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第7章 ゼバーシュの魔女
第98話 基地
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「ワイルドウルフです……!」
エミリスが呟く。
なぜこんなところに?
疑問が湧くが、考えるよりも先に、小屋の中からワイルドウルフが勢いよく2人に向かって飛び出してきた。
――ガッ!
しかし、その突進は途中で止まる。
エミリスが展開していた防御壁に当たって、弾かれたのだ。
「アティアス様、ご安心を。あまり長い時間は無理ですけど、この程度ならすぐに破られたりはしません」
涼しい顔をして彼女が言った。
「ああ……。しかし数が多いな。中からどんどん出てくるぞ……?」
安心しろと言われても、小屋からぞろぞろと出てくるワイルドウルフに取り囲まれるような格好になり、穏やかではいられない。
狼達は彼女の張った防御壁に阻まれて、それ以上近づくことができないでいた。
どんどん数が増え、もう50頭はいるだろうか。あの小さな小屋にそれだけの数が入っていたとは思えないが……?
「どうします? ……これ」
「放置するわけにもいかないよな。やってしまえるか?」
「もちろんです。一発で全滅させてご覧にいれますよ」
「……ほどほどにな」
「はーい」
アティアスの許可を得たエミリスは、先ほどと同じように、アティアスを抱えてそのまま真上に飛び上がった。
ある程度高度を取り、眼下を見下ろす。
ワイルドウルフ達は見上げるようにして様子を窺っているようだ。先ほどよりも数が増えていて、軽く数百頭はいるだろうか。今まで見たことがないほどの大きな群れになっていた。
「それじゃ、いきますね」
軽い調子で左手の手のひらをゆっくりと下に向ける。
彼を抱いている片手が離れることで、アティアスは落ちるのではないかとドキッとしたが、ちゃんと魔力で支えてくれているようだった。
――――!
ほんの少しの間のあと、彼は自分の周囲の空気が変わったことを感じた。全身の毛が逆立つような悪寒が身体を巡る。
それは彼女が放出した魔力を、すぐ間近で感じ取ったからだ、ということに気付いたとき。
眼下で激しい爆発が起こった――。
◆
「……や、やりすぎじゃないか……?」
更地になるどころか、爆発の中心だったところに大穴が開いているほどの爆発だった。あれほどいたワイルドウルフ達は跡形もない。
あまりの威力に呆然としたアティアスが問うと、エミリスは何事もなかったかのような顔を見せる。
「えへへ……。どのくらい威力出せるか試してみたかったんです」
「そ、そうか……。全力出すとこれほどなのか……。城が吹き飛ばせるって言うのも、あながち冗談じゃなさそうだな」
しかしエミリスは更に恐ろしいことをさらっと言った。
「え? いえ、アティアス様に言われたとおり、そんなに力は入れてませんよ? 全力出すとどうなるか私もわからないので……」
アティアスは絶句する。
今の一発だけで、この前のダライの砦くらい粉々になるんじゃないか、と言うほどのものだった。にも関わらず、彼女にとってはまだ全力ではないという。
「そ、そうなのか……。あまり強力な魔法は使うのをやめようか。万が一のとき以外は……」
どこかで歯止めをかけておかないと、後々大変なことになりそうだと感じた。
「はい。わかりました。これ以上はアティアス様のご命令がなければ使わないとお約束します。……私も怖いので」
「そうしてくれると助かる。……じゃ、一度下に降りようか」
「承知しました」
すぐに降下を開始して、程なく地面に降り立つ。
周囲の森は完全に吹き飛ばされ、株元が少し残っている程度だった。
小屋があったところも、更地のようになっている。
「あの小さな小屋にあれだけのワイルドウルフが入っていたとは思えないんだが……」
アティアスはエミリスを連れて、小屋があった辺りに向かう。
「そうですね……。あ、もしかして……」
「どうした?」
彼女が何かに思い当たったようだった。
「いえ、地下に何かあるのかもって……」
「可能性がないことはないが……どう見ても何もないぞ?」
小屋があったところは爆発の余波を受けて、土で埋まってしまっていた。
「土で埋もれているだけかも……。ちょっと掘ってみます」
彼女は呟くと、以前のように魔力で地面を掘り返し始めた。
「あ、やっぱり。階段があるような感じがしますよ?」
掘り進めると、硬いところと柔らかいところが混じっているようで、柔らかい土を除いていくと、地下に続く階段のようなものが現れてきた。
小屋は地上に繋がる入り口を隠すだけの役目をしていたのだと気づく。
「また中からワイルドウルフが出てきたりしてな」
