわと彼女を追い詰めていく。
 声は静かでも、逃げ場のない圧力があった。

 班長の喉が、かすかに動く。
 視線が泳ぐ。
 その一挙手一投足が、疑念の炎に油を注いでいく。

 リーダーは黙って見つめていた。
 沙羅も、目を逸らさない。

 今、この場で真実が語られなければ――隊列は、完全に崩壊する。

「……やめた」

 その声は、静かだった。
 だが、誰よりも重く響いた。

 先駆けB班の班長は、俯いたまま、ゆっくり顔を上げた。
 その瞳には、疲労と諦め――そして、深い絶望が宿っていた。

「もういいわ。私はレイドを降りる」

 場が静まり返る。
 誰もが言葉を失った。

「とてもじゃないけど、命を預けられない。疑念が渦巻いて、誰が敵で誰が味方かもわからない。こんな状態で、最奥に挑むなんて――自殺行為よ」

 その言葉に、誰も反論できなかった。
 一葉も、沙羅も、リーダーですら。

 班長は、ゆっくりと視線を巡らせた。
 その目は、鋭く、冷たく、そして――痛々しいほどに傷ついていた。

「あなたも」
 一葉に向けて。

「あなたも」
 A隊長——沙羅に向けて。

「そして、あなたも」
 リーダーに向けて。

「誰も、信じられない」

 その言葉は、まるで水面に落ちた重石。
 静かに、でも確実に、隊の空気を沈めていく。

 班長は、何も言わずに背を向けた。
 足音だけが、静かに響く。

 その背中には、戦う意志も、怒りもなかった。
 ただ、疲れ切った探索者の姿があった。

 扉が閉まる音が、遠く響いた。

 その瞬間――レイドの空気が、確かに変わった。

 沈黙。
 誰もが、何かを失ったような顔をしていた。
 それが、信頼なのか、希望なのか――もう、誰にもわからなかった。

「俺たちは、進む」

 レイドリーダーの声が、静かに響いた。
 その言葉は、決意というよりも――疲れの中で絞り出された、覚悟だった。

 B班の班長が隊に戻ると、メンバーに事の次第を説明した。
 待機していたメンバーたちは、顔を見合わせ、そして――次々に頷いた。

「俺も降りる」
「もう限界だ」
「ここに残るよ」

 誰も、声を荒げない。
 怒りも、抗議もない。
 ただ、静かに、同調していく。

 B班は、ここに留まることを選んだ。
 それは敗北ではなかった。
 それは、『限界』を認めるという、勇気ある選択だった。

 レイドリーダーは、彼らの背中を見つめながら、ゆっくりと振り返る。
 そして、本隊のメンバーたちに向けて、はっきりと口にした。

「さっさと目的を果たして、地上へ戻ろう。みんな疲れているから、こうなるんだ」

 その言葉に、一葉が静かに頷いた。
 沙羅も、何も言わずに視線を落とした。

 64階層の最奥。
 そこに待つ、目的物。
 それを手に入れれば、すべてが終わる――はずだった。

 でも、誰もがわかっていた。
 この遠征は、ただの探索じゃない。
 信頼の崩壊と、感情の濁流を乗り越える旅だった。

 レイドリーダーの背中に、疲れが滲んでいた。
 それでも、彼は歩き出す。
 濁った水を踏み越えて、最奥へ向かって。
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