『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』

葉月奈津・男

文字の大きさ
264 / 327
レーディング15(R15)・表現深化バージョン~刺激的な表現を含みます

第149話 呼び声 ~本音の紳士たち~ 後編

しおりを挟む
 

 ダンジョンを『鬼』が歩いていた。
 その存在が現れた瞬間、空気が凍りついた。
 まるで、世界が息を呑んだかのように。

 赤銅色の肌は、夕焼けのように燃え、その熱は、触れれば焼けるほどの怒りを孕んでいた。 隆起した筋肉の線は、幾度も死線を越えてきた証。
 短く刈られた金髪が風に揺れ、 黒く湾曲した角が、空の色を裂いていた。

 その姿は、まさに『怒り』を纏った彫像。
 虎柄の衣装は、野性と誇りの象徴であり、肩に担がれた棘付きの金棒は、これから下される『裁き』の予告状だった。

 だが、その周囲には、似つかわしくないものがあった。
 淡い桃色の花弁が、ひとひら、またひとひらと舞っていたのだ。
 血の匂いが染みついた空気の中で、その花は、まるで彼女の中に残る『鈴谷涼香』の記憶を呼び起こすように揺れていた。

 ——あの春の日。
 ——誰かの笑い声。
 ——手を引いてくれた、あの温もり。

 けれど、彼女の瞳には、もはや迷いも、憐れみもなかった。
 あるのは、ただ一つ。
『終わらせる者』としての、静かな覚悟。

 建物の影を背に、緑がかった空を背負いながら、彼女はただ、そこに立っていた。
 風も、音も、彼女の前では息を潜める。
 その沈黙こそが、彼女の存在の証だった。

 童子丸らうら。
 かつて鈴谷涼香だった少女。

 仲間と笑い合い、未来を語り合った日々は、今や血と鉄の記憶に塗り潰されている。

 それでも、彼女は忘れていない。
 忘れられない。
 だからこそ、哀しみは怒りに変わり、怒りは力となって、彼女をこの地に立たせている。

 その姿は、恐ろしくも美しく、そして——取り返しのつかないほど、哀しかった。

    ◆童子丸らうら(鈴谷涼香)視点◆

 足音が、重い。
 でも、それは疲れじゃない。
 迷いでもない。

 ただ、踏みしめているだけだ。
 ——『人間だった頃の道』を。

 焼け焦げた記憶が、まだ足元にこびりついている。

 魔法の光が弾けたあと、焦げた肉の匂いが鼻を突いた。
 誰かの腕が、目の前を飛んだ。
 叫び声は、すぐに沈黙に変わった。

 仲間の声も、もう思い出せない。
 思い出すたび、胸が焼けるから。

 あたしは、あの場で終わったはずだった。
 でも、終われなかった。
 終わらせてもらえなかった。
 誰かが、あたしを『鬼』にした。

「……なら、やるしかないじゃん」

 誰かに言い訳するつもりはない。
 誰かに赦してもらうつもりもない。
 あたしが殺したものは、あたしの中で腐ってる。
 それでいい。
 それが、今のあたし。

 金棒が背中で揺れる。
 そのたびに、焼けた皮膚の奥で、何かが軋む音がする。
 もう人間の骨じゃない。
 でも、痛みはまだ残ってる。
 その重さが、あたしの『罪』の重さだ。

 でも、背負える。
 もう、背負う覚悟はできてる。

「誰かが、やらなきゃいけないなら——あたしがやる」

 それだけだった。
 誰かを守るためじゃない。
 誰かに褒められるためでもない。
 涼香だった頃の『優しさ』は、もう使い物にならない。

 ただ、『終わらせるため』に。
 あたし自身の、罪と罰と、命の続きを。
 この手で、終わらせるために。

「……わるいこは、いねがー」

 その声は、もう『涼香』のものじゃない。
 喉の奥から絞り出すように響く、異形の声。
 まるで別の誰かが、あたしの口を借りて喋っているみたいだった。
 でも、言葉の意味は、あたしの意志だ。

 だから、行く。
 誰も守れなかったあの日の続きを、今度こそ、あたしの手で終わらせるために。

「わるいこは、いねがー」

      ◇

 その声は、もう『涼香』のものじゃなかった。
 でも、喉の奥に、かすかに残る響きがあった。
 それは怒りでも、悲しみでもない。命令ですらない。
 それは——『問いかけ』だった。

 ——誰か、まだ生きてるか?
 ——誰か、まだ抗ってるか?
 ——誰か、まだ、終わらずにいるか?