「そうですねぇ。完全に埋まってると探知できないのでわかりませんが……」
彼女は周囲の人や獣を魔力で感知することができるが、あくまで魔力が到達できる範囲に限られる。
僅かな隙間――例えばドアの隙間など――があれば壁の向こうでも大丈夫なのだが、今回のように完全に土で埋まっているような時は感知できなかった。
「でも、何が出てきても大丈夫ですよ。ご安心ください」
「そうだな。……いつもありがとうな」
せっせと穴を掘る彼女に手を伸ばし、後ろから髪を撫でると気持ちよさそうに微笑む。
「穴、繋がりました。……中にはもうワイルドウルフはいないみたいです。でも……」
「……でも?」
「あ、はい。奥の方に何人か人がいるみたいです。どうしましょう……?」
先を急ぐ必要もあるが、この場所の謎をそのままにしておくのも気になった。
彼女はどうするべきか、アティアスに判断を仰ぐ。
「うーん。人とワイルドウルフが一緒にいたってことだよな……。気になるな。急いで調べて、先を急ぐか」
「わかりました。じゃ、入りましょうか。……離れないでくださいね」
「もちろんだ。頼む」
地面をそのまま掘って作ったような階段を2人は降りていく。
深さはかなりあって、地下2階ほどの場所まで降りると、1つの鉄製と思われる大きな扉があった。
開けようとするが鍵が閉まっている。
アティアスは彼女に目配せすると、すぐに鍵を破壊してくれた。
ギィ……
扉を押し開く。
中は真っ暗かと思っていたが、明かりが灯されていた。
「広いな……」
そこには体育館ほどの広さがある、広大なスペースが広がっていた。
そして、大きな檻のようなものが、幾つも置かれていた。
明らかに人為的な場所のように見える。
「誰だ……?」
不意に奥から2人に声がかけられた。
その方向に目を遣ると、部屋の奥に3名の男が立っていた。
その1人が声をかけてきたようだ。
「俺からも問いたい。ここで何をしている?」
アティアスが逆に問う。
「それは答えられないな。……今しがた狼たちを出したばかりのはずだが、どうやってここに入ってきた?」
「ワイルドウルフたちなら、すべて死んでもらいましたよ?」
その問いにはエミリスが代わりに答えた。
「――――!」
男達が息を呑むのがわかった。
震える声で聞き返してくる。
「そ、そんなはずはないだろう……? あれだけの数だぞ……?」
「そう言われましても……。外に出てみればわかると思いますけど」
爆発の音はこの地下深くまでは届かなかったのだ。
彼女の言葉を信じたくはないが、そうは言ってもこの2人が平然と入ってきていると言うことから、信じざるを得ない。
「……それで、結局お前達は何だ……? なんの目的でここに来た?」
ゆっくりとアティアスが答えた。
「俺はアティアス・ヴァル・ゼルムという。特に目的があって来たわけじゃないが、ここからワイルドウルフが出てきたんでな。気になって入っただけだ」
その名前を聞いた男達は顔面を蒼白にして呟いた。
「ゼルムだと……⁉︎ お、お前達があの……!」
エミリスが呟く。
なぜこんなところに?
疑問が湧くが、考えるよりも先に、小屋の中からワイルドウルフが勢いよく2人に向かって飛び出してきた。
――ガッ!
しかし、その突進は途中で止まる。
エミリスが展開していた防御壁に当たって、弾かれたのだ。
「アティアス様、ご安心を。あまり長い時間は無理ですけど、この程度ならすぐに破られたりはしません」
涼しい顔をして彼女が言った。
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安心しろと言われても、小屋からぞろぞろと出てくるワイルドウルフに取り囲まれるような格好になり、穏やかではいられない。
狼達は彼女の張った防御壁に阻まれて、それ以上近づくことができないでいた。
どんどん数が増え、もう50頭はいるだろうか。あの小さな小屋にそれだけの数が入っていたとは思えないが……?
「どうします? ……これ」
「放置するわけにもいかないよな。やってしまえるか?」
「もちろんです。一発で全滅させてご覧にいれますよ」
「……ほどほどにな」
「はーい」
アティアスの許可を得たエミリスは、先ほどと同じように、アティアスを抱えてそのまま真上に飛び上がった。
ある程度高度を取り、眼下を見下ろす。
ワイルドウルフ達は見上げるようにして様子を窺っているようだ。先ほどよりも数が増えていて、軽く数百頭はいるだろうか。今まで見たことがないほどの大きな群れになっていた。
「それじゃ、いきますね」
軽い調子で左手の手のひらをゆっくりと下に向ける。
彼を抱いている片手が離れることで、アティアスは落ちるのではないかとドキッとしたが、ちゃんと魔力で支えてくれているようだった。
――――!
