悪役貴族転生【女装】悪役令嬢ルート~99通りで断罪される悪役に転生して女装したら死亡フラグが無くなる代わりに周囲の目が怖くなってくんだけど?

あずももも

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4章 女装して路地裏から町を堕とした

59話 良いとこのお嬢様に買い食いを教える悪役貴族

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困った顔で記念硬貨的な――いや、ほんとにそんな見た目なんだ――を見せている彼女へ、聞いてみる。

「それは、お家のお金ですか?」

「……私のおこづかいの中の1枚なんだけど……」

延べ棒をおこづかいにねぇ……ジュリオン様みたいな高位の貴族かな。
それか娘バカなそこそこの貴族、あるいは大商会の娘さん。

「そのお金を使ったことは?」
「え、ええ……あるの……だから、町では使えないだなんて……」

「それはもしかして、屋敷に来る商人の方相手では?」

「で、でも、そのときとか、ちゃんと払えたもん!」

普通の貴族は、町に出たりなんかしない。

必要なものがあればひいきの商人にまとめて買ってきてもらうのが普通で、ジュリオン様な僕もそうしてたはず。

そう思って言ったのが、全部当たっていたらしい。

「恐らく初めて町で買い物をするのだと思いますが……こちらの串焼きは銅貨1枚。白金貨だと……100万本は買えますね。おじさん、たくさん買うとすっごく負けてくれるから」

「えぇ!? ひゃ、ひゃくまん!? 10本とかならまだしも、そ、そんなに私、食べられないわ!? おなかがはじけちゃう!?」

え?

まさかこの子、食べきれるなら食べるつもりだった?

