α主人公の友人モブαのはずが、なぜか俺が迫られている。

宵のうさぎ

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幼少期編

猛アプローチ

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 あの日、俺の指に跡をつけると満足そうに笑ったレオンは、俺に「絶対、僕を求めさせてやる」と。そんな宣戦布告めいた発言をした。
 その日から、文字通りレオンの猛攻が始まったのだ。


 

 前と変わらず、一緒に学校に通うのは同じだが、隙を見つける度に接触を増やしてきたのだ。

 授業中、大学の講義室のような教室で、隣に座ったレオンの足が俺の足に触れる。
 ベンチ型の座席なのでそんなに近かっただろうかと思っていたが、すぐにそれは意思を持って俺の足をなぞり始めたので思わず固まった。

 ちらりと隣のレオンに視線を向けると、顔は前に向けたまま。クッと口の端だけを上げて笑ったのだ。

「レオン……ッ」

 小声で抗議をすると、ようやく足が離れていく。

 ちょっと待ってほしい。まさかとは思うが、こんなアプローチがこれから先ずっと続くのか!?


 

 またある時、カフェテリアで可愛い女の子を見かけて、つい癖のように「可愛い」と口にした瞬間。レオンは、誰にも見られないように机の下で俺の手をもてあそんだ。
  
 まだ子どもだからか、節のない柔らかな指が、手の甲をなぞる。
 触れるか触れないかのフェザータッチから、するりと指を絡ませ、気づけばいわゆる恋人つなぎになっていた。
  
 授業中とは違って、ここは全校の視線が集まるカフェテリア。
 優良株のアルファとして注目されている以上、下手に動くこともできない。
  
 そんな俺の手を、レオンがキュッと一度だけ強く握って気を引いた。
 思わず顔を上げると、レオンはその澄んだアイスブルーの瞳に、はっきりと嫉妬を宿して俺を見ていた。
  
「僕とどっちが可愛い?」
「レオン」
  
 考える間もなく口をついた答えに、レオンは満足そうに微笑んだ。
 ……こんなんされたら、誰だって性癖歪むだろ。。



 
 と、まぁ。このように日々レオンからもうアプローチがかけられているわけなんだが。
 もう、ね……。これでも健康な男児なわけですよ、俺も。
 悶々とするものの、レオンをそういう欲の対象としてみようとすれば、言い様のない罪悪感と自己嫌悪の気持ちが湧いてくる。
 だけど、レオンの気持ち自体は嫌なわけではない。むしろそれを嬉しいとさえ思ってしまうから困るのだ。

 どうするべきかなんて、考える余裕もない。
 学校が終われば、レオンは当然のように俺の部屋へとやってくる。
 そして、ふわりとフェロモンを俺に向けてくるのだ。

 ベルガモットやレモンのように爽やかな香り。
 そして、覚えろと言わんばかりに、俺の体を噛むのだ。

「カイル、俺を見て」
「ン……ッ」

 首筋を噛まれ濡れた首筋にレオンの吐息が当たり、ピクリと体を跳ねさせる。
 その反応に気をよくしたレオンはさらに歯を立てた。



 頭の中に、ずっと同じフレーズがリフレインする。

『レオンは親友でなければならない』

 そうでなければ、レオンと一緒にいられない。
 そんな気持ちだけが沸き上がるのだ。



 もうあと少しで幼年学校も卒業する。
 そして、学園に入るまでの間の二年で将来就く職業の適性を見るための訓練期に入る。

 俺は武官だが、レオンは文官だ。どうやったって、しばらく離れることになる。
 今、こんなにもレオンにドキドキするのは、きっと混乱しているんだ。親友が急にアプローチをかけてきたから。
 そのはずだ。そうでなければならない。
 きっと、訓練期で距離を置けばまた元の関係に戻れるはずだ。
 それなのに。



 ……バカか、俺は。
 なぜ、胸の奥がズキズキと痛むんだ。



 ――――――――――


 思った以上にカイルが頑固だ。

 もはや日課のようになっているカイルへのアプローチ。
 カイルの部屋で、二人掛けのソファにカイルを押し倒し、体を噛む。

 あぁ、やっぱり僕はアルファなんだ。
 この、自分よりも強いアルファを組み敷いていることにどうしようもないくらい気分が高揚するのだから。

 威圧する時と比べると弱いフェロモン。しかし、オメガの発情を促すには十分なそれ。
 今僕の下にいるのはオメガではないのに、その状態でカイルに歯を立てる度に充足感を覚える。



「れ、おん……ッ、もういいだろ」

 カイルの体からも、ふわりとフェロモンが発せられる。
 僕の、どちらかと言うと爽やかな匂いとは違い、スパイシーでウッディな香り。
 そこに、カイルの汗の臭いが混じってたまらなくなる。

「まだ……。僕を覚えて、ちゃんと」


 幼年学校を卒業したら、僕は一度宰相である父のいる政務省傘下の部署に入る。
 カイルは、きっと王都の警備をする王都騎士団傘下の訓練騎士団に入るのだろう。
 十五歳になって聖ミレニア学園に入学すれば、また寮生活が始まり一緒に過ごせる。
 でもそれまでは、今のように会うことはできない。


「カイル……っ。僕をその身に刻んで、心の一番深いところに住まわしてくれ」


 

 カイルのギラギラと煌めく金の目には、確かな欲が浮かんでいるのに。
 僕の、こんな身勝手な求愛を拒否しないでいるのに……。
 アルファならば、他のアルファにマウントを取られるような行為を嫌う。
 でも、カイルは僕にそれを許している。それが何よりの証拠だろう。

 それなのに、必ず最後には恐怖の色が滲むのだ。
 カイルの目に滲むその恐怖が、僕を遠ざけている。
 ……まるで、自分自身の中にある何かを恐れているような、そんな目だ。 

 あぁ、もう。本当に。
 我が幼馴染ながら、頑固で理性的で面倒くさい男だ。
 あれこれ考えずに、ただ心のままに僕を求めてくれればいいものを。
 いったいお前は何を見ているんだ?
 僕はこんなにもお前ただ一人を求めていると言うのに……。



「カイル……、僕を見てくれ」
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