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5章 女装して国の裏を堕とした
85話 あれが……お姫さま その1(by リラ)
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「良いか、リラ。手を出しちゃいけないのが、ああいう良い服を着たやつらで……」
「大丈夫だって。あたい、気づかれずに盗むの得意だし、ここの誰よりも速く走れるし!」
「それでもお前、手ぇ抜いて見つかることもあるだろ」
あたいは、物心ついたときから路地裏が家で、町そのものが庭だった。
町の表通りを歩けない――いや、歩けるけどじろじろ見られるし、盗む気がなかったとしても盗まれないようにって警戒されるから居心地が悪いんだ。
それに比べてここ――スラムは居心地が良い。
みんな金も物も持ってないけど、だからこそ毎日の獲物を分け合って……おっきな家族なんだ。
その日食うもんにも困るから、みんなぼろを着て大したものを持っていない。
あたいたちは、おんなじ家族なんだ。
「けほっ、けほっ……」
「……テオ兄貴、この子の病気」
「……東区の孤児院。あそこなら、頼み込めば薬をもらえる……連れてくぞ」
だけど、路地裏の生活は過酷だ。
日が差さないから1年中暗くてじとじとしていて、床も壁も石が冷えてるもんだから、何もしてないとすぐに体の芯から凍えそうになる。
夏でも夜には寒くなる。
それが冬にもなると……。
おまけにあたしたち孤児が住み着いてる場所なんてのは、窓か屋根がない空き家だ――吹き付けてくる風が、冷たいんだ。
――だから、あったかい季節でもみんな、よく病気になる。
食いもんがない日もあるんだから、しょうがねぇんだ。
特に子供のうちは、冬を越せない仲間がたくさん出る。
あたしと仲が良かった子だって、もう何人も――夜に寝たままってことがあった。
「……良いよな、金持ちは。こういうことがないんだから」
テオの兄貴は、頭が良い。
だからまだ10歳なのに、もっと年上のやつらとも難しい話をできるし、なんならそいつらからも頭が良いって褒められてる。
その兄貴が言うんだ、「お貴族様には手ぇ出しちゃいけない」って。
だから獲物はちゃんと吟味しないとな。
◇
「なぁ、兄貴。今日、町でさ、すっげぇ綺麗な女の子が居てよ」
「お前……町中で騒ぎ起こすなって言っただろ」
ちゃりんちゃりんっ。
田舎もんぽかった男が抱えてた、かなりの戦利品だ。
全然警戒するそぶりもなかったし、盗んで離れるまで本人は気づいてなかった。
けど、たまたまあたいのこと見てたやつが騒いじまって……ずっしりだったから思わず逃げちまったんだ。
だって、あたいら孤児は衛兵たちにも見逃されてる存在。
衛兵の中にも結構な割合で、ここの出身のやつらが居る。
でもそれはそれ、これはこれだ。
あんまりでかいタマばっかやってると捕まる。
……分かってたけど、今は金が要るんだ。
「わり。けどよ、フードかぶってたけどそれはもうすげぇのって。思わず息止まっちまったもん。ちらっとだけど、銀色の髪の毛だったような」
「……それ、貴族の中でも王家に近い人だからな。絶対手ぇ出すなよ」
「へー、王家。王さまの家族かぁ……見たことねぇけど」
「そりゃあ、ここは王都からいちばん離れたところだからな」
貴族の女の子。
そんなのあたい、初めて見た。
商家とか格の高い家の女の子ならときどき見るけど、そんなのとは比べられないくらいに顔も髪も綺麗だったんだ。
「あんな綺麗な顔で、家にも金があって……どんな生活してるんだろうな」
「貴族様も金持ちも、相応に教育が厳しいらしいぜ。リラ、お前、朝から晩まで勉強できるか? お淑やかにイスに座ったまんまで」
「あ、無理。やっぱすげぇわ貴族様って」
兄貴は字が読める。
