『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』

葉月奈津・男

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レーディング15(R15)・表現深化バージョン~刺激的な表現を含みます

第189話 待ち伏せ ~激突~ 前編

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 石壁に囲まれた薄暗い通路を、生徒たちは息を切らしながら駆けていた。
 モンスターの気配はない。
 だが、背後から迫る教師の足音が、何よりも恐ろしかった。

「このまま走り続ければ・・・!」
 なんとかなる!
 誰かがそう叫んだ。
 希望のような言葉だった。
 だがその瞬間、空気が裂けるような音が響いた。

 ヒュッ——。

 風を切る鋭い音。
 そして、女子生徒の一人が突然のけぞるようにして後方へ吹き飛んだ。
 彼女の胸には、鋼鉄の矢が深々と突き刺さっていた。

「っ・・・!」
 誰もが言葉を失った。
 彼女の瞳は驚愕に見開かれ、口元は何かを言いかけたまま動かない。
 赤いリボンが血に染まり、静かに揺れていた。

 矢は、前方から飛んできた。

「待ち伏せ?!」
 誰かが叫んだ。

 だが、そんなはずはない。
 教師たちは後方にいたはずだ。
 なのに、なぜ——。

「そうか・・・誘導されていたんだ」
 男子生徒が低くつぶやいた。

 最短ルートを避けるように仕向けられ、気づかぬうちに遠回りさせられていた。
 その間に、追手の一部が回り込んでいたのだ。

 進行方向には、暗がりの中に黒い影が立っていた。
 その手には、次の矢がすでに番えられている。

「くっ・・・!」
 生徒たちは再び走り出す。
 だが、もはや逃げ道は一つしかなかった。
 罠の中で、彼らは次の選択を迫られていた——。


 道を逸れたことで、矢を射た待ち伏せとの衝突は回避された。
 だが、安心する間もなく、最後尾にいた生徒が声を上げた。

「止まって!」

 その言葉に、前を走っていた者が振り返る。

「止まってどうする! 追いつかれるぞ!」

 声は抑えていたが、怒鳴るような勢いだった。
 だが、最後尾の生徒は冷静に言葉を続ける。

「このままだと、すぐにまた待ち伏せがある。なら、逆にこっちが待ち伏せしたらどう?」

 一瞬、沈黙が走る。
 それは、追手を片付けようという提案だった。

「それは・・・」
 誰かがつぶやいた。
 逡巡の気配が、通路に広がる。
 逃げるべきか、戦うべきか——誰もが迷っていた。

 だが。

「やろう」

 短く、しかし強く響いたその声に、皆が振り向く。
 言ったのは、弓で命を絶たれた女子生徒と親しかった者だった。
 彼の瞳には、怒りと悲しみ、そして覚悟が宿っていた。

 あの一瞬の死が、彼らに決断を迫った。
 逃げるだけでは、守れないものがある。
 ならば——今度は、こちらが仕掛ける番だ。

 広めの空間に、生徒たちは身を潜めていた。
 そして、そこへ追手が入り込んだ——。

「ライト!」

 その瞬間、周囲から一斉に光が放たれる。
 それは単純な『発光魔法』。攻撃力はない。

 だが、詠唱も魔力の溜めも不要。
 使用直前まで、何の予備動作もない。

 だからこそ、予測不能。
 そして、予測していない以上——

 視覚を奪う効果は、確実に発揮される。

 追手たちは、突然の閃光に目を覆い、混乱する。
 その隙に、生徒たちは動き出す。
 罠は、今まさに発動したのだ。

「チッ、子供だましをっ!」

 目くらましを受けたと認識した教師たちは、即座に散った。
 集まったところに魔法でも撃たれれば終わる——探索者の常識だ。
 だからこそ、光の中で動きを分散させた。

 だが——。

「ば、バカ・・・な・・・」

 視界を回復させた教師の一人が、目の前の光景に凍りついた。
 倒れた仲間たち。
 そして、自分に向かって剣を振り下ろす生徒の姿。

 その剣が、迷いなく振り下ろされる。
 そして、それで——終わりだった。

「目くらましなどの感覚失陥系の罠・攻撃を受けると、人は防御を固めたくなる。そこを狙われたら終わる・・・あなたの教えでしたよね?」

 剣に付いた血を、少年は静かに振り払う。
 その瞳には、怒りも悲しみも、もう浮かんでいなかった。

「ちゃんと覚えてましたよ?」

 沈んだ声が、石壁に響く。
 それは、かつての師への答え。
 そして、今の自分の覚悟の証だった。

「私たちは、ヘイトで動くモンスターじゃないしね」
 大盾を持った女生徒が付け加えた。

 モンスター相手なら、分散は正しい判断だ。
 少なくとも『全滅』はしない。
 だけど・・・生徒たちは『ものを考える人間』だった。

 教師たちが光に反応して散った瞬間——それこそが、生徒たちの狙い。

 彼らは、教師たちが分散することを見越して、あらかじめ自分たちの位置を調整していた。 通路の陰、柱の裏、段差の影——それぞれが、剣を抜いて静かに待っていた。

 そして、光が収まったその瞬間。
 彼らは、自ら生徒たちの前に飛び出した後だったのだ。

 待ち構えていた剣が、迷いなく振るわれる。
 それは、逃げる者ではなく、狩る者の動きだった。

 現役で日々探索に明け暮れている生徒たち。
 そして、一線を退き、教鞭をふるうことが日常となっていた教師たち。

 命のやり取りが当たり前となったこの状況で——その差が、じわじわと表に出始めていた。

 教師たちは理論に頼り、動きが単調になっていた。
 だが、生徒たちは柔軟に対応できている。

 仲間の死が、彼らの迷いを塗りつぶしていた。
 恐怖も、疑念も、悲しみも——すべてが、今この瞬間の行動に変わっていた。

 彼らは、もう『教えられる側』ではなかった。
 戦場に立つ者として、覚悟を持って剣を振るっていた。



 退避と追跡行の脱落者=生徒3  教師9
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