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5章 女装して国の裏を堕とした
84話 双子の姉になった
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「遅くなりまして踏んでくださいませユリア様」
すっ。
あれからしっかり踏んでやったのが良かったのか、それとも破壊された脳回路は壊れた電化製品がごとくに衝撃を与えると一時的に復活するのか。
目の前には、太ってもいるしちょっと前髪も後退はしているけども、そうでなかったときはきっとイケメンだったんだろうなって40代のおじさん。
さっきまでのが変態おっさんだったとすれば、こっちは貴族のおじさん。
汗とかいろんなのでえらいことになってた服もお風呂に入ったことで別のになっていて――その、普通にまともで常識的な貴族になっている。
この人……誰?
「……蔑みと哀れみを含んだ、その視線……ぶひっ」
「特別なものは含めていません」
あ、あの変態おじさん――いや、おっさんだった。
「つまりユリア様はセレスティーヌ様の生まれ変わりとして、あまねく生命を悦ばせるためにお生まれになったと」
「何の話ですか」
あと、このおじさん。
……幼い母さんがやらかしたせいか、なぜか僕と死んだ母さんを同一視してるっぽい。
いやいや、年齢的にありえないから。
かすかだけどジュリオン様としてもママンにお世話されてた記憶はあるから。
「こほん。では引き続き、王国を陰から支えてください。これまでの詳細な報告、及び以後のそれは定期的に屋敷へ――『弟のジュリオン』へ送るように」
「お任せくださいませ」
貴族らしい一礼をしているおじさん。
……今の僕はそういうのすらまだ仕込まれてない歳だから、この場だけを何も知らない人が見れば普通にこのおじさんの方がまともな貴族だよなぁ……僕、女装してるし。
「ですが、驚きましたぞ。デュクロワ様のご子息、弟様が『実は男女の双子』であらせられたとは」
「他言無用です」
「もちろんでございます。この場に居るものも契約魔法で縛りましょうか」
「……いえ、母上が信頼した貴方の教育を信じま――」
「ぶっひぃ!! 信用してくださる! ああ! ああ!!」
「………………………………」
豚さんに戻ったおじさんが、ぶるぶるぶると震えている。
ああ、まーた液体を振りまいてる。
この人はもうダメだ、いちいち発狂しないと済まないんだから。
――僕が、「ユリア」が「ジュリオン」の「双子の姉」。
使用人さんたちと話し合った結果、表向きはこうするしかないよねってなった。
少なくとも、僕の地盤が――このあと何年後に家を守っていた父さんと兄さんが遠征かなんかで死んじゃって、まっさらな状態で受け継ぐことになって液状化を起こしそうな地盤。
戦力的にも政治的にも、絶対王都から誰か信頼できる人を派遣してもらうべきレベルの大惨事――それを、少なくともゲームの描写ではジュリオン様が仕切っていたんだ。
けれども、確か婚約者の子にジュリオン様がやらかしちゃったのが尾ひれつきまくって拡散されてるから、ただでさえ事前評判も最悪になってるジュリオン様だ。
それがさらに、王国中の教会や聖職者、純粋な民衆全部に対し中指を立てて歩くような格好、女装をしていたと知れたら?
