305 / 327
レーディング15(R15)・表現深化バージョン~刺激的な表現を含みます
第189話 待ち伏せ ~激突~ 前編
しおりを挟む石壁に囲まれた薄暗い通路を、生徒たちは息を切らしながら駆けていた。
モンスターの気配はない。
だが、背後から迫る教師の足音が、何よりも恐ろしかった。
「このまま走り続ければ・・・!」
なんとかなる!
誰かがそう叫んだ。
希望のような言葉だった。
だがその瞬間、空気が裂けるような音が響いた。
ヒュッ——。
風を切る鋭い音。
そして、女子生徒の一人が突然のけぞるようにして後方へ吹き飛んだ。
彼女の胸には、鋼鉄の矢が深々と突き刺さっていた。
「っ・・・!」
誰もが言葉を失った。
彼女の瞳は驚愕に見開かれ、口元は何かを言いかけたまま動かない。
赤いリボンが血に染まり、静かに揺れていた。
矢は、前方から飛んできた。
「待ち伏せ?!」
誰かが叫んだ。
だが、そんなはずはない。
教師たちは後方にいたはずだ。
なのに、なぜ——。
「そうか・・・誘導されていたんだ」
男子生徒が低くつぶやいた。
最短ルートを避けるように仕向けられ、気づかぬうちに遠回りさせられていた。
その間に、追手の一部が回り込んでいたのだ。
進行方向には、暗がりの中に黒い影が立っていた。
その手には、次の矢がすでに番えられている。
「くっ・・・!」
生徒たちは再び走り出す。
だが、もはや逃げ道は一つしかなかった。
罠の中で、彼らは次の選択を迫られていた——。
道を逸れたことで、矢を射た待ち伏せとの衝突は回避された。
だが、安心する間もなく、最後尾にいた生徒が声を上げた。
「止まって!」
その言葉に、前を走っていた者が振り返る。
「止まってどうする! 追いつかれるぞ!」
声は抑えていたが、怒鳴るような勢いだった。
だが、最後尾の生徒は冷静に言葉を続ける。
「このままだと、すぐにまた待ち伏せがある。なら、逆にこっちが待ち伏せしたらどう?」
一瞬、沈黙が走る。
それは、追手を片付けようという提案だった。
「それは・・・」
誰かがつぶやいた。
逡巡の気配が、通路に広がる。
逃げるべきか、戦うべきか——誰もが迷っていた。
だが。
「やろう」
短く、しかし強く響いたその声に、皆が振り向く。
言ったのは、弓で命を絶たれた女子生徒と親しかった者だった。
彼の瞳には、怒りと悲しみ、そして覚悟が宿っていた。
あの一瞬の死が、彼らに決断を迫った。
逃げるだけでは、守れないものがある。
ならば——今度は、こちらが仕掛ける番だ。
広めの空間に、生徒たちは身を潜めていた。
そして、そこへ追手が入り込んだ——。
「ライト!」
その瞬間、周囲から一斉に光が放たれる。
それは単純な『発光魔法』。攻撃力はない。
だが、詠唱も魔力の溜めも不要。
使用直前まで、何の予備動作もない。
だからこそ、予測不能。
そして、予測していない以上——
視覚を奪う効果は、確実に発揮される。
追手たちは、突然の閃光に目を覆い、混乱する。
その隙に、生徒たちは動き出す。
罠は、今まさに発動したのだ。
「チッ、子供だましをっ!」
目くらましを受けたと認識した教師たちは、即座に散った。
集まったところに魔法でも撃たれれば終わる——探索者の常識だ。
だからこそ、光の中で動きを分散させた。
だが——。
「ば、バカ・・・な・・・」
視界を回復させた教師の一人が、目の前の光景に凍りついた。
倒れた仲間たち。
そして、自分に向かって剣を振り下ろす生徒の姿。
その剣が、迷いなく振り下ろされる。
そして、それで——終わりだった。
「目くらましなどの感覚失陥系の罠・攻撃を受けると、人は防御を固めたくなる。そこを狙われたら終わる・・・あなたの教えでしたよね?」
剣に付いた血を、少年は静かに振り払う。
その瞳には、怒りも悲しみも、もう浮かんでいなかった。
「ちゃんと覚えてましたよ?」
沈んだ声が、石壁に響く。
それは、かつての師への答え。
そして、今の自分の覚悟の証だった。
「私たちは、ヘイトで動くモンスターじゃないしね」
大盾を持った女生徒が付け加えた。
モンスター相手なら、分散は正しい判断だ。
少なくとも『全滅』はしない。
だけど・・・生徒たちは『ものを考える人間』だった。
教師たちが光に反応して散った瞬間——それこそが、生徒たちの狙い。
彼らは、教師たちが分散することを見越して、あらかじめ自分たちの位置を調整していた。 通路の陰、柱の裏、段差の影——それぞれが、剣を抜いて静かに待っていた。
そして、光が収まったその瞬間。
彼らは、自ら生徒たちの前に飛び出した後だったのだ。
待ち構えていた剣が、迷いなく振るわれる。
それは、逃げる者ではなく、狩る者の動きだった。
現役で日々探索に明け暮れている生徒たち。
そして、一線を退き、教鞭をふるうことが日常となっていた教師たち。
命のやり取りが当たり前となったこの状況で——その差が、じわじわと表に出始めていた。
教師たちは理論に頼り、動きが単調になっていた。
だが、生徒たちは柔軟に対応できている。
仲間の死が、彼らの迷いを塗りつぶしていた。
恐怖も、疑念も、悲しみも——すべてが、今この瞬間の行動に変わっていた。
彼らは、もう『教えられる側』ではなかった。
戦場に立つ者として、覚悟を持って剣を振るっていた。
退避と追跡行の脱落者=生徒3 教師9
0
あなたにおすすめの小説
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。
昼寝部
キャラ文芸
俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。
その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。
とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。
まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。
これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。
学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。
たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】
『み、見えるの?』
「見えるかと言われると……ギリ見えない……」
『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』
◆◆◆
仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。
劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。
ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。
後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。
尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。
また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。
尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……
霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。
3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。
愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー!
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について
のびすけ。
恋愛
春から一人暮らしを始めた大学一年生、天城コウは――ただの一般人だった。
だが、再会した義妹・ひよりのひと言で、そんな日常は吹き飛ぶ。
「お兄ちゃんにしか頼めないの、私の“中の人”になって!」
ひよりはフォロワー20万人超えの人気Vtuber《ひよこまる♪》。
だが突然の喉の不調で、配信ができなくなったらしい。
その代役に選ばれたのが、イケボだけが取り柄のコウ――つまり俺!?
仕方なく始めた“妹の中の人”としての活動だったが、
「え、ひよこまるの声、なんか色っぽくない!?」
「中の人、彼氏か?」
視聴者の反応は想定外。まさかのバズり現象が発生!?
しかも、ひよりはそのまま「兄妹ユニット結成♡」を言い出して――
同居、配信、秘密の関係……って、これほぼ恋人同棲じゃん!?
「お兄ちゃんの声、独り占めしたいのに……他の女と絡まないでよっ!」
代役から始まる、妹と秘密の“中の人”Vライフ×甘々ハーレムラブコメ、ここに開幕!
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる