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第二章 親友を追い求める覚悟
7.親愛なる へ
「……っ」
レオンは自室の扉を閉めた途端、背を預けるようにして立ち尽くした。
胸の奥がざわついている。
怒りなのか、悲しみなのか、混乱なのか、自分でも判別がつかない。
「ノアが……帝国第二皇子」
分かっている、状況証拠が揃い過ぎていた。
帝国第一王子が、『弟』と呼んだのだ。
聞き間違いなど、有り得ない。
「……そんな、はず……」
しかしそれでも、信じたくなかった。
信じてしまえば、今までの時間の全ては、何だったんだ?
図書室での会話も、訓練所での打ち合いも、くだらない話で笑い合ったあの時も。
全部、全部、嘘だったのか?
俺が第一王子だったから、使えると思って、近付いたのか?
そんな考えでずっと、俺の隣にいたのか?
お前は、どんなつもりで。
頭を振る。
違う、と心のどこかで叫んでいる。
信じたい、でも、疑うための証拠が、出揃っている。
そもそも、なぜ第二皇子の存在に誰も気付かなかった?
入学管理局副局長が帝国の内通者だった、それで書類上をクリアしたとして。
もし帝国第二皇子の顔が知られていれば、すぐにバレたはず。
現に第一皇子の顔は、自分でも知っていたのだから。
と言うことは、ノアの、帝国第二皇子の存在は、隠されていた?
なんのために?
他国、王国に潜入させるため?
そんな、ノアが生まれたころから計画されていたことだと?
あの現実効率主義者の帝国が、そんな遠回りなことをするだろうか。
そんな前から、エルド王国とルベド王統との親和を、危惧していたとでも言うのだろうか。
「……そもそも、ルベド王統って、なんなんだよ」
勿論王族として、一般的な知識は持っている。
しかし、自分の持っている知識だけでは、ここまで帝国や他国がルベド王統を注視する理由が分からない。
もしや、王国が持っていない【何か】を、帝国は所持しているのでは……?
「……? これは……?」
ふと、机の上に視線を落とした、その時だった。
積まれた資料の中に、見覚えのある筆跡を見つけた。
いつから置かれていたのか、分からない。
気付かなかったのか、無意識に知らないふりをしていたのか。
手に取る。
――【ルベド王統における血統魔法史と本王国との関係性】
ノアの字だ。
――……でも、そうだな。研究者には、なれないけど。
――このレポートが完成したら、お前にやるよ。
喉が、きゅっと鳴った。
王城の図書室で、血統魔法史のレポートを一緒に書いていた時。
ノアは確かに、そう言っていた。
「……ははっ……侵攻するって、分かってたくせに……」
苦笑とも、泣き笑いともつかない表情が浮かぶ。
研究者なんてなれない。魔法騎士なんてなれない。俺の右腕になんてなれない。
だってアイツは、帝国の第二皇子なのだから。
なんて馬鹿なことを言っていたんだろう、俺は。
滑稽極まりない。
なのに。なのに。
なんでこんな約束まで、守るんだよ。
こんな、日常の、ただの小さな約束まで。
律儀にも、ほどがある。
一、ルベド王統の成立と位置づけ、という題から始まるレポート、もとい基礎報告書。
それに続く、血統魔法の性質や中立共同体の関係、ルベド王統を脅威とみなす理由、そして。
王国へと向けられた、結語。
――以上を踏まえ、本王国が今後も中立共同体の理念を維持するのであれば、
『利用しないこと』以上に、『疑われないこと』が重要となるだろう。
内容は簡潔。
しかし、これは。
これは、どの立場のノアが書いたものだ?
王国としてのノア? それにしては知り過ぎている。
帝国としてのノア? それにしては開示し過ぎている。
じゃあ、どの、ノアだ?
そう思考を巡らせていると、最後のページに視線が止まる。
余白。
そこには短い一文だけが、直筆で、添えられていた。
『親愛なるレオンへ』
「……っ」
呼吸が止まった。
親愛。
親友。
敵になると分かっていたのに。
侵攻が始まるだろうと、分かっていただろうに。
これが、帝国第二皇子としての、ノアが書いたもの?
