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第二章 親友を追い求める覚悟
◆親友に至るまで(回想)
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***
王立学園に入学してからというもの、レオンはずっと同じ光景に囲まれていた。
遠巻きの視線。
期待と畏敬が入り混じった、重たい空気。
第一王子、次代の王、才能に恵まれた剣士。
そう呼ばれるたびに、人は距離を測る。
近付き過ぎず、離れ過ぎず、しかし決して対等にはならない。
またか、とレオンは廊下の端で止まり、小さく息を吐いた。
誰かが話しかけようとしては、周囲の目を気にして引き下がる。
期待されるのは嫌いじゃない、期待されない王が国を治めることは出来ないのだから。
けれど――王子である今は、辟易していた。
王子である前に一人の人間として扱われた記憶がほとんどない。
王城の皆はここよりは気安いが、絶対に一線を越えることはない。
そんなある日。
学園の図書室の奥、ひと気のない閲覧席で、彼は『それ』に出会った。
「そこ、間違ってるぞ」
唐突な声。
振り返ると、知らない男子生徒がこちらを見下ろしていた。
黒色の髪、しかし光に反射してほのかに赤く輝く。
切れ長の目は落ち着いていて、大人びている。
「……誰だ?」
反射的に、王子としての声が出た。
だが相手は、眉一つ動かさない。
「血統魔法史の、第三王朝期の系譜、順番が逆だ」
言い切り。
敬語もなければ、取り繕う様子もない。
レオンは一瞬、言葉を失った。
……タメ口?
それだけでも十分異質なのに。
指摘された箇所を見直すと、確かに、間違っている。
「……本当だな」
認めると、相手はあっさり頷いた。
「そこは引っ掛かりやすいところだな」
まるでただの学生同士の会話のように。
「……お前、俺が誰か分かって言っているのか」
「エルド王国第一王子、レオン・エルド・ヴァレンティス」
即答だった、しかも呼び捨て。
知っていて、この態度。
「それで?」
「それで、何だ? 愛称は流石に知らない」
レオ、とかか? なんて恐れ多くも適当にぶっこいている。
そんな様子に、レオンは完全に調子を狂わされた。
壁が、ない。
敬意も畏敬も、期待もない。
王子である自分に対して、線を引いていない。
「お前、名は?」
「ノア。ノア・エルド・フォルティス」
よろしく、と手を差し出してくる。
――なんだコイツ、面白過ぎるだろ。
これがレオンとノアの初対面。
しかしすぐに再会の時はやってくる。
訓練所に着くと、先客がいた。
ノアだ。
少し話して、打ち合うことになる。
「本気で来いよ、手加減は嫌いだ」
「そうか、分かった」
そう言って、本当に手加減しない奴は初めてだったのだ。
剣が弾かれたレオンは、呆然と目の前の男を見た。
誰もが第一王子である俺に遠慮して、手を抜く。
そして言うのだ、流石です、お強いです、自分なんかが敵いません、と。
しかもコイツは。
「手加減するなと言うだけのことはある。だが、踏み込みが浅いな」
バッサリと、俺の欠点を口にした。
そんなことをされた俺はと言うと。
「――お前、今日から俺と毎日打ち合え!!」
きっと、らんらんとした顔で、そう言ったに違いない。
知識も深く、剣術も強い。
なにより壁がなく、肩書ではなく自分自身を見てくれる人間。
初めてだった。
そう勢い込んで言われたノアは、目を何度か瞬かせて。
「構わない。お前となら、良い訓練になりそうだ」
それから訓練所だけではなく、気付けばレオンの方から声をかけていた。
剣の話、歴史の話、政治の話、時にはくだらない話。
ノアは拒まなかった。
媚びることも避けることもなく、当たり前のように隣にいた。
最初は戸惑っていた周囲も、いつの間にか囁きだした。
第一王子の親友だ、と。
しんゆう、親友。
自他ともにそう呼べる相手が出来たことが、ただ嬉しかった。
辟易していた自分が、自ら手を伸ばし、隣に並んだ。
初めて得た、対等な存在。
それが、――ノアだった。
だから。