孤児院の授業とか教会のそれで、自力で覚えたんだ。
でもあたいはつまんねぇから分かんねぇ。
けど、金の匂いと金をかっさらうのと金の重さと使い方だけは、兄貴にも負けてねぇんだ。
「……そういや、また最近まとめて子供がさらわれているらしい。リラは心配ないけど、他の子供となるべく一緒に居てやれ」
「まーた変態貴族か。貴族は貴族でもダメな奴はすげぇって言いたくねぇなぁ」
「……ここなら大丈夫だけど、表で言うなよ。侮辱罪ってのがあってだな……」
まーた兄貴のうんちくってのが始まった。
兄貴、頭良いけどそういうのは嫌なんだよなぁ……。
で、なんでも、顔がかわいい子を中心に――町の、普通の子供でも連れ去られる事件が多いらしい。
時間も場所もばらばらだけど、とにかく1人とか2人ではぐれてるときが危ないらしいとか。
「……なぁ兄貴。その変態んとこ行けば、食いもんはもらえるのか?」
「誰も生きて戻ってきていないんだ、間違っても行くなよ」
「分かってるって、冗談だ」
あーあ。
金持ちは何でもできて良いよな。
あたいたち孤児は、その日その食事のことだけで精いっぱいだ。
変態だって何だって良い。
あたいはただ、腹一杯うまいもん食わせてくれて屋根と壁があって、寝るための藁がたくさんある場所で寝かせてくれるんなら、誰のとこだって行っても良いんだ。
こんなガキの体で良いんならいくらでも触ったりして良いから、代わりにいいもん食わせてくれってな。
けど、兄貴も心配するし、なにより病気がちなガキどものために稼がなきゃならない。
……どっかに居ないかなぁ。
あたいは別に変態でもなんでも良いけどよ、ひでぇことしないでくれて腹いっぱい――ガキ共の分も食わせてくれて。
……ときどき寂しくなる夜を抱きしめてくれる、そんな金持ちがさ。
まぁ無理だよな。
寝る前にぼんやり考える、都合の良い夢だってことは分かってるさ。
あたいは、生きるためとはいえ――そこそこの悪いことをさんざんしてきた。
教会の人が言ってた女神様とやらは、きっと、生み出しても知らんぷりで捨てたくせに、悪いことをしたってだけで罰を与えてくるんだろうからな。
◆◆◆
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「大丈夫だって。あたい、気づかれずに盗むの得意だし、ここの誰よりも速く走れるし!」
「それでもお前、手ぇ抜いて見つかることもあるだろ」
あたいは、物心ついたときから路地裏が家で、町そのものが庭だった。
町の表通りを歩けない――いや、歩けるけどじろじろ見られるし、盗む気がなかったとしても盗まれないようにって警戒されるから居心地が悪いんだ。
それに比べてここ――スラムは居心地が良い。
みんな金も物も持ってないけど、だからこそ毎日の獲物を分け合って……おっきな家族なんだ。
その日食うもんにも困るから、みんなぼろを着て大したものを持っていない。
あたいたちは、おんなじ家族なんだ。
「けほっ、けほっ……」
「……テオ兄貴、この子の病気」
「……東区の孤児院。あそこなら、頼み込めば薬をもらえる……連れてくぞ」
だけど、路地裏の生活は過酷だ。
日が差さないから1年中暗くてじとじとしていて、床も壁も石が冷えてるもんだから、何もしてないとすぐに体の芯から凍えそうになる。
夏でも夜には寒くなる。
それが冬にもなると……。
おまけにあたしたち孤児が住み着いてる場所なんてのは、窓か屋根がない空き家だ――吹き付けてくる風が、冷たいんだ。
――だから、あったかい季節でもみんな、よく病気になる。
食いもんがない日もあるんだから、しょうがねぇんだ。
特に子供のうちは、冬を越せない仲間がたくさん出る。
あたしと仲が良かった子だって、もう何人も――夜に寝たままってことがあった。
「……良いよな、金持ちは。こういうことがないんだから」