 誰か、あたしを『見てくれる』者は——いないか?

 足音が近づく。
 軽い。
 浮ついている。
 その音だけで、わかる。
 この者たちは、まだ『死』を知らない。

 角を曲がる気配。
 らうらは、金棒を背に、ただ立っていた。
 何も言わず、何も構えず。
 ただ、そこに『在る』。

 そして——終わった。

 光も、音も、叫びもなかった。
 ただ、沈黙だけが残った。

 制服が静かに横たわっていた。
 その中に、かつて自分が守ろうとした誰かの色が混ざっていた気がした。
 でも、らうらは振り返らなかった。

「……これで、いい」

 感じなかったわけじゃない。
 でも、感じる必要がなかった。
 彼らは、戦場を知らなかった。
 誰かを守る覚悟も、誰かを背負う痛みも知らずに、ただ『女』を求めて走った。

 それが命を落とす理由になるのは、理不尽かもしれない。
 でも、ここは『ダンジョン』だ。
 理不尽こそが、理そのものだ。

「……あたしは、鬼だ」

 その言葉が、胸の奥で静かに響く。
 誰かを守るために、誰かを殺す。
 それが、あたしの『罰』であり、『役目』であり、『存在理由』。

「わるいこは、いねがー」

 もう一度、声を放つ。
 それは、警告でも、誘いでもない。
 ただの『確認』。

 ——まだ、あたしが裁くべき『命』は残っているか?
 ——誰か、もういい、充分だと言ってくれる者は、いないか?
 ——まだ、罪を知らない者はいるか?
 ——誰か、罪を乗り越える方法を教えてくれる者は、いないか?
 ——まだ、終わっていない者はいるか?
 ——誰か、あたしを止めてくれる者は、いないか?

 ほんの少しでも、あたしの手を引いてくれるなら——それだけで、救われる気がした。

 金棒が、背中で重く揺れた。
 それは、罪の重さであり、命の重さであり、あたしが背負った、『終わらせる者』としての誓いだった。

 それが、あたしの『答え』になる。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】元ゼネコンなおっさん大賢者の、スローなもふもふ秘密基地ライフ(神獣付き)~異世界の大賢者になったのになぜか土方ばかりしてるんだがぁ?

嘉神かろ
ファンタジー
【Hotランキング3位】  ゼネコンで働くアラフォーのおっさん、多田野雄三は、ある日気がつくと、異世界にいた。  見覚えのあるその世界は、雄三が大学時代にやり込んだVR型MMOアクションRPGの世界で、当時のキャラの能力をそのまま使えるらしい。  大賢者という最高位職にある彼のやりたいことは、ただ一つ。スローライフ!  神獣たちや気がついたらできていた弟子たちと共に、おっさんは異世界で好き勝手に暮らす。 「なんだか妙に忙しい気もするねぇ。まあ、楽しいからいいんだけど」

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~

ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。 玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。 「きゅう、痩せたか?それに元気もない」 ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。 だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。 「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」 この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。

幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。

四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……? どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、 「私と同棲してください!」 「要求が増えてますよ!」 意味のわからない同棲宣言をされてしまう。 とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。 中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。 無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

【完結】かつて憧れた陰キャ美少女が、陽キャ美少女になって転校してきた。

エース皇命
青春
 高校でボッチ陰キャを極めているカズは、中学の頃、ある陰キャ少女に憧れていた。実は元々陽キャだったカズは、陰キャ少女の清衣(すい)の持つ、独特な雰囲気とボッチを楽しんでいる様子に感銘を受け、高校で陰キャデビューすることを決意したのだった。  そして高校2年の春。ひとりの美少女転校生がやってきた。  最初は雰囲気が違いすぎてわからなかったが、自己紹介でなんとその美少女は清衣であるということに気づく。  陽キャから陰キャになった主人公カズと、陰キャから陽キャになった清衣。  以前とはまったく違うキャラになってしまった2人の間に、どんなラブコメが待っているのだろうか。 ※小説家になろう、カクヨムでも公開しています。 ※表紙にはAI生成画像を使用しています。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

処理中です...