あの日、帝国艦隊へと向かう背中が、振り返らなかったことが。
隣にいなかったことが。
何よりも、胸を抉ったのだ。
王立学園に入学してからというもの、レオンはずっと同じ光景に囲まれていた。
遠巻きの視線。
期待と畏敬が入り混じった、重たい空気。
第一王子、次代の王、才能に恵まれた剣士。
そう呼ばれるたびに、人は距離を測る。
近付き過ぎず、離れ過ぎず、しかし決して対等にはならない。
またか、とレオンは廊下の端で止まり、小さく息を吐いた。
誰かが話しかけようとしては、周囲の目を気にして引き下がる。
期待されるのは嫌いじゃない、期待されない王が国を治めることは出来ないのだから。
けれど――王子である今は、辟易していた。
王子である前に一人の人間として扱われた記憶がほとんどない。
王城の皆はここよりは気安いが、絶対に一線を越えることはない。
そんなある日。
学園の図書室の奥、ひと気のない閲覧席で、彼は『それ』に出会った。
「そこ、間違ってるぞ」
唐突な声。
振り返ると、知らない男子生徒がこちらを見下ろしていた。
黒色の髪、しかし光に反射してほのかに赤く輝く。
切れ長の目は落ち着いていて、大人びている。
「……誰だ?」
反射的に、王子としての声が出た。
だが相手は、眉一つ動かさない。
「血統魔法史の、第三王朝期の系譜、順番が逆だ」
言い切り。
敬語もなければ、取り繕う様子もない。
レオンは一瞬、言葉を失った。
……タメ口?
それだけでも十分異質なのに。
指摘された箇所を見直すと、確かに、間違っている。
「……本当だな」
認めると、相手はあっさり頷いた。
「そこは引っ掛かりやすいところだな」
まるでただの学生同士の会話のように。
「……お前、俺が誰か分かって言っているのか」
「エルド王国第一王子、レオン・エルド・ヴァレンティス」
即答だった、しかも呼び捨て。
知っていて、この態度。
「それで?」
「それで、何だ? 愛称は流石に知らない」
レオ、とかか? なんて恐れ多くも適当にぶっこいている。
そんな様子に、レオンは完全に調子を狂わされた。
壁が、ない。
敬意も畏敬も、期待もない。
王子である自分に対して、線を引いていない。
「お前、名は?」
「ノア。ノア・エルド・フォルティス」
よろしく、と手を差し出してくる。
――なんだコイツ、面白過ぎるだろ。
これがレオンとノアの初対面。
しかしすぐに再会の時はやってくる。
訓練所に着くと、先客がいた。
ノアだ。
少し話して、打ち合うことになる。
「本気で来いよ、手加減は嫌いだ」
「そうか、分かった」
そう言って、本当に手加減しない奴は初めてだったのだ。
剣が弾かれたレオンは、呆然と目の前の男を見た。
誰もが第一王子である俺に遠慮して、手を抜く。
そして言うのだ、流石です、お強いです、自分なんかが敵いません、と。
しかもコイツは。
「手加減するなと言うだけのことはある。だが、踏み込みが浅いな」
バッサリと、俺の欠点を口にした。
そんなことをされた俺はと言うと。
「――お前、今日から俺と毎日打ち合え!!」
きっと、らんらんとした顔で、そう言ったに違いない。
知識も深く、剣術も強い。
なにより壁がなく、肩書ではなく自分自身を見てくれる人間。
初めてだった。
そう勢い込んで言われたノアは、目を何度か瞬かせて。
「構わない。お前となら、良い訓練になりそうだ」
それから訓練所だけではなく、気付けばレオンの方から声をかけていた。
剣の話、歴史の話、政治の話、時にはくだらない話。
ノアは拒まなかった。
媚びることも避けることもなく、当たり前のように隣にいた。
最初は戸惑っていた周囲も、いつの間にか囁きだした。
第一王子の親友だ、と。
しんゆう、親友。
自他ともにそう呼べる相手が出来たことが、ただ嬉しかった。
辟易していた自分が、自ら手を伸ばし、隣に並んだ。
初めて得た、対等な存在。
それが、――ノアだった。
だから。
あの日、帝国艦隊へと向かう背中が、振り返らなかったことが。
隣にいなかったことが。
何よりも、胸を抉ったのだ。
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