テオの兄貴は、頭が良い。
だからまだ10歳なのに、もっと年上のやつらとも難しい話をできるし、なんならそいつらからも頭が良いって褒められてる。
その兄貴が言うんだ、「お貴族様には手ぇ出しちゃいけない」って。
だから獲物はちゃんと吟味しないとな。
◇
「なぁ、兄貴。今日、町でさ、すっげぇ綺麗な女の子が居てよ」
「お前……町中で騒ぎ起こすなって言っただろ」
ちゃりんちゃりんっ。
田舎もんぽかった男が抱えてた、かなりの戦利品だ。
全然警戒するそぶりもなかったし、盗んで離れるまで本人は気づいてなかった。
けど、たまたまあたいのこと見てたやつが騒いじまって……ずっしりだったから思わず逃げちまったんだ。
だって、あたいら孤児は衛兵たちにも見逃されてる存在。
衛兵の中にも結構な割合で、ここの出身のやつらが居る。
でもそれはそれ、これはこれだ。
あんまりでかいタマばっかやってると捕まる。
……分かってたけど、今は金が要るんだ。
「わり。けどよ、フードかぶってたけどそれはもうすげぇのって。思わず息止まっちまったもん。ちらっとだけど、銀色の髪の毛だったような」
「……それ、貴族の中でも王家に近い人だからな。絶対手ぇ出すなよ」
「へー、王家。王さまの家族かぁ……見たことねぇけど」
「そりゃあ、ここは王都からいちばん離れたところだからな」
貴族の女の子。
そんなのあたい、初めて見た。
商家とか格の高い家の女の子ならときどき見るけど、そんなのとは比べられないくらいに顔も髪も綺麗だったんだ。
「あんな綺麗な顔で、家にも金があって……どんな生活してるんだろうな」
「貴族様も金持ちも、相応に教育が厳しいらしいぜ。リラ、お前、朝から晩まで勉強できるか? お淑やかにイスに座ったまんまで」
「あ、無理。やっぱすげぇわ貴族様って」
兄貴は字が読める。
孤児院の授業とか教会のそれで、自力で覚えたんだ。
でもあたいはつまんねぇから分かんねぇ。
けど、金の匂いと金をかっさらうのと金の重さと使い方だけは、兄貴にも負けてねぇんだ。
「……そういや、また最近まとめて子供がさらわれているらしい。リラは心配ないけど、他の子供となるべく一緒に居てやれ」
「まーた変態貴族か。貴族は貴族でもダメな奴はすげぇって言いたくねぇなぁ」
「……ここなら大丈夫だけど、表で言うなよ。侮辱罪ってのがあってだな……」
まーた兄貴のうんちくってのが始まった。
兄貴、頭良いけどそういうのは嫌なんだよなぁ……。
で、なんでも、顔がかわいい子を中心に――町の、普通の子供でも連れ去られる事件が多いらしい。
時間も場所もばらばらだけど、とにかく1人とか2人ではぐれてるときが危ないらしいとか。
「……なぁ兄貴。その変態んとこ行けば、食いもんはもらえるのか?」
「誰も生きて戻ってきていないんだ、間違っても行くなよ」
「分かってるって、冗談だ」
あーあ。
金持ちは何でもできて良いよな。
あたいたち孤児は、その日その食事のことだけで精いっぱいだ。
変態だって何だって良い。
あたいはただ、腹一杯うまいもん食わせてくれて屋根と壁があって、寝るための藁がたくさんある場所で寝かせてくれるんなら、誰のとこだって行っても良いんだ。
こんなガキの体で良いんならいくらでも触ったりして良いから、代わりにいいもん食わせてくれってな。
けど、兄貴も心配するし、なにより病気がちなガキどものために稼がなきゃならない。
……どっかに居ないかなぁ。
あたいは別に変態でもなんでも良いけどよ、ひでぇことしないでくれて腹いっぱい――ガキ共の分も食わせてくれて。
……ときどき寂しくなる夜を抱きしめてくれる、そんな金持ちがさ。
まぁ無理だよな。
寝る前にぼんやり考える、都合の良い夢だってことは分かってるさ。
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