原作のようにぼんくらぼんぼんでも一応は男として、多分表向きにはそつなく貴族当主してただろうジュリオン様が、今は女装しているんだ。
地盤ごと、絶対ずぶずぶと沈み込む。
間違いはない。
使用人さんたちは「大丈夫だと思いますが」「大丈夫ですね」「ジュリオン様は少々ご自身の魅力を過小評価なされているのでは?」「踏んでください、はあはあ」など、あくまで亡き母さんへのリップサービスで僕を持ち上げてはくれている。
だけど、そんなのは領の外に出たら無効化される。
この世界は不条理なんだ、僕を油断させようという罠に決まっている。
学園編まで生き延びたとしても、そこで当主である僕が長くて3年間家を不在にするあいだに貴族同士のなんちゃらでなんかこう大変なことになって、結局死ぬことになる。
間違いはない。
ジュリオン様の死亡率は雑魚モンスターよりも高いんだ。
そんなわけで――すでに僕がジュリオンだって知ってる一部の人以外、このことは秘密に。
そして僕は「訳あって双子の弟を表に出させ、自分は居なかったことにしているセレスティーヌ母さんの娘」だ。
……なお男女の双子の場合、遺伝子的に同じ顔になるのかどうかとかいろいろなことは、中世かつ大抵の難問は魔法でごり押しできちゃうこの世界ではなかったことにされている。
そもそも現代科学全盛な前世生まれの僕だって聞きかじりの知識は曖昧なんだ、追及されないんならそういうことにしとけば楽で良いよね。
僕ももう考えたくないし。
なんにも考えない石にでもなりたいんだ。
まぁ実際魔法の力で何とかなりそうな気はするし。
ほら、魔力の性質で髪と目の色が変わる世界だし。
「やはりユリア様は、あのお姫様の……!」
「わたくし、今日ここへ来て良かったですわ!」
「ユリア様は重い運命を背負いながら……ふぅ。また少々お手洗いに行って参りますわ」
そんな話には貴族出身のモブ子ズがいちばん反応し。
「やっぱり、アクヤクレイジョウ……ぼく、夢でも見てるんじゃ……」
ルーシーちゃんはなにやらぶつぶつといつも通りで。
「すー……すー……」
「ユリア様に踏んでもらうためには、捨てられないように期待に応えられる仕事をしつつ、ミスしても問題ない仕事で失敗して……」
なんか知恵熱出しちゃったっぽいおでこちゃんをお兄ちゃんが背負っていて。
「さすユリです!」
「さすユリですね」
デイジーさんはうちの使用人さんたちと仲が良くなっていて。
「……あの、あなたは引き続きモルテール子爵の」
「ユリア様にお仕えします」
「でも」
「お仕えします」
……メイドお姉ちゃんは、なぜかクラシックなメイド服に着替えた上で、うちの使用人さんたちとともに僕を囲っていた。
なんでだろうね。
「聞けば、3年ほど子供たちの面倒を見て教育と躾をされていたと」
「でしたら、本日ジュ――リア様が拾いました子供たちの担当に適切かと」
ああ、そうだよね。
リラちゃんたちが居るとはいえ、普段のお世話に人、割かなきゃだもんね。
つまり?
――この子が家に来るのは、僕のせいで決定づけられている。
「着てこられたときのお召し物へ着替えられますか?」
「いえ……もう外套を羽織るだけにします」
貴族の着替えは、基本、使用人にさせるもの。
だけども……せめて。
せめて、ジュリオン様として慣れ親しんでいて、僕が女装してる情けない男って知っていて、僕をあわあわ洗ったりしてすでに見られている――ずっと年上の人たちの方が……ね?
すっ。
あれからしっかり踏んでやったのが良かったのか、それとも破壊された脳回路は壊れた電化製品がごとくに衝撃を与えると一時的に復活するのか。
目の前には、太ってもいるしちょっと前髪も後退はしているけども、そうでなかったときはきっとイケメンだったんだろうなって40代のおじさん。
さっきまでのが変態おっさんだったとすれば、こっちは貴族のおじさん。
汗とかいろんなのでえらいことになってた服もお風呂に入ったことで別のになっていて――その、普通にまともで常識的な貴族になっている。
この人……誰?
「……蔑みと哀れみを含んだ、その視線……ぶひっ」
「特別なものは含めていません」
あ、あの変態おじさん――いや、おっさんだった。
「つまりユリア様はセレスティーヌ様の生まれ変わりとして、あまねく生命を悦ばせるためにお生まれになったと」
「何の話ですか」
あと、このおじさん。
……幼い母さんがやらかしたせいか、なぜか僕と死んだ母さんを同一視してるっぽい。
いやいや、年齢的にありえないから。
かすかだけどジュリオン様としてもママンにお世話されてた記憶はあるから。
「こほん。では引き続き、王国を陰から支えてください。これまでの詳細な報告、及び以後のそれは定期的に屋敷へ――『弟のジュリオン』へ送るように」
「お任せくださいませ」
貴族らしい一礼をしているおじさん。
……今の僕はそういうのすらまだ仕込まれてない歳だから、この場だけを何も知らない人が見れば普通にこのおじさんの方がまともな貴族だよなぁ……僕、女装してるし。
「ですが、驚きましたぞ。デュクロワ様のご子息、弟様が『実は男女の双子』であらせられたとは」
「他言無用です」
「もちろんでございます。この場に居るものも契約魔法で縛りましょうか」
「……いえ、母上が信頼した貴方の教育を信じま――」
「ぶっひぃ!! 信用してくださる! ああ! ああ!!」
「………………………………」
豚さんに戻ったおじさんが、ぶるぶるぶると震えている。
ああ、まーた液体を振りまいてる。
この人はもうダメだ、いちいち発狂しないと済まないんだから。
――僕が、「ユリア」が「ジュリオン」の「双子の姉」。
使用人さんたちと話し合った結果、表向きはこうするしかないよねってなった。
少なくとも、僕の地盤が――このあと何年後に家を守っていた父さんと兄さんが遠征かなんかで死んじゃって、まっさらな状態で受け継ぐことになって液状化を起こしそうな地盤。
戦力的にも政治的にも、絶対王都から誰か信頼できる人を派遣してもらうべきレベルの大惨事――それを、少なくともゲームの描写ではジュリオン様が仕切っていたんだ。
けれども、確か婚約者の子にジュリオン様がやらかしちゃったのが尾ひれつきまくって拡散されてるから、ただでさえ事前評判も最悪になってるジュリオン様だ。
それがさらに、王国中の教会や聖職者、純粋な民衆全部に対し中指を立てて歩くような格好、女装をしていたと知れたら?
