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穏やかな日常
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あれから、朝比奈真人とは残業のない日は会うようになった。
仕事終わりにムーンバックスで待ち合わせをして、他愛のない話をして、帰り道で腕を組まれる。
二人でスーパーで買い物をし、俺の家でご飯を食べて、映画を観て、ソファでくっついて寝落ちする――それだけで幸せだった。
朝比奈さん…真人は、よく笑うようになった。
大型犬のように甘えたかと思えば、唐突に俺の手を握って、「譲さんの手が好きです」と言ったりする。
ちなみに「唇が好きです」「目が好きです」……あとは、そういうことの最中に「ここが好きです」なんていう、いろんなバリエーションがある。(照れ)
そのたびに心臓が跳ねる。嬉しい。
……けど、俺はまだ“好き”という言葉を口にできていなかった。
真人が特別なのは当たり前で、もう生活の一部みたいな存在なのに、
言葉にした瞬間、何かが壊れてしまうような気がしていた。
今日もそうだった。
二人で思う存分イチャついた後、
「……僕のこと、嫌いじゃないですよね?」
突然そんなことを言われて、思わず吹き出した。
「嫌いなわけないじゃないか!」
「じゃあ……好きです?」
真人は子犬みたいな目で覗き込んでくる。
「……」
答えられなかった。言えば簡単なのに、言えなかった。
「僕ばっかり“好き”って言ってる。……たまには言われたいです」
そう言って、頬を膨らませて顔を背けた。
――可愛い。
それだけで胸が痛くなるほど愛しくて、言葉が喉に詰まる。
でも、それでも、口にできない。
代わりに、肩を抱き寄せて、そっと額にキスをした。
俺は、真人を好きなのに。なのに何故かそれを、言葉にできない。
こんな俺のままでは真人に捨てられるかもしれない。
ふと、拗ねていたはずの真人がカップを手にして言った。
「そういえば、新人の方が入るらしいですね」
「ああ、主任が産休に入るから、その代わりの人だろ?」
「はい。もう来月から休みに入られるみたいで」
「もう産休か~。早いな」
「ですね。主任、仕事早いし正確だから、抜けると痛いですよね」
「確かに。あの人の段取り力、異常だもんな」
「新人の方、かなり大変だと思いますよ。役場の事務って、ちょっと特殊ですし」
「だよな~。あの伝票と申請書の地獄……俺も最初はミスばっかだったわ」
「僕なんて、ひと月くらい“再提出祭り”でしたよ」
「真人でもそうだったの?」
「えぇ、でも、最初だけですよ?」
妙なプライドが可愛い。ふたりで笑い合うと、さっきまでの“恋人”の空気が、いつもの“職場の同僚”に戻る。
だけど、それが妙に心地よかった。
――こうやって、ふつうの会話をして、隣にいる。
その穏やかさが、いちばん幸せなのかもしれない。
「確か女性の方で、二十三歳みたいです」
「詳しいな」
「ふふ、情報通なので。……野々宮さんが学生時代、陸上部だったのも知ってますよ?」
「えっ!? それ、なんで知ってんの!?」
「ふふふ」
朝比奈さんはそう言って、いたずらっぽく笑った。
「だから、腹筋すごいんですよね?」
そう言って、俺のシャツの裾に手を伸ばす。
「ちょ、ちょっと真人っ!」
女の子の悲鳴みたいな声が出て、自分で余計に恥ずかしくなる。
面白がって指先でつんつんと腹をつついてくる。
「やめっ……真人、くすぐったいって!」
俺の抗議を無視して、真人は笑いながらシャツの裾をそっとめくる。
「確認しまーす」
そう言って、彼の指が腹筋をなぞる。
「綺麗ですねー弾力もあるし」
真人の声は冗談めかして響く。
指が腹を滑り、顔が近づく――そして、舌がゆっくり腹を這う。
全身がぞくっと震える。
吐息が肌をかすめ、舌がさらに下へ。
スウェットの端を指で引き下げ、下着が露わになる。
彼の舌は下着越しに、くっきり浮かんだ俺の輪郭をなぞっていく。
真人の目はいたずらに光り、煽るような目線を送る。
俺たちはまた、熱を帯びた夜へと沈んでいった。
仕事終わりにムーンバックスで待ち合わせをして、他愛のない話をして、帰り道で腕を組まれる。
二人でスーパーで買い物をし、俺の家でご飯を食べて、映画を観て、ソファでくっついて寝落ちする――それだけで幸せだった。
朝比奈さん…真人は、よく笑うようになった。
大型犬のように甘えたかと思えば、唐突に俺の手を握って、「譲さんの手が好きです」と言ったりする。
ちなみに「唇が好きです」「目が好きです」……あとは、そういうことの最中に「ここが好きです」なんていう、いろんなバリエーションがある。(照れ)
そのたびに心臓が跳ねる。嬉しい。
……けど、俺はまだ“好き”という言葉を口にできていなかった。
真人が特別なのは当たり前で、もう生活の一部みたいな存在なのに、
言葉にした瞬間、何かが壊れてしまうような気がしていた。
今日もそうだった。
二人で思う存分イチャついた後、
「……僕のこと、嫌いじゃないですよね?」
突然そんなことを言われて、思わず吹き出した。
「嫌いなわけないじゃないか!」
「じゃあ……好きです?」
真人は子犬みたいな目で覗き込んでくる。
「……」
答えられなかった。言えば簡単なのに、言えなかった。
「僕ばっかり“好き”って言ってる。……たまには言われたいです」
そう言って、頬を膨らませて顔を背けた。
――可愛い。
それだけで胸が痛くなるほど愛しくて、言葉が喉に詰まる。
でも、それでも、口にできない。
代わりに、肩を抱き寄せて、そっと額にキスをした。
俺は、真人を好きなのに。なのに何故かそれを、言葉にできない。
こんな俺のままでは真人に捨てられるかもしれない。
ふと、拗ねていたはずの真人がカップを手にして言った。
「そういえば、新人の方が入るらしいですね」
「ああ、主任が産休に入るから、その代わりの人だろ?」
「はい。もう来月から休みに入られるみたいで」
「もう産休か~。早いな」
「ですね。主任、仕事早いし正確だから、抜けると痛いですよね」
「確かに。あの人の段取り力、異常だもんな」
「新人の方、かなり大変だと思いますよ。役場の事務って、ちょっと特殊ですし」
「だよな~。あの伝票と申請書の地獄……俺も最初はミスばっかだったわ」
「僕なんて、ひと月くらい“再提出祭り”でしたよ」
「真人でもそうだったの?」
「えぇ、でも、最初だけですよ?」
妙なプライドが可愛い。ふたりで笑い合うと、さっきまでの“恋人”の空気が、いつもの“職場の同僚”に戻る。
だけど、それが妙に心地よかった。
――こうやって、ふつうの会話をして、隣にいる。
その穏やかさが、いちばん幸せなのかもしれない。
「確か女性の方で、二十三歳みたいです」
「詳しいな」
「ふふ、情報通なので。……野々宮さんが学生時代、陸上部だったのも知ってますよ?」
「えっ!? それ、なんで知ってんの!?」
「ふふふ」
朝比奈さんはそう言って、いたずらっぽく笑った。
「だから、腹筋すごいんですよね?」
そう言って、俺のシャツの裾に手を伸ばす。
「ちょ、ちょっと真人っ!」
女の子の悲鳴みたいな声が出て、自分で余計に恥ずかしくなる。
面白がって指先でつんつんと腹をつついてくる。
「やめっ……真人、くすぐったいって!」
俺の抗議を無視して、真人は笑いながらシャツの裾をそっとめくる。
「確認しまーす」
そう言って、彼の指が腹筋をなぞる。
「綺麗ですねー弾力もあるし」
真人の声は冗談めかして響く。
指が腹を滑り、顔が近づく――そして、舌がゆっくり腹を這う。
全身がぞくっと震える。
吐息が肌をかすめ、舌がさらに下へ。
スウェットの端を指で引き下げ、下着が露わになる。
彼の舌は下着越しに、くっきり浮かんだ俺の輪郭をなぞっていく。
真人の目はいたずらに光り、煽るような目線を送る。
俺たちはまた、熱を帯びた夜へと沈んでいった。
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