『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』

葉月奈津・男

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レーディング15(R15)・表現深化バージョン~刺激的な表現を含みます

第202話 地上へ向かう生徒たち ~傷つける優しさ~ 前編

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 「ねぇ・・・」
 「なに?」
 「どう思う?」
 「なにがよ」
 隊列の最後尾、双子は自分たちにしか聞こえない声で、自分たちにしかわからない会話を始めていた。

 「わかってるでしょ?」
 「考えちゃ、ダメ」
 気がかりを口にする妹。
 意識することすら否定する姉。

 「でも・・・」
 「ダメったら、ダメ!」
 二人はずっと『ソレ』を繰り返していた。
 
『糞球』で固められた状態から助けられてからずっと。
 平常通りに見えているが、それはつまり、二人はおかしくなっていた。
 
 いや・・・それは違う。

 元からおかしかったのだ。
 それは、彼女たちの嗜好が異常だったということではない。
 無関係ではないが、『結果』に過ぎなかった。
 最後の一押しだっただけだ。

 彼女たちはずいぶん前から、精神的ストレスで人格が崩壊寸前だった。
 『何か』にやたら夢中で奔放に見えたのは、刺激に依存していたからだ。
 だからこその、ちょっと価値観の壊れた際どい発言だった。

 そこに、フンコロガシの『糞球』に押し込まれ、転がされ、放置された。
 壊れかけていた精神が、打撃を受けるのに十分なストレスがかかったのだ。

 だから、二人の精神はこの時完全に崩壊していた。
 今、彼女たちを動かしているのは、緊急回避的に生じた別人格だ。

 変わり者として距離を置かれる存在ではなく、普通でいよう。
 そんな思いから生まれた人格だった。
 
 理性的ではあるが、逆に言えば『それだけ』の存在。
 感情や思考というものがほとんど機能していない。
 なにかを考えているような会話をしつつ、全く前に進まないのはそのせいだ。


 探索者たちは、教師の追撃を避けながら通路を進んでいた。
 足音と息遣いだけが響く中、ひとりが転倒し、床に手をついた瞬間——擦りむいた腕から赤が滲んだ。

「・・・っ」

 誰もが立ち止まることをためらう中、最後尾にいた双子が静かに歩み寄る。
 妹は無言でしゃがみこみ、傷口にそっと手を添えた。
 その手は冷たくも温かくもなく、ただ“濡れて”いた。

 姉は微笑む。
 その笑顔は、どこか懐かしくて、どこか遠い。

「大丈夫? 頑張れる?」

 その言葉に、探索者は一瞬だけ安心しかける。
 だが、次の瞬間——

 傷口が、広がった。
 痛みが、増した。

 探索者は目を見開き、息を呑む。

「・・・え?なに・・・これ・・・痛っ・・・!」

 腕を引こうとするが、妹の手は離れない。
 濡れた掌が、まるで“吸い付くように”傷口に触れていた。

「やめて・・・やめて・・・!」
 声が震え、足がもつれ、探索者はその場に崩れ落ちる。

 姉は、微笑んだまま首を傾げる。

「頑張れるって言ったのに・・・崩れちゃったね」

 妹は、無言のまま手を離す。
 その手には、赤く染まった『痛み』が残っていた。

 探索者は、泣きながら腕を抱える。
 痛みは、傷口からではなく、『心の奥』から滲み出していた。

 探索者が崩れ落ちたあとも、双子はその場に立ち尽くしていた。
 妹は、そっと自分の手のひらを見つめる。
 濡れている
 赤く染まっている。
 けれど、それが『なぜ』なのか、わからない。

 姉もまた、倒れた探索者を見下ろしながら、首を傾げた。

「・・・おかしいね。ちゃんと、やったのに」

 空っぽの人格は双子の『かつてのやさしさ』を模倣したつもりだった。
 だけど、これは『知らない』現象だった。

「撫でたよ」
「声もかけたよ」

「優しくしたよね?」
「したよ」

 二人は顔を見合わせる。
 その目は、どこまでも澄んでいて、どこまでも空っぽだった。

「でも、壊れた」
「うん。壊れた」

 妹は、もう一度、自分の手を見た。
 その手が、何かを『引き出した』ことに、うっすらと気づき始めていた。

 姉は、探索者の震える背中を見つめながら、ぽつりと呟く。

「・・・これが、わたしたちの『やさしさ』?」

 妹は、答えなかった。
 ただ、手のひらを見つめたまま、ゆっくりと立ち上がった。

 その瞬間、通路の空気が、わずかに揺れた。

   ◇

 通路の先で転倒した仲間に気づき、数人の探索者が慌てて戻ってくる。

「大丈夫!?」
「誰か、手当を——」

 だが、そこにはすでに双子がいた。
 妹はしゃがみこみ、傷口に手を添えている。
 姉は微笑みながら、優しく声をかけていた。

 その光景に、探索者たちは一瞬ほっとする。

「・・・よかった、手当してくれてる・・・」

 だが——

「・・・やめて・・・痛い・・・やめて・・・!」

 聞こえてきたのは、仲間の苦しみと、停止を訴える声だった。

 探索者たちは顔を見合わせる。
 何かがおかしい。
 手当のはずなのに、痛みが増している。
 優しさのはずなのに、崩れていく。

「・・・え? なにしてるの・・・?」

 誰かがそう呟いた瞬間、双子がゆっくりと振り返る。

 妹は、自分の濡れた手を見つめたまま。
 姉は、探索者たちの顔を見て、首を傾げる。

「・・・わたしたち、ちゃんと・・・したよ?」

 その声は、優しくて、無垢で、でもどこか遠かった。
 探索者たちは、痛みにうずくまる仲間を囲みながら、双子の手元を見つめていた。
 妹の手はまだ濡れていて、姉の笑顔は変わらない。

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