……意外とおもしろい子なのかも。

「……あっはは! 嬢ちゃん、俺も無理だよ! そんなに焼いたら腕がイカれちまう! 町じゅうの肉もなくなっちまうよ!」

「あ……あぅぅ……」

なんかピントのずれた驚き方をされたからか、思わず笑うおじさん。

空気が緩んだおかげで野次馬たちも解散していくみたいだし、誤解も解けたようだ。

けど――そうだよなぁ。

きっと原作のジュリオン様だって、あんな屋敷の中で籠もってないで、こうして外に出てたら。

きっときっと騒ぎとかたくさん起こしただろうけども。
今のこの子みたいなのも、きっとやっただろうけども。

それでも、いろんな人に触れ合えば……もうちょっと幸せな感じになったのかもな。

でも、そんな彼はたぶん死んで、前世の僕が代役を務めている。

なら……この体で、今世の人生を楽しんであげるのもまた、ゲームの中でかわいそうな目にばかり遭っていたジュリオン様への弔いみたいな感じになるのかもね。

もともとことごとくやられ役にされてたもんだから同情もしてたし、実際に転生して養育環境を知ったら……ほんとかわいそうだって思うし。

恵まれた見た目、才能、地位、お金――そのすべてが悪役になるためだけのって知ったらね。

「白金貨以外は?」

「……これを10枚しか……」

ぢゃりんっ。

……延べ棒、あるいはその価値があるプレミアムなコイン×10を、ちょっとかわいい系の袋に入れて、腰にぶら下げて歩いてきたのかぁ……良く無事だったねぇ。

あ、いや。

ちょっと見渡すと……うん、5人くらいか。

きっとこの子の護衛だろう人たちが、ちらちらちらちらと見てきている。
あー、野次馬の中にも2人くらい居たなぁ、って感じの人たちも。

そりゃそうだ、どう見ても明らかにお嬢様だもん。

いざとなったらこの人たちが世話するつもりだったんだろう。

でも、町へのお出かけとかで「お買い物したいわ! 大丈夫、お金は持ってきたもの!」とでも言ってのけた先がここだったのかもね。

上司とか雇い主の娘さんが思いつきとかでわがまま言い出したら……まぁ、ダメ元でとりあえず好きにさせるしかない。

んで、僕とかが来なければそのうちに場を収めるつもりだったんだろう。

串焼きのおじさんには迷惑な話だけども、雇われならしょうがない。
会社勤めだった前世の僕も、深く深くうなずいている。

……良い匂いで僕も小腹が空いたし、ちょうどいいか。

「なら……おじさん、4本お願いします」
「あいよ! 銅貨2枚で良いぜ!」

「……いつも半額くらいにしてくれますけど、それでやってけます?」
「大丈夫だ! 大人からはちゃあんともらってるからな!」

僕も大人――いや、せっかく転生してるんだし、今だけは子供特権ってことで。

熱々の、ちょっと焦げがついた串焼きを4本。
使い古された銅貨2枚と引き換えに受け取り……1本ずつ、その子に手渡す。

塞がった両手には串焼きが湯気を立てて――右のを見て左のを見て、もっかい僕を見てくる彼女。

「………………………………?」

思わず笑っちゃいそうになったけど、我慢我慢。

きょとんと串焼きを見ている彼女へ、僕は言う。

「普段の僕たちは、そのコインの100万分の1くらいの価値しかないお金を使って暮らしているんです。庶民の暮らしは、その程度で普通なんです。ま、僕自身もつい最近知ったので偉そうなことは言えないんですけどね……はふっ」

たぶんこういうのすら食べたことないんだろうなって思って、炭火焼きの串焼きを両手で食べて見せる。

うーん、熱々でおいしい。

「……お皿は」
「こういうのは立ち食いだからおいしいんですよ」

「え、でも、マナーとか……」
「そんなのは貴族しか気にしませんよ」

「嬢ちゃん、そういうの最初から知ってたもんなぁ」
「はい、少しばかり……聞いていましたので」

まぁ僕の中身は庶民だからね。
前世での買い食いの経験とかが活きるだなんて、世の中分からないものだよね。

「……おいしい……」

ぱく、ぱく。

丁寧にひとつずつ、お肉を串から外しながら食べる器用さっていうか几帳面さ。

「んむ、んむ……」

ひとつずつちゃんと味わって、優雅に食べる。

その姿は――たとえ買い食い、立ち食いでも、振る舞いだけで高貴さを演出している。

やっぱ良いとこの子は違うねー。

まぁジュリオン様もそうだから、自然と背筋とか伸びるし指先の動きとかまで無意識でそうなるんだけどさ。

「次からはお家の人に頼んで、もっと小銭を持ってきた方が良いですよ。じゃないと、食べ歩きとか楽しめませんし……少ないおこづかいでどれにしようかって考えるのも、楽しいですから」

「お貴族様がみーんな嬢ちゃんみたいならなぁ……」
「私が変わり者なだけですよ」

女装とかしてるし。

「……あ、あの、お金……」

「良いですよ。おごり――庶民は、友達同士で食べものとかをお互いに分け合ったりするものですから」
「でも……」

両方の串に2個ずつ残ったお肉を見たりしながら、戸惑う彼女。

……結果的に、おせっかい焼いて良かった気がするな。

ほら、この町にも悪徳貴族――悪役貴族ではなく悪徳貴族が出没してるって聞くし。

この子のお父さんがそうとかじゃない――と良いけども、ともかく貴族の1人の彼女が「普通」な感覚を身に付けてくれたら……きっと、この世界はほんのちょっぴりでも良い方向へ傾くはず。

そうしたら僕の死亡フラグも――いや、ないな。

ま、ちょっと良いことするとちょっと良い気持ちになれるってのが報酬ってことで。

「じゃ、次。またどこかで会ったら、何かおごってください。それでいいですよ」

「え、ええ……」

「嬢ちゃん、ありがとな! あとでおまけもつけた分取っとくぜ!」

そうして僕は、たった数分の道草を――串焼き2本を満喫しつつ、みんなと合流すべく道を急ぎだした。

「……そっか、これがあの人の言っていた……」

「?」

振り向くと――初めての買い食いってのを必死に飲み込んでいた彼女が、ぽつと何かをつぶやいていた気がした。
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