『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』

葉月奈津・男

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レーディング15(R15)・表現深化バージョン~刺激的な表現を含みます

第188話 夢語り ~青のりとソースの匂い~

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「……うまいな」
 カルマが微笑んだ。
 その表情は、演出家ではなく、ただの『客』だった。

 63階層。
 何もない空間。
 迷宮の静寂が広がるその場所に、突如として現れたのは——

『たこ焼き屋の模擬店』。

 一葉が袋小路を去ったあと、
 カルマは静かにウィンドウを開いた。

「夢を語らせた。なら、実現させないとな」
 彼が語った『たこ焼き屋』は、奇抜でも幻想でもない。
 むしろ、『学園祭』という迷宮のテーマにぴったりだった。

 おそらく、幼い子供にありがちな夢。
『大好きなたこ焼きをいつでもたくさん食べられる』。
 そんなものだったろう。

 未来にあるのが『探索者』として、命を懸ける人生だけとは知らなかった頃のこと。
 でも、だからこそ、もっとも純粋な『夢』。
 これを叶えてやれずして、なにが『ダンジョンマスター』か。

 カルマは『野営用大型マジックアイテム』をベースにして、いくつかの『料理系アイテム』を組み合わせていく。

 鉄板。
 ソース。
 たこ。
 青のり。
 紅しょうが。

「これくらいできなきゃ、『ダンジョンマスター』は名乗れない」
 魔力が流れ込み、迷宮の一角が変化する。

 赤いのれんが揺れ、香ばしい匂いが漂い始めた。

 ——模擬店『たこ焼き屋』、開店。

 それは、ただの演出ではなかった。
 一葉が『痛みの中で見せた笑顔』を、カルマが確かに拾い上げた証だった。

 赤いのれんが、迷宮の風にふわりと揺れた。
 鉄板の上では、たこ焼きがくるくると回り、香ばしいソースの匂いが、静寂の空気をやわらかく押し広げる。

 店主は学ラン姿。
 ねじり鉢巻きを締め、真剣な表情で鉄板に向き合っている。

 青い肌に小さな角。
 背中の袋は、たこ焼きの煙を吸ってふくらんでいた。
 それでも、その笑顔は——
 人間以上に、人間らしかった。

 手つきは滑らかで、まるで魔法が宿っているようだった。
 実際、『模擬店』そのものが魔法のアイテムだ。

『校長室』に設置された宝箱は、迷宮のテーマに沿ったアイテムを具現化する特殊装置。
 膨大なマナポイントと、演出家のセンスが必要だが——
 その価値は、今ここにある。

「はふっ、はふっ!」

 一仕事終えた一葉——
『妖怪:どうもこうも(薬師堂ここも)』が、熱そうに、幸せそうに、たこ焼きを頬張っている。

 その姿を見ているだけで、
 この模擬店が『正しい形』で存在していることが分かった。

『どうもこうも』という妖怪は、伝承にも残っている。
 名医同士が腕比べをし、互いの頭を切り合い、
 結局『どうもこうもならなかった』という戒めの物語。
 それを聞いた一葉は笑っていた。

「それ、私のことじゃない」

 そう言って笑った。
 でも、その笑いは——
 ほんの少しだけ、泣きそうだった。

『薬師堂ここも』という名は、薬師如来から借りた。
 お堂で薬を用意し、本人が気づかないような傷すらも「ここも」と治す。
 そんな意味を込めて名付けた。

「へい、お待ち!」
 店主が声を上げる。
 カルマが受け取ったたこ焼きは、湯気を立てていた。

「……夢って、こういうことなのか」
 63階層。
 かつて死闘があった場所。
 その同じ場所で今、『生きるための夢』が焼かれている。

 たこ焼きの丸さ。
 焦げ目の香ばしさ。
 店主の笑顔。

 それは、罪の先にある『けじめ』の形だった。
 カルマはもう一つたこ焼きを口に運び、
 満足げに頷いた。

『うん。うまい』
 その頷きは、味を評価したものではなく——
 一葉が、まだ人間でいられる証を確かめた
 そんな頷きだった。

 退避と追跡行の脱落者=生徒2  教師6
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