『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』

葉月奈津・男

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レーディング15(R15)・表現深化バージョン~刺激的な表現を含みます

第147話 完璧なるがゆえに(比翼ふげん視点)

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 風が止んだ。
 羽根が、静かに落ちる。
 空気が、凍るように静まる。

 廊下には、制服が三つ。
 ねじれて、沈黙している。
 その形は、まるで命が抜けた抜け殻。

「……終わったわ」

 声は、震えていない。
 手も、汚れていない。
 風がすべてを片付けてくれた。

 私は、命令に従っただけ。
 完璧に。
 正確に。
 美しく。

 でも——風の中に、何かが残っていた。

 それは、声。
 それは、目。
 それは、かつて私が『仲間』と呼んだ者たちの、命の残響。

「これが、私の役目」

 そう言い聞かせる。
 そうでなければ、風が揺れる。
 そうでなければ、羽根が濁る。

 私は、完璧でなければならない。
 だから、迷ってはいけない。
 だから、痛んではいけない。

 でも——風が止んだ瞬間、胸の奥が少しだけ、冷えた。

 それは、風が吹いていた間、感じなかった『静けさ』。
 それは、風が守ってくれていた『感情』。
 それは、私が見ないようにしていた『痛み』。

「……人間の命を、奪ったのね」

 呟いた言葉は、誰にも届かない。
 隣にいる『みれん』にも、届かない。

 あの子は、もう『自分のために』は泣かない。
 私の『代わり』に、泣いてくれているから。

 私は、泣かない。
 私は、迷わない。
 私は、完璧である。

 でも——風が止まった今だけは、ほんの少しだけ、『人間だった頃の私』が、胸の奥で震えている気がした。

 それは、罪ではない。
 それは、罰でもない。
 それは、ただの『記憶』。

 私は、忘れない。
 でも、振り返らない。

「風は、役に立つ」

 そう言って、胸を反らす。
 それが、私の『答え』。
 それが、私の『赦し』。

 そして、次の命令を待つ。
 風が、また吹くまで。

 ◆比翼みれん視点◆

 風が止んだ。
 それは、命が止んだ音だった。

 この一文がすべてを語ってる。
 風の終わり=命の終わり。
 その静寂は、ただの余韻じゃない。
『取り返しのつかない現実』の証。

 制服が三つ。
 ねじれて倒れ、動くことなく沈黙している。

 その沈黙は、叫びよりも重い。
 風がすべてを奪ったあとに残るのは、色と形と、記憶だけ。

「……殺したんだね」
 声にはならなかった。
 でも、風は知っていた。

 みれんの痛みは、言葉にならない。
 でも、風はそれを知っている。
 なぜなら、彼女も『風の一部』だから。

 ふげんは、胸を反らしていた。
 誇らしげに。
 完璧に。

 その姿は、まさに『理想の器』。
 でも、理想はときに、『人間らしさ』を切り捨てる。

「……それが、完璧なの?」

 問いかけは、誰にも届かない。
 でも、みれんの心には、深く突き刺さる。
 それは、ふげんへの問いであり、自分自身への問いでもある。

 私は、泣いていた。
 誰にも見えない涙。
 誰にも届かない痛み。

 でも、それが——私の『役目』。
 ふげんが前を向くために、私が後ろで泣く。

 なんて静かな献身。
 なんて深い未練。
 それでも、彼女は歩く。
 風に削られながら。

「ほんとうに。ごめん」。その言葉だけが、私の詠唱。

 それは、魔法じゃない。
 それは、赦しを乞う祈り。
 命を見送るための、静かな呪文。

「……でも、歩くね」

 完璧にはなれなかった。
 でも、止まらない。
 それが、みれんの『赦し』であり、ふげんの『影』としての存在理由。

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