【エルド学園】俺はこの『親友』が、ただの学生だと思っていた

西園 いつき

文字の大きさ
7 / 13
第二章 親友を追い求める覚悟

◆親友に至るまで(回想)

しおりを挟む
***

王立学園に入学してからというもの、レオンはずっと同じ光景に囲まれていた。

遠巻きの視線。
期待と畏敬が入り混じった、重たい空気。

第一王子、次代の王、才能に恵まれた剣士。

そう呼ばれるたびに、人は距離を測る。
近付き過ぎず、離れ過ぎず、しかし決して対等にはならない。

またか、とレオンは廊下の端で止まり、小さく息を吐いた。
誰かが話しかけようとしては、周囲の目を気にして引き下がる。
期待されるのは嫌いじゃない、期待されない王が国を治めることは出来ないのだから。
けれど――王子である今は、辟易していた。

王子である前に一人の人間として扱われた記憶がほとんどない。
王城の皆はここよりは気安いが、絶対に一線を越えることはない。

そんなある日。
学園の図書室の奥、ひと気のない閲覧席で、彼は『それ』に出会った。


「そこ、間違ってるぞ」


唐突な声。
振り返ると、知らない男子生徒がこちらを見下ろしていた。
黒色の髪、しかし光に反射してほのかに赤く輝く。
切れ長の目は落ち着いていて、大人びている。


「……誰だ?」


反射的に、王子としての声が出た。
だが相手は、眉一つ動かさない。


「血統魔法史の、第三王朝期の系譜、順番が逆だ」


言い切り。
敬語もなければ、取り繕う様子もない。
レオンは一瞬、言葉を失った。


……タメ口?


それだけでも十分異質なのに。
指摘された箇所を見直すと、確かに、間違っている。


「……本当だな」


認めると、相手はあっさり頷いた。


「そこは引っ掛かりやすいところだな」


まるでただの学生同士の会話のように。


「……お前、俺が誰か分かって言っているのか」
「エルド王国第一王子、レオン・エルド・ヴァレンティス」


即答だった、しかも呼び捨て。
知っていて、この態度。


「それで?」
「それで、何だ? 愛称は流石に知らない」


レオ、とかか? なんて恐れ多くも適当にぶっこいている。
そんな様子に、レオンは完全に調子を狂わされた。

壁が、ない。
敬意も畏敬も、期待もない。
王子である自分に対して、線を引いていない。


「お前、名は?」
「ノア。ノア・エルド・フォルティス」


よろしく、と手を差し出してくる。


――なんだコイツ、面白過ぎるだろ。


これがレオンとノアの初対面。
しかしすぐに再会の時はやってくる。

訓練所に着くと、先客がいた。
ノアだ。
少し話して、打ち合うことになる。


「本気で来いよ、手加減は嫌いだ」
「そうか、分かった」


そう言って、本当に手加減しない奴は初めてだったのだ。
剣が弾かれたレオンは、呆然と目の前の男を見た。

誰もが第一王子である俺に遠慮して、手を抜く。
そして言うのだ、流石です、お強いです、自分なんかが敵いません、と。
しかもコイツは。


「手加減するなと言うだけのことはある。だが、踏み込みが浅いな」


バッサリと、俺の欠点を口にした。
そんなことをされた俺はと言うと。


「――お前、今日から俺と毎日打ち合え!!」


きっと、らんらんとした顔で、そう言ったに違いない。

知識も深く、剣術も強い。
なにより壁がなく、肩書ではなく自分自身を見てくれる人間。
初めてだった。

そう勢い込んで言われたノアは、目を何度か瞬かせて。


「構わない。お前となら、良い訓練になりそうだ」


それから訓練所だけではなく、気付けばレオンの方から声をかけていた。
剣の話、歴史の話、政治の話、時にはくだらない話。

ノアは拒まなかった。
媚びることも避けることもなく、当たり前のように隣にいた。

最初は戸惑っていた周囲も、いつの間にか囁きだした。


第一王子の親友だ、と。


しんゆう、親友。
自他ともにそう呼べる相手が出来たことが、ただ嬉しかった。
辟易していた自分が、自ら手を伸ばし、隣に並んだ。
初めて得た、対等な存在。

それが、――ノアだった。


だから。

あの日、帝国艦隊へと向かう背中が、振り返らなかったことが。
隣にいなかったことが。

何よりも、胸を抉ったのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生したのに、ヒーローもヒロインも不在で、拾って育てた執事が最強なんだが……なんで?!

はぴねこ
BL
前世の弟が好きだったゲームの世界に、悪役令息として転生してしまった俺。 本来なら、ヒロインをいじめ、ヒーローが活躍するための踏み台になる…… そんな役割のはずなのに、ヒーローともヒロインとも出会えない。 いじめる対象すら見つけられない新米悪役令息とか、ポンコツすぎないだろうか? そんな俺に反して、子供の頃に拾って育てた執事は超優秀で、なぜか「悪役執事スキル」を着実に磨いている。 ……いや、違う! そうじゃない!! 悪役にならなきゃいけないのは俺なんだってば!!! 

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

王子のこと大好きでした。僕が居なくてもこの国の平和、守ってくださいますよね?

人生2929回血迷った人
BL
Ωにしか見えない一途な‪α‬が婚約破棄され失恋する話。聖女となり、国を豊かにする為に一人苦しみと戦ってきた彼は性格の悪さを理由に婚約破棄を言い渡される。しかしそれは歴代最年少で聖女になった弊害で仕方のないことだった。 ・五話完結予定です。 ※オメガバースで‪α‬が受けっぽいです。

妹に奪われた婚約者は、外れの王子でした。婚約破棄された僕は真実の愛を見つけます

こたま
BL
侯爵家に産まれたオメガのミシェルは、王子と婚約していた。しかしオメガとわかった妹が、お兄様ずるいわと言って婚約者を奪ってしまう。家族にないがしろにされたことで悲嘆するミシェルであったが、辺境に匿われていたアルファの落胤王子と出会い真実の愛を育む。ハッピーエンドオメガバースです。

もう一度、その腕に

結衣可
BL
もう一度、その腕に

【8話完結】僕の大切な人はBLゲームの主人公でした。〜モブは主人公の幸せのためなら、この恋も諦められます〜

キノア9g
BL
転生先は、まさかのBLゲームの世界。 モブであるリセルは、恋を自覚した瞬間、幼馴染・セスがこの世界の“主人公”だと気づいてしまう。 このまま一緒にいても、いつか彼は攻略対象に惹かれていく運命——それでも、今だけは傍にいたい。 「諦める覚悟をしたのに、どうしてこんなにも君が愛おしいんだろう」 恋の終わりを知っているモブと、想いを自覚していく主人公。 甘さと切なさが胸を締めつける、すれ違いから始まる運命の物語。 全8話。

狂わせたのは君なのに

一寸光陰
BL
ガベラは10歳の時に前世の記憶を思い出した。ここはゲームの世界で自分は悪役令息だということを。ゲームではガベラは主人公ランを悪漢を雇って襲わせ、そして断罪される。しかし、ガベラはそんなこと望んでいないし、罰せられるのも嫌である。なんとかしてこの運命を変えたい。その行動が彼を狂わすことになるとは知らずに。 完結保証 番外編あり

処理中です...