身寄りのない少女を引き取ったら有能すぎて困る(困らない)

長根 志遥

文字の大きさ
103 / 258
第7章 ゼバーシュの魔女

第98話 基地

しおりを挟む
「ワイルドウルフです……!」

 エミリスが呟く。
 なぜこんなところに?
 疑問が湧くが、考えるよりも先に、小屋の中からワイルドウルフが勢いよく2人に向かって飛び出してきた。

 ――ガッ!

 しかし、その突進は途中で止まる。
 エミリスが展開していた防御壁に当たって、弾かれたのだ。

「アティアス様、ご安心を。あまり長い時間は無理ですけど、この程度ならすぐに破られたりはしません」

 涼しい顔をして彼女が言った。

「ああ……。しかし数が多いな。中からどんどん出てくるぞ……?」

 安心しろと言われても、小屋からぞろぞろと出てくるワイルドウルフに取り囲まれるような格好になり、穏やかではいられない。
 狼達は彼女の張った防御壁に阻まれて、それ以上近づくことができないでいた。
 どんどん数が増え、もう50頭はいるだろうか。あの小さな小屋にそれだけの数が入っていたとは思えないが……?

「どうします? ……これ」
「放置するわけにもいかないよな。やってしまえるか?」
「もちろんです。一発で全滅させてご覧にいれますよ」
「