α主人公の友人モブαのはずが、なぜか俺が迫られている。

宵のうさぎ

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青年期編

密会

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 レオンの告白から時が経ち、幼年学校を卒業した俺たちは大人に片足を突っ込んだ年齢へ突入した。

 貴族子女は幼年学校を卒業した後、十五歳で聖ミレニア学園に入るまでの二年間、将来の進路に合わせた場所で見習いとして働く。
 これは貴族社会の通過儀礼みたいなもので、学園を卒業すればそのまま働くのが当たり前の世界だからだ。
 学園で専門知識を学ぶ前に、自身の適性を見るための職業体験を兼ねているのだ。
 俺も将来父である統括騎士団長の跡を継ぐ予定なので、王都の外壁内に隣接する王都訓練騎士団に入った。


 王国にはいくつかの騎士団が存在し、王都訓練騎士団とは王都の治安を維持する王都騎士団の下部組織である。
 騎士になるための訓練所。いわば警察学校みたいなもんだ。

 訓練騎士はほとんどが平民で、正騎士になる実力と教養が身に着くまでここで過ごす。
 貴族の場合は学園に入るまでの二年間。将来自分たちがどのような者たちを率いるのか肌で感じろというわけだ。



 訓練騎士に個室はなく、それは侯爵子息である俺も変わらない。
 部屋の左右に鏡合わせのように机やベッドが並んだ二人部屋。この片側が俺個人のスペースだ。
 これが平民になると四人で一部屋をつかうことになる。



 本日の訓練が終わり部屋に戻ると、自室のテーブルの上に俺宛の私信が届いている。

 ペーパーナイフで封を切ると、手紙に香水でも振ったのか。ふわりといい匂いがする。
 ベルガモットやレモンに似たその香りに、パッと顔に血が上った。

 卒業前、わざわざ自分のフェロモンに似た香りに似せた香水を作ったとレオンが言っていたが、なるほどそう言うだけはある。
 この香りを嗅ぐだけで、幼年学校の寮の自室での倒錯的な光景が呼び起こされるほどだ。

 レオンが、その美しい白皙の顔を赤らめて、俺の首や腕に歯を立てるのだ。
 それも、フェロモンを発しながら。「覚えて」と懇願するのだから、たまらない。

 現に、俺は手紙に吹き付けられたレオンのフェロモンに似た香りにその感触を思い出しているのだから、レオンの作戦はうまくいっていると言えるだろう。


「次の休日に会えないか、か……」


 レオンは、将来父親である公爵の跡を継いで宰相を目指すそうなので、今は王宮の宰相府の下働きとして働いている。
 前ほど物理的に側にいられない分、手紙やそれに吹き付けられた香りで交流を続けることになった。

 幼年学校では、レオンからの身体的接触に頭がいっぱいだったのに対し、今はじっくり頭で考える余裕ができたと言うわけだ。


 
 レオンからの逢瀬の誘いが書かれた手紙に指を滑らせる。

 「レオンは、親友でなければならない」

 会わないほうがいい。最近、心の奥底で何かが『ここから出せ!』と喚くのだ。
 でも、これの蓋を開けてしまうと、もう後戻りできなくなる。そんな予感がする。
 

「…………ま、親友なんだし会うくらいはするか」

 意志の弱い男だーれだ。俺です、ハイ。
 いや、だって。五歳からずっと一緒だったんだぞ?すでに、五か月は会えていない。
 最後にあったのは、お互い見習いに入る前だ。会えるんなら会いたいだろ。
「よし、休暇申請するか……」





 休暇申請はつつがなく受理され、俺は訓練騎士団の宿舎から貴族街手前にある上流商業区の一画を訪れた。

「待ち合わせをしているのだが」
「はい、伺っております。どうぞ、こちらです」

 貴族の中でも学園生や成人したばかりの若手が利用するようなサロンカフェ。
 オープンテラスと普通席の他、奥に半個室と、二階には完全個室も備えてある。
 貴族が友人とのおしゃべりはもちろん。お忍びで逢瀬を交わすのにも最適なデートスポットと言うわけだ。

 まぁ?俺の場合は?親友に会うだけだけど?

 と、自分への言い訳を繰り返しながら、家紋の彫られた懐中時計を見せるとそのまま二階の個室へと案内された。



「カイル!」

 部屋に入ると、先に来ていたカイルが立ち上がって出迎えてくれた。
 幼年学校六年時にはすでに声変りが始まり少し落ち着いた声になっていたが、今はもうすっかり低くなっている。
 身長も少し伸びただろうか。顔つきもかなりシャープになって大人に近づいてきているようだ。

 それだけレオンと離れていたのだと、まざまざと見せつけられているようで少し悲しい。

「レオン、会いたかった」

 俺がそう言うと、ぴたりとレオンの動きが止まる。
 固まってしまったレオンに首をかしげながら、ここまで案内してくれた店員に紅茶を頼み扉を閉めた。

「レオン?体調でも悪いのか?」
 
 赤らんだ顔に触れると、いつもよりもやはり少し熱い。それに目も潤んでいる。
 片腕を腰をに回し、その逆の手でレオンの手を掬いソファまで連れていく。
 ソファに力なく座り込んだレオンの前に膝をついて、その顔を下からのぞき込む。

「レオン。仕事でちゃんと休ませてもらえているのか?急に体調を崩すなんて……」
「ちがう……ッ」

 それだけ言うと、両手で顔を覆ってまた固まってしまった。
 

 
 そうこうしているうちに店員が紅茶を持ってきてしまったので、仕方なく給仕はいいからと人払いを頼む。
 それから、俺もレオンの隣に座ってその背中をさする。

 しばらくすると落ち着いたのか、震える声で小さく口を開いた。
 
「お前の声が……ッ、急に低く、なってるから……ッ」
「声?」

 レオンに言われて自身の喉に手を当てる。
 すっかり出っ張った喉仏。確かに低くはなったけれど、そんなに変わっただろうか。
 自分ではわからないな。

 

 首をひねっていると、レオンはそんな俺の反応が不服なのか。俺を睨み上げながらふわりとフェロモンを放ち始めた。
 途端にあの幼年学校の寮での出来事がフラッシュバックし、顔に血が上る。
 赤くなっているであろう俺の顔を見て、ようやくレオンは満足げに笑ったのだった。

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