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レーディング15(R15)・表現深化バージョン~刺激的な表現を含みます
第141話 流れを操る者 後編
しおりを挟む「え?」
手応えがあった。
柔らかく、温かく、刃が何かを裂いた感触。
躱されると思っていた。
だから、全力ではなかった。
けれど、確かに『斬った』。
「人間ってコワイ、コワイ」
声がした。
背後から。
背後にいる?
じゃあ、今斬ったのは――?
目を落とす。
水中で、クドウと目が合った。
目を見開いたまま、泡も立てず、沈んでいく。
『認識阻害』
その言葉が、頭の中に響いた。
まるで、誰かが耳元で囁いたように。
「あ、ああ……」
喉が震える。
声にならない。
手が、剣を持ったまま、小刻みに揺れている。
自分が何をしたのか、理解した瞬間、全身が冷たくなった。
「ほんと。ヒドイことするわぁ」
あの声が、水の流れに乗って、背後から、耳の奥に届く。
ダルマは流れていく。
つんぷく、つんぷく、と。
まるで、罪を数えるように。
水面に浮かぶ赤い着物が、一つ、また一つ、波に揺れて遠ざかっていく。
残り、20人。
◇達磨ふよう視点◇
ふようは怒っていない。
悲しんでもいない。
でも、それは『感じない』のではなく、『感じることをやめた』から。
かつての自分が、誰かを守るために祈っていたように、今の自分は、誰かを沈めるために祈っている。
その祈りは、もう誰にも届かない。
届かなくていい。
それが、ふようの選んだ道。
「沈むのは、答えを持たない者。それだけのこと」
ふようが『彼』に恋をしたのは、壊された者同士の共鳴。
それは甘いものではなく、冷たい水のように静かで、深い。
彼の孤独に触れたとき、自分の中の空洞が震えた。
だから、彼の命令に従うことは、忠誠ではなく『理解』だった。
「わたしは、彼の孤独に触れた。だから、わたしは彼の刃になる」
問いかけと沈黙。
仲間が死にゆくその瞬間、ふようは問いかける。
それは裁きではない。
ただの問い。
「あなたは、誰かを守ろうとしていたの? それとも、自分を守ろうとしていたの?」
答えられない者は沈む。
それだけのこと。
「あなたは、何を得ようとしていたの? それは、誰かを犠牲にしてまで得る価値があったの?」
迷いのない選択。
ふようは迷わない。
それは、正しさではなく選択だから。
後悔もない。
ただ、静かに流れていく。
かつての祈りのように。
「私は、もう祈らない。願わない。救わない。それが、私の選んだ道」
手足を持たないのは、救うことをやめた証。
ふようはもう、誰にも触れない。
その身体は、ただ水に浮かび、沈む者を見つめるだけ。
問いかけるだけ。
そして、沈めるだけ。
◇沙羅の心情◇
斬った瞬間、彼女の中で、何かが崩れた。
「なぜ、止まれなかった?」「本当に、自分の意志じゃなかったのか?」
頭では『操られていた』とわかっている。
でも、心は、それを許さなかった。
「私の手が……あいつを……? 手は、そうだ。でも……!」
私の身体は。
私の意志は。
どこまでが『自分』だった?
剣を振るったときの感触が、まだ手のひらに残っている。
温かくて、柔らかくて、『斬ってはいけないもの』を斬った感触。
その曖昧な境界が、恐怖と自己嫌悪を呼び込む。
仲間を守る立場にある沙羅が、仲間を傷つけた。
それは、彼女の中の『正しさ』を、根底から揺るがす。
「私は、守るはずだったのに。それなのに、私の剣は……!」
この罪悪感は、たとえ仲間が「仕方なかった」と言ってくれても、消えない。
むしろ、許されるほどに苦しくなる。
『許される』ということは、『本当にやってしまった』という証明になるから。
「次も、また誰かを斬ってしまうかもしれない」
そう思った瞬間、彼女は自分の剣を信じられなくなった。
それは、沙羅としての自信を、根こそぎ奪っていく。
「私の剣は、まだ誰かを守れるのか……?」
そして最後に残るのは、怒り。
自分を操った存在への怒り。
でも、それと同じくらい、自分自身への問いが残る。
「私は、本当に『認識阻害』されていたのか? ほんの一瞬でも、『斬ってみたい』と思ってなかったか?」
その問いが、彼女の心を深くえぐる。
『操られた』という事実の中に、ほんのわずかでも『自分の意志』が混ざっていたのではないか――それが、彼女にとって一番恐ろしい。
◇
水の奥で、ふようは目を閉じたまま、沈んだ者に問いかける。
「あなたは、何を守ろうとしていたの?」
声は届かない。
けれど、問いは届く。
心の奥に、静かに沈んでいく。
それは、救いではない。
それは、赦しでもない。
それは、沈黙の中の裁き。
答えがなければ、そのまま沈む。
答えが偽りなら、より深く沈む。
ふようは目を開けない。
見ない。
触れない。
ただ、問いかける。
それが、彼女の『刃』としての在り方。
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