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レーディング15(R15)・表現深化バージョン~刺激的な表現を含みます
第140話 流れを操る者 前編
しおりを挟む「な、なにしてるの?!」
沙羅がクドウに詰め寄った。
その声は、怒りよりも、恐怖に近かった。
クドウは、自分の手を見て、ぼうっと突っ立っていた。
指先が、微かに震えている。
まるで、そこに『自分の意志』が届いていないように。
目をこすったりしているが、そんなことは気にしていられない。
沙羅が顔を寄せると、クドウは平然と見返してきた。
その距離感の狂いに、沙羅の頬が、かすかに赤く染まる。
でも、詰め寄ったのには、それだけの理由がある。
キムラは全身ずぶ濡れで、動きが鈍かった。
水が服に張りつき、関節の動きが遅れる。
その状態で、河童が背中を押した。
だが――おかしいのは、クドウの動きだった。
キムラが前進させられた、その瞬間。
クドウの剣が、異常な速度で振り下ろされた。
力も、角度も、まるで『狙っていた』かのように。
「わ、わからない。俺にもわからない。止まろうとしたんだ! だけど、止められなかった。自分の身体じゃないみたいに!」
その言葉に、沙羅の顔から血の気が引いた。
背筋が、冷たい水を浴びたように震える。
脳裏に過るのは、流されたときのこと。
水の流れに逆らえなかった感覚。
身体が、誰かに『運ばれている』ような違和感。
デバフとバフ、両方を使いこなす。
そんなモンスターがいたら?
敵が、味方に『加速』を与える。
その結果、仲間同士が斬り合う。
それが、『流れを操る者』の戦術。
敵にステータス向上のバフをかけるなんて、通常は考えられない。
だが、相手は『妖怪』らしい。
常識が通じない。
理屈が通じない。
だからこそ、怖い。
『流れ』そのものが、敵の武器になる。
そして、私たちはその流れに逆らえない。
「あらあら、もうバレちゃった?」
声がした。
ひどく、沈んだ声だった。
水底から泡と一緒に浮かび上がってきたような、湿った響き。
「そこよ!」
カノンが指さした先――水面が、静かに揺れた。
赤い着物の塊が、浮いては沈み、こちらをじっと見ていた。
「くッ!」
明らかな人外。
その存在は、空気を変えた。
水の匂いが、鉄のように変わる。
片目は灰色で、感情のない丸い瞳。
まばたきもせず、ただ、こちらを見ている。
もう片方の目は、赤い組み紐の眼帯で覆われていた。
その結び目が、まるで『封印』のように、肌に食い込んでいる。
濡れた髪が頬に張り付き、首筋を伝う水滴が、水ではなく、血のように見えた。
それは祈りか、呪いか。
ただのモンスターではない。
その姿は、誰かの記憶を写し取ったような『ダルマ』。
人の形を模しているのに、どこかが決定的に違う。
水面で、沈んだり浮いたりしている。
まるで、呼吸をしているかのように。
「つんぷく……ダルマ?」
カノンの声が揺れていた。
瞳が震え、唇が乾いている。
その姿は、信じていたものに裏切られた少女そのものだった。
「おばあちゃんの家にも、あるんだよ! 本物はどこかのお寺だけど。川を流れてきたダルマさんが病気を治してくれたんだって! だから、大切にしてるのに!」
怒りと悲しみが混ざった声。
その目は、ダルマのようなシルエットを睨みつけていた。
「病気を治してくれるいいダルマさんなんだよ!」
その叫びは、まるで『信仰の最後の砦』だった。
「落ち着いて! 相手はただのモンスターよ!」
本物の妖怪ではない。
ましてや、郷土の守り神なんかじゃない。
「あ、そ、そうだった!」
カノンが気を取り直し、魔法の詠唱に入る。
シャン!
魔力が高まった瞬間、空気がねじれた。
まるで、誰かが見えない手で魔法をほどいたように。
「き、キャンセルされた?!」
呆然とするカノン。
その瞬間から、異状が続いた。
シャン!
「目が!」
視界が黒く染まる。
『暗闇』。
何も見えない。
ただ、音だけが耳に残る。
シャン!
「手が上がらない!」
『麻痺』。
腕が重く、指が動かない。
まるで、誰かに縫い止められたように。
シャン!
「力が入らない!」
『弱体化』。
膝が震え、呼吸が浅くなる。
身体が、自分のものじゃない。
シャン!
「お、重いっ!」
『重圧』。
背中に何かが乗っている。
水が、空気が、すべてが重く、沈めようとしてくる。
シャン! ・・・・・・。
バシャ!
カノンが、水中に消えた。
水の中に押し込まれ、抑え込まれたのだ。
手を貸そうとするが――びくともしない。
水が、彼女を『重力の檻』に閉じ込めていた。
「なっ! で、でも、術者を倒せば!」
それしかない。
この呪いを解くには、それしか。
水面で浮沈を繰り返すダルマに、怒りと恐怖を込めて斬りかかった。
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