「……違う」
王国としてのノア? 違う。
帝国としてのノア? 違う。
これは、俺の親友としてのノアが、書いたものだ。
だからこそ、聞かなければならない。
胸の奥で、何かが切り替わる音がした。
逃げてはいけない。
信じるか、どうするのか。
どちらにせよ、直接聞かなければ、始まらない。
俺は顔を上げ、立ち上がる。
迷いは正直、まだある。
だが、覚悟は確かに、生まれていた。
レオンは自室の扉を閉めた途端、背を預けるようにして立ち尽くした。
胸の奥がざわついている。
怒りなのか、悲しみなのか、混乱なのか、自分でも判別がつかない。
「ノアが……帝国第二皇子」
分かっている、状況証拠が揃い過ぎていた。
帝国第一王子が、『弟』と呼んだのだ。
聞き間違いなど、有り得ない。
「……そんな、はず……」
しかしそれでも、信じたくなかった。
信じてしまえば、今までの時間の全ては、何だったんだ?
図書室での会話も、訓練所での打ち合いも、くだらない話で笑い合ったあの時も。
全部、全部、嘘だったのか?
俺が第一王子だったから、使えると思って、近付いたのか?
そんな考えでずっと、俺の隣にいたのか?
お前は、どんなつもりで。
頭を振る。
違う、と心のどこかで叫んでいる。
信じたい、でも、疑うための証拠が、出揃っている。
そもそも、なぜ第二皇子の存在に誰も気付かなかった?
入学管理局副局長が帝国の内通者だった、それで書類上をクリアしたとして。
もし帝国第二皇子の顔が知られていれば、すぐにバレたはず。
現に第一皇子の顔は、自分でも知っていたのだから。
と言うことは、ノアの、帝国第二皇子の存在は、隠されていた?
なんのために?
他国、王国に潜入させるため?
そんな、ノアが生まれたころから計画されていたことだと?
あの現実効率主義者の帝国が、そんな遠回りなことをするだろうか。
そんな前から、エルド王国とルベド王統との親和を、危惧していたとでも言うのだろうか。
「……そもそも、ルベド王統って、なんなんだよ」
勿論王族として、一般的な知識は持っている。
しかし、自分の持っている知識だけでは、ここまで帝国や他国がルベド王統を注視する理由が分からない。
もしや、王国が持っていない【何か】を、帝国は所持しているのでは……?
「……? これは……?」
ふと、机の上に視線を落とした、その時だった。
積まれた資料の中に、見覚えのある筆跡を見つけた。
いつから置かれていたのか、分からない。
気付かなかったのか、無意識に知らないふりをしていたのか。
手に取る。
――【ルベド王統における血統魔法史と本王国との関係性】
ノアの字だ。
――……でも、そうだな。研究者には、なれないけど。
――このレポートが完成したら、お前にやるよ。
喉が、きゅっと鳴った。
王城の図書室で、血統魔法史のレポートを一緒に書いていた時。
ノアは確かに、そう言っていた。
「……ははっ……侵攻するって、分かってたくせに……」
苦笑とも、泣き笑いともつかない表情が浮かぶ。
研究者なんてなれない。魔法騎士なんてなれない。俺の右腕になんてなれない。
だってアイツは、帝国の第二皇子なのだから。
なんて馬鹿なことを言っていたんだろう、俺は。
滑稽極まりない。
なのに。なのに。
なんでこんな約束まで、守るんだよ。
こんな、日常の、ただの小さな約束まで。
律儀にも、ほどがある。
一、ルベド王統の成立と位置づけ、という題から始まるレポート、もとい基礎報告書。
それに続く、血統魔法の性質や中立共同体の関係、ルベド王統を脅威とみなす理由、そして。
王国へと向けられた、結語。
――以上を踏まえ、本王国が今後も中立共同体の理念を維持するのであれば、
『利用しないこと』以上に、『疑われないこと』が重要となるだろう。
内容は簡潔。
しかし、これは。
これは、どの立場のノアが書いたものだ?
王国としてのノア? それにしては知り過ぎている。
帝国としてのノア? それにしては開示し過ぎている。
じゃあ、どの、ノアだ?
そう思考を巡らせていると、最後のページに視線が止まる。
余白。
そこには短い一文だけが、直筆で、添えられていた。
『親愛なるレオンへ』
「……っ」
呼吸が止まった。
親愛。
親友。
敵になると分かっていたのに。
侵攻が始まるだろうと、分かっていただろうに。
これが、帝国第二皇子としての、ノアが書いたもの?
「……違う」
王国としてのノア? 違う。
帝国としてのノア? 違う。
これは、俺の親友としてのノアが、書いたものだ。
だからこそ、聞かなければならない。
胸の奥で、何かが切り替わる音がした。
逃げてはいけない。
信じるか、どうするのか。
どちらにせよ、直接聞かなければ、始まらない。
俺は顔を上げ、立ち上がる。
迷いは正直、まだある。
だが、覚悟は確かに、生まれていた。
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