原作のようにぼんくらぼんぼんでも一応は男として、多分表向きにはそつなく貴族当主してただろうジュリオン様が、今は女装しているんだ。
地盤ごと、絶対ずぶずぶと沈み込む。
間違いはない。
使用人さんたちは「大丈夫だと思いますが」「大丈夫ですね」「ジュリオン様は少々ご自身の魅力を過小評価なされているのでは?」「踏んでください、はあはあ」など、あくまで亡き母さんへのリップサービスで僕を持ち上げてはくれている。
だけど、そんなのは領の外に出たら無効化される。
この世界は不条理なんだ、僕を油断させようという罠に決まっている。
学園編まで生き延びたとしても、そこで当主である僕が長くて3年間家を不在にするあいだに貴族同士のなんちゃらでなんかこう大変なことになって、結局死ぬことになる。
間違いはない。
ジュリオン様の死亡率は雑魚モンスターよりも高いんだ。
そんなわけで――すでに僕がジュリオンだって知ってる一部の人以外、このことは秘密に。
そして僕は「訳あって双子の弟を表に出させ、自分は居なかったことにしているセレスティーヌ母さんの娘」だ。
……なお男女の双子の場合、遺伝子的に同じ顔になるのかどうかとかいろいろなことは、中世かつ大抵の難問は魔法でごり押しできちゃうこの世界ではなかったことにされている。
そもそも現代科学全盛な前世生まれの僕だって聞きかじりの知識は曖昧なんだ、追及されないんならそういうことにしとけば楽で良いよね。
僕ももう考えたくないし。
なんにも考えない石にでもなりたいんだ。
まぁ実際魔法の力で何とかなりそうな気はするし。
ほら、魔力の性質で髪と目の色が変わる世界だし。
「やはりユリア様は、あのお姫様の……!」
「わたくし、今日ここへ来て良かったですわ!」
「ユリア様は重い運命を背負いながら……ふぅ。また少々お手洗いに行って参りますわ」
そんな話には貴族出身のモブ子ズがいちばん反応し。
「やっぱり、アクヤクレイジョウ……ぼく、夢でも見てるんじゃ……」
ルーシーちゃんはなにやらぶつぶつといつも通りで。
「すー……すー……」
「ユリア様に踏んでもらうためには、捨てられないように期待に応えられる仕事をしつつ、ミスしても問題ない仕事で失敗して……」
なんか知恵熱出しちゃったっぽいおでこちゃんをお兄ちゃんが背負っていて。
「さすユリです!」
「さすユリですね」
デイジーさんはうちの使用人さんたちと仲が良くなっていて。
「……あの、あなたは引き続きモルテール子爵の」
「ユリア様にお仕えします」
「でも」
「お仕えします」
……メイドお姉ちゃんは、なぜかクラシックなメイド服に着替えた上で、うちの使用人さんたちとともに僕を囲っていた。
なんでだろうね。
「聞けば、3年ほど子供たちの面倒を見て教育と躾をされていたと」
「でしたら、本日ジュ――リア様が拾いました子供たちの担当に適切かと」
ああ、そうだよね。
リラちゃんたちが居るとはいえ、普段のお世話に人、割かなきゃだもんね。
つまり?
――この子が家に来るのは、僕のせいで決定づけられている。
「着てこられたときのお召し物へ着替えられますか?」
「いえ……もう外套を羽織るだけにします」
貴族の着替えは、基本、使用人にさせるもの。
だけども……せめて。
せめて、ジュリオン様として慣れ親しんでいて、僕が女装してる情けない男って知っていて、僕をあわあわ洗ったりしてすでに見られている――ずっと年上の人たちの方が……ね?
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