『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』

葉月奈津・男

文字の大きさ
263 / 327
レーディング15(R15)・表現深化バージョン~刺激的な表現を含みます

第148話 呼び声 ~本音の紳士たち~ 前編

しおりを挟む
 

 中央部にいた者たちで、未だ無事だったのは、男が二人だけだった。

「チッ……どうせなら、女子と二人きりがよかったぜ。こんな時こそ、守ってやるぜってカッコつけられるのによ」
「悪かったな、野郎で。つーか、お互い様だろ」
「野郎相手じゃ、気合も入らねぇし、守る気も起きねぇや」
「……なられても困るがな。まぁ、女子がいた方が、まだマシだったかもな」

 守る理由がない。
 守りたいと思える対象がいない。
 誰かに見られているからこそ、人は『まとも』でいられるのかもしれない。

 それなのに——。

 二人は、互いに顔を見合わせた。
 冗談を交わしながらも、どこか目が笑っていない。
 この状況が、冗談で済まないことを、どちらも理解していた。

「……こんな陰気なとこ、さっさと抜けようぜ」
「女子もいねぇしな。てか、なんで誰もいねぇんだよ。そろそろ誰かと出くわしてもいい頃だろ」
「……おかしいよな。静かすぎる。音が、ない」

 歩き回って、もうどれくらい経っただろう。
 誰か一人くらい見つかってもいいはずなのに、影も形もない。
 まるで、最初から誰もいなかったみたいに。

 ……——が……」

 風が、何かを運んできた。
 耳の奥をくすぐるような、湿った声。
 それは、風の音に紛れて、確かに『言葉』だった。

「今の、聞こえたか?」
「誰か呼んでる……!」

 二人は顔を見合わせ、声のする方へ駆け出した。
 沈黙に支配された空間に、ようやく現れた『人の気配』。
 それがどれほど心強く感じられたか、彼ら自身も驚くほどだった。

「……いねがぁ……」

 声が、はっきりしてくる。
 女の声。だが、どこか濁っていて、喉の奥から絞り出すような響き。

「女の声だな?」
「ああ……でも、なんだこの訛り?」

『いねが』——「いないか?」
 無事な者はいないか、誰か、誰か……と、探している。

「この先だ! 角の向こうから聞こえる!」
「おい、抜け駆けすんなって!」

 誰かはわからない。
 だが、女子がいる。 

 この異常な状況の中で、女の声はまるで救いの鐘のように響いた。
 いいところを見せたい——そんな軽い気持ちが、彼らの足を速めた。

 二人は競うように、角を曲がった。

 彼らが、その先で見たものは——

 星のように瞬く、無数の光。
 そして、その奥に広がる、底なしの闇。

 次の瞬間、世界が裏返った。
 音もなく、光もなく、ただ、意識が途切れた。

 彼らはもう、なにも見ることはなかった。

 壁には、焼け焦げたような黒い痕が二つ。
 まるで、そこに立っていた人間の輪郭をなぞるように。
 床には、血と肉の名残を包む制服が、ぐしゃりと折り重なっていた。

 その上を、何かが静かにまたいでいく。
 足音はしない。
 ただ、空気が重く、冷たく沈んでいく。

「……わるいこは、いねがぁ……」

 女の声が、再び響いた。
 だがその声は、どこか濁っていて、まるで喉の奥に血を含んだまま、無理やり言葉を押し出しているようだった。

 彼らが求めた『女』は、確かにそこにいた。
 ただし、それは——鬼だった。

 背に棘付きの金棒を担ぎ、 赤銅色の肌に、乾いた血がひび割れのようにこびりついている。 だが、その姿の中に、かすかに見覚えのある輪郭が残っていた。

 ——あの笑い声。
 ——あの瞳の色。
 ——あの時、肩を並べて走った背中。

 そのすべてが、今や異形の皮膚に覆われ、けれど、完全には消えていなかった。

 鬼の瞳が、床に転がる制服を見下ろす。
 その奥に宿るのは、冷たい夜の闇……だけではない。
 微かに揺れる、後悔とも、怒りともつかぬ感情の残滓。

「……わるいこは、いねがぁ……」

 その声は、どこか震えていた。
 呼びかけるようで、呪うようで、まるで自分自身に言い聞かせるようでもあった。

 彼女は、まだ『人間だった頃の自分』を覚えている。
 それでも、金棒を手放すことはなかった。


 残り、12人。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】元ゼネコンなおっさん大賢者の、スローなもふもふ秘密基地ライフ(神獣付き)~異世界の大賢者になったのになぜか土方ばかりしてるんだがぁ?

嘉神かろ
ファンタジー
【Hotランキング3位】  ゼネコンで働くアラフォーのおっさん、多田野雄三は、ある日気がつくと、異世界にいた。  見覚えのあるその世界は、雄三が大学時代にやり込んだVR型MMOアクションRPGの世界で、当時のキャラの能力をそのまま使えるらしい。  大賢者という最高位職にある彼のやりたいことは、ただ一つ。スローライフ!  神獣たちや気がついたらできていた弟子たちと共に、おっさんは異世界で好き勝手に暮らす。 「なんだか妙に忙しい気もするねぇ。まあ、楽しいからいいんだけど」

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~

ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。 玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。 「きゅう、痩せたか?それに元気もない」 ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。 だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。 「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」 この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。

幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。

四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……? どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、 「私と同棲してください!」 「要求が増えてますよ!」 意味のわからない同棲宣言をされてしまう。 とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。 中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。 無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

【完結】かつて憧れた陰キャ美少女が、陽キャ美少女になって転校してきた。

エース皇命
青春
 高校でボッチ陰キャを極めているカズは、中学の頃、ある陰キャ少女に憧れていた。実は元々陽キャだったカズは、陰キャ少女の清衣(すい)の持つ、独特な雰囲気とボッチを楽しんでいる様子に感銘を受け、高校で陰キャデビューすることを決意したのだった。  そして高校2年の春。ひとりの美少女転校生がやってきた。  最初は雰囲気が違いすぎてわからなかったが、自己紹介でなんとその美少女は清衣であるということに気づく。  陽キャから陰キャになった主人公カズと、陰キャから陽キャになった清衣。  以前とはまったく違うキャラになってしまった2人の間に、どんなラブコメが待っているのだろうか。 ※小説家になろう、カクヨムでも公開しています。 ※表紙にはAI生成画像を使用しています。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

処理中です...