お嬢様と魔法少女と執事

星分芋

文字の大きさ
95 / 164

第三十六話②『夏祭りに』

しおりを挟む


兜悟朗とうごろうさんに褒められたかったな)

 嶺歌れかは古町の褒め言葉を無意識に兜悟朗に置き換え、しかしそれが現実ではない事に小さくため息をつく。

 だがそこで脳内はまた別の事に意識が向き始めた。そういえば形南あれなも祭りに来る予定はあるのだろうか。

「れかちゃん、ヨーヨー釣したい! ねえいい? だめ?」

 すると嶺歌の浴衣の裾を引っ張って嶺璃れりがそうお願いをしてきた。

 嶺歌はすぐに笑顔を作りながらいいよと声を出すと未だ会話を続けている古味梨こみり達に目を向けて声を上げる。

「こみ達、悪いけど嶺璃とヨーヨー釣り行ってくるからちょい抜けるわ。後で合流しよ」

「まじ? 俺もヨーヨー釣りしたいから一緒いい?」

 すると予想外に古町の方からそう言葉を掛けられた。

 特段断る理由もないため嶺璃の許可を取るとそのまま三人でヨーヨー釣りのある屋台へ歩き出す。古味梨たちはまた後でねーと明るい調子で快く送り出してくれていた。

「和泉の妹いくつ?」

「小六で今年十二だよ!」

「おー結構とし離れてんのな」

 古町は嶺歌と古町に挟まれるちんまりとした嶺璃に話しかけると、嶺璃も素直な様子で彼の質問に答える。そうして嶺璃は古町にとんでもない言葉を放ち始めた。

「れかちゃんの彼氏候補になる?」

「ええっ!?」

 古町は驚いたのかその一言で嶺璃を凝視する。

「おーい嶺璃、そういうの止めなって」

 途端に嶺歌は嶺璃の頭をコツンと優しく叩く。嶺璃は「ごめんなさいお姉ちゃん」と言いながら嶺歌を見上げていた。

 嶺璃は会う男皆にこのような発言をするのだから困ったものである。恋人持ちの男だったらどうするのだ。

 嶺歌は呆れながらも嶺璃の素直に反省する姿勢を目にして今度は優しく彼女の頭を撫でてやる。

「もうそういうの聞くのなしね。できる?」

 嶺歌れかが少し前屈みになり、嶺璃れりの視線に自身の目を合わせると嶺璃は眉根を下げて反省した様子を見せながらうんと声を漏らした。よし、これでもういいだろう。

「うん。じゃ、気を取り直して行こっか」

 そう言って嶺歌は嶺璃の手を再び握って歩き出す。古町もそのまま着いてきており「仲いいんだなー!」と声を掛けてきた。

 嶺璃との仲の良さを自分でもよく理解していた嶺歌は、それを肯定しながらある事を思いつき「おっそうだ、写真撮ってよ」と彼にスマホを渡す。

 せっかく嶺璃と祭りに来たのだ。嶺璃との記念写真くらいは撮っておきたい。

「おーいいぜ」

 古町は嶺歌達と共に人混みの邪魔にならなさそうな端の方まで足を運ぶと、そのままスマホのシャッター音を鳴らして写真撮影を始めた。

 そうして嶺歌にいい感じに撮れたぞーと笑顔を向けると途端に「ん?」と不思議そうな声を出す。

 そんな彼の様子を見て嶺歌は何だと尋ねると、古町は嶺歌にスマホを見せながらこんな言葉を口に出した。

「いや……すまん、写真確認する時少しフォルダ見えたんだけど、この男誰?」

 古町がそう言って指してきたのは写真に映った兜悟朗とうごろうだ。これは前回の二人きりデートの際に嶺歌が偶然シャッターを押してしまい撮れた奇跡の一枚だった。写真には横顔の見える兜悟朗が一人で写っている。

 消した方がいいのだろうが、偶然にも撮れた兜悟朗のこの写真を嶺歌は毎日大切に見返していた。

 我ながら思うところはあるが、恋をしてしまっている以上このくらいは許してほしいものだ。

 嶺歌は顔が熱くなるのを感じながら古町に返してとスマホの返却を催促した。

「え、何その反応」

 古町は敏感にも嶺歌の態度に気が付きこちらをまじまじと見てくる。

 放っておいて欲しいのだが、嶺璃もいる手前みっともない姿を見せたくはない。

「関係ないでしょ。ほら早く行こうよ」

 そう言って話を逸らすが、嶺歌の顔の熱は治まりそうになかった。

 しかし嶺璃が途端に駆け出し、ヨーヨー釣りの方へと走っていく。

 嶺璃はヨーヨー釣りに意識が向いているのか大はしゃぎの様子で、そんな嶺璃と手を繋いでいる嶺歌も彼女につられ自然と走っていた。

 後ろから古町が着いてくる気配を感じながらも嶺歌はとりあえず話を逸らせたことに安堵し、自身の顔の熱を抑える事に集中していた。

和泉いずみさ、好きな人いる?」

 嶺璃れりがヨーヨーを見事釣りあげ、満足した様子でトイレに行っている間、一時的に二人きりになった古町にそんな質問を投げかけられる。

 嶺歌れかはまたその話題かと再び顔が赤くならないよう注意を払いながら何で? と言葉を返した。

「いや、何となくなー?」

 そう言ってこめかみを掻き出す古町を無視して嶺歌はうちわを取り出し小さく仰ぐ。

 先程街中で配られていたうちわだが、少し仰ぐだけで涼しい風が舞い込んできていた。

 人の熱気と相まって気温も高い事から嶺歌は汗をかいており、涼しげなこの風は暑さを多少和らげてくれている。

 きっと嶺璃も暑いだろう。戻ってきたらタオルで汗を拭ってやろうと思いながら視線を感じて古町の方を見ると、彼はぎこちない様子でこちらに目を向けていた。この空気を、嶺歌は知っている。

「俺、和泉が好きなんだよな」

「…………」

「俺と付き合ってくんね?」

「ごめん」

 古町の告白は何となく予想ができた。

 そうなのではないかと思ったのは先ほど浴衣姿を可愛いと褒められた時なのだが、まさかこの場で告白をされるとは思っていなかった。

 嶺歌は彼に変な期待を持たせないようすぐに謝罪をすると続けて次の言葉を繰り出す。

「好きな人いる。あたしも片想いなの。だから無理。ごめん」

「そうかあ……」

 古町はそれ以上何も言う事はなかった。嶺歌は彼からの好意を嬉しいとは思えない。だがそれと同時に自分に彼を重ねてもいた。

 兜悟朗とうごろうに告白をして振られたらきっと嶺歌は、古町のようにただそうですかと声を返す事しかできないだろう。

 そう思うと古町の勇気を出して告白をしてくれたこの行為が、未来の自分になるのだろうかとそう考えてしまう。

 嶺歌は兜悟朗との進展を望んではいるが、告白をまだ考えてはいない。

 少なくとも彼からの可能性を見出せるまでは、怖くて動けそうになかった。

(振られちゃったら気軽に会えない)

 そう思う自分がいて、勇気を振り絞って告白してくれたであろう古町に気遣いをする事もできぬまま、嶺歌は自分勝手だと理解しながらも尚、兜悟朗の事を考えずにはいられなかった。


第三十六話『夏祭りに』終

            next→第三十七話
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

処理中です...