ほんの少しの間のあと、彼は自分の周囲の空気が変わったことを感じた。全身の毛が逆立つような悪寒が身体を巡る。
それは彼女が放出した魔力を、すぐ間近で感じ取ったからだ、ということに気付いたとき。
眼下で激しい爆発が起こった――。
◆
「……や、やりすぎじゃないか……?」
更地になるどころか、爆発の中心だったところに大穴が開いているほどの爆発だった。あれほどいたワイルドウルフ達は跡形もない。
あまりの威力に呆然としたアティアスが問うと、エミリスは何事もなかったかのような顔を見せる。
「えへへ……。どのくらい威力出せるか試してみたかったんです」
「そ、そうか……。全力出すとこれほどなのか……。城が吹き飛ばせるって言うのも、あながち冗談じゃなさそうだな」
しかしエミリスは更に恐ろしいことをさらっと言った。
「え? いえ、アティアス様に言われたとおり、そんなに力は入れてませんよ? 全力出すとどうなるか私もわからないので……」
アティアスは絶句する。
今の一発だけで、この前のダライの砦くらい粉々になるんじゃないか、と言うほどのものだった。にも関わらず、彼女にとってはまだ全力ではないという。
「そ、そうなのか……。あまり強力な魔法は使うのをやめようか。万が一のとき以外は……」
どこかで歯止めをかけておかないと、後々大変なことになりそうだと感じた。
「はい。わかりました。これ以上はアティアス様のご命令がなければ使わないとお約束します。……私も怖いので」
「そうしてくれると助かる。……じゃ、一度下に降りようか」
「承知しました」
すぐに降下を開始して、程なく地面に降り立つ。
周囲の森は完全に吹き飛ばされ、株元が少し残っている程度だった。
小屋があったところも、更地のようになっている。
「あの小さな小屋にあれだけのワイルドウルフが入っていたとは思えないんだが……」
アティアスはエミリスを連れて、小屋があった辺りに向かう。
「そうですね……。あ、もしかして……」
「どうした?」
彼女が何かに思い当たったようだった。
「いえ、地下に何かあるのかもって……」
「可能性がないことはないが……どう見ても何もないぞ?」
小屋があったところは爆発の余波を受けて、土で埋まってしまっていた。
「土で埋もれているだけかも……。ちょっと掘ってみます」
彼女は呟くと、以前のように魔力で地面を掘り返し始めた。
「あ、やっぱり。階段があるような感じがしますよ?」
掘り進めると、硬いところと柔らかいところが混じっているようで、柔らかい土を除いていくと、地下に続く階段のようなものが現れてきた。
小屋は地上に繋がる入り口を隠すだけの役目をしていたのだと気づく。
「また中からワイルドウルフが出てきたりしてな」
「そうですねぇ。完全に埋まってると探知できないのでわかりませんが……」
彼女は周囲の人や獣を魔力で感知することができるが、あくまで魔力が到達できる範囲に限られる。
僅かな隙間――例えばドアの隙間など――があれば壁の向こうでも大丈夫なのだが、今回のように完全に土で埋まっているような時は感知できなかった。
「でも、何が出てきても大丈夫ですよ。ご安心ください」
「そうだな。……いつもありがとうな」
せっせと穴を掘る彼女に手を伸ばし、後ろから髪を撫でると気持ちよさそうに微笑む。
「穴、繋がりました。……中にはもうワイルドウルフはいないみたいです。でも……」
「……でも?」
「あ、はい。奥の方に何人か人がいるみたいです。どうしましょう……?」
先を急ぐ必要もあるが、この場所の謎をそのままにしておくのも気になった。
彼女はどうするべきか、アティアスに判断を仰ぐ。
「うーん。人とワイルドウルフが一緒にいたってことだよな……。気になるな。急いで調べて、先を急ぐか」
「わかりました。じゃ、入りましょうか。……離れないでくださいね」
「もちろんだ。頼む」
地面をそのまま掘って作ったような階段を2人は降りていく。
深さはかなりあって、地下2階ほどの場所まで降りると、1つの鉄製と思われる大きな扉があった。
開けようとするが鍵が閉まっている。
アティアスは彼女に目配せすると、すぐに鍵を破壊してくれた。
ギィ……
扉を押し開く。
中は真っ暗かと思っていたが、明かりが灯されていた。
「広いな……」
そこには体育館ほどの広さがある、広大なスペースが広がっていた。
そして、大きな檻のようなものが、幾つも置かれていた。
明らかに人為的な場所のように見える。
「誰だ……?」
不意に奥から2人に声がかけられた。
その方向に目を遣ると、部屋の奥に3名の男が立っていた。
その1人が声をかけてきたようだ。
「俺からも問いたい。ここで何をしている?」
アティアスが逆に問う。
「それは答えられないな。……今しがた狼たちを出したばかりのはずだが、どうやってここに入ってきた?」
「ワイルドウルフたちなら、すべて死んでもらいましたよ?」
その問いにはエミリスが代わりに答えた。
「――――!」
男達が息を呑むのがわかった。
震える声で聞き返してくる。
「そ、そんなはずはないだろう……? あれだけの数だぞ……?」
「そう言われましても……。外に出てみればわかると思いますけど」
爆発の音はこの地下深くまでは届かなかったのだ。
彼女の言葉を信じたくはないが、そうは言ってもこの2人が平然と入ってきていると言うことから、信じざるを得ない。
「……それで、結局お前達は何だ……? なんの目的でここに来た?」
ゆっくりとアティアスが答えた。
「俺はアティアス・ヴァル・ゼルムという。特に目的があって来たわけじゃないが、ここからワイルドウルフが出てきたんでな。気になって入っただけだ」
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