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第三十六話①『夏祭りに』
しおりを挟む『ねえ嶺歌! 明日夏祭り行こうよ!』
八月に入って一週間程経った頃、友人の古味梨に夏祭りの誘いを受けた。しかし嶺歌は先約があったためこう言葉を返す。
「こみ、悪いんだけど明日は妹と夏祭りの約束してるんだ」
嶺歌は嶺璃の顔を思い浮かべながら古味梨に謝罪した。
誘ってくれた事は素直に嬉しく、すぐに「でもありがとね」と言葉を付け加える。
すると古味梨はこのような提案を申し出てきた。
『じゃあさ嶺璃ちゃんも一緒でいいじゃん! うちらは大歓迎だよーっ!』
「あー、そか! 嶺璃に聞いてみる」
その考えにまで及ばなかった嶺歌は、彼女の提案を一旦保留させてもらうと一度電話を切った。
「嶺璃、明日の夏祭りの事なんだけどさ」
嶺歌はリビングに向かい、ソファでテレビを見ている嶺璃に声を掛ける。
すると嶺璃はいつものように明るい様子でこちらに目を向け「うんれかちゃん何っ!?」と尋ねてきた。
嶺歌は先程の内容を嶺璃に話してから「もちろん断ってもいいんだよ」と最後に言葉を付け足した。元々二人で屋台を見て回る約束であったため、嶺璃の気持ちを優先したかったのだ。
すると嶺璃は嬉しそうに笑顔を見せながら「えーっ! れかちゃんのお友達と会いたいっ! 嶺璃そうしたい!!」と口にした。
「いいの? 無理しなくていいんだからね?」
「全然無理してないよ! わたしれかちゃんの友達も大好きだもん! ちなみに会ったことある人?」
「こみだよ覚えてる? 去年うちに来たかな」
「あっこみちゃん覚えてるよ!!! わーい!!! 会いた~い!!!」
嶺璃は取り繕った様子もなく本気で嬉しそうにそう声を上げてるため、嶺歌もそのままスマホを取り出し古味梨に行けるよとレインを送る。
すると直ぐに彼女の方からも返事が返ってきて、明日の夏祭りの約束が決定された。翌日は夕方の四時、駅前に集合だ。人数は古味梨の他にも数人の女の子が来るようだ。
(一年ぶりの浴衣かあ)
嶺歌は着付けが得意だ。そのため明日は嶺璃と自分の分を着付けする予定である。明日のイベントに気持ちを高鳴らせながらもほんの少しだけ、欲張った考えを頭に思い浮かべる。
(兜悟朗さんにも見て欲しかったな……)
彼はきっと柔らかな笑顔でお似合いですねとそう口にしてくれるのだろう。
嶺歌はそんな妄想をしながらも、翌日の準備を始めてその日を自宅で過ごしていた。
「嶺歌~! こっちこっち! 嶺璃ちゃんも久しぶり~っ!」
「こみちゃん久しぶり!! わたしも着いてきちゃった」
「やっほー、みんな浴衣可愛いね」
嶺歌が嶺璃の手を引いて駅前に集まる三人の友人の元へ到着すると、三人とも笑みを向けながら嶺歌達に手を振って挨拶をしてきた。
全員嶺歌とクラスは違うのだが、廊下で会えば立ち話をするくらいには仲の良い友達である。
「こみが嶺歌ちゃん誘ってくれるって聞いてめっちゃ嬉しかったー! 遊ぶの初めてだよねっ!? てか浴衣めっちゃかわい~! 姉妹で似合ってる!」
三組の積切餡が嶺歌と嶺璃を交互に見ながら嬉しい言葉を口にする。彼女とは学校以外で会う事がこれまでなかったため今回初めての外出であった。
「嶺璃ちゃん初めまして~! お姉ちゃんの友達の三井雪沙だよ~宜しくね」
嶺歌と数回ほど団体で出かけた事のある雪沙は、嶺璃に満面の笑みを向けて妹の小さな頭をそっと撫でる。
嶺璃も嬉しそうに宜しくお願いします! と言葉を返していた。
嶺璃は嶺歌の友人にいつも人懐っこいため、今回連れてきたのは正解だったと四人のやり取りを見ながら強くそう思う。
そうして五人で仲良く駅の改札を出ると、皆でテンションを上げながら祭りの会場へ足を向けるのであった。
「おっ和泉じゃん!!」
夏祭りは夜になる前でも人が多く人気の場所だ。
人混みの中をはぐれないよう嶺璃と手を繋ぎ、皆固まって動いていると唐突に名前を呼ばれる。
低い声であることから青年のものである事が分かり、嶺璃ではなく嶺歌に向けて放たれたものだと瞬時に理解した。
「古町、来てたんだ」
「おおっ!? 他クラス女子じゃん! なんだよお前らも来てたんだな」
そんな風に言って陽気に笑うのは嶺歌と同じクラスの古町嘉斗だった。休み時間に時々会話をする事がある彼と休日に会うのは初めてだ。
古町の性格は明るく顔が広いので、一緒に来ている古味梨や餡、雪沙も知り合いだった。ここにいるメンバーは皆それなりに顔が広いのだ。
「古町ここ遠くなかった? よく来たね~!」
「古町くん一人?」
「いんや、今は別行動なだけで後で落ち合う予定」
そんな会話を目の前の古味梨と雪沙が続けていると古町はチラリと嶺歌に目を当てながら「浴衣めっちゃ可愛いなー」と口にする。
嶺歌は今日の自分に自信を持っていたため「まあね」と言葉を返した。否定するのも変な話だ。
「うわっそれ自分で肯定しちゃうんか!? さすが和泉」
からかってくるような彼のその発言に嶺歌は率直な意見を返す。
「いやあんたが言っといて何言ってんの。あたしは今日自分を可愛くするために着飾ってきたんだから当然でしょ」
「そうだよ嶺歌に謝れー!」
「嶺歌ちゃんの自信満々なとこ、見習いたい~好きっ!」
嶺歌が思ったままに口にするとそれに連なるように同行者からの声が応戦してくる。皆祭りでテンションが上がっているのかいつもよりノリが強い気がする。
それぞれが再び会話を繰り広げる中で嶺歌は一人、兜悟朗の顔を思い浮かべた。
next→第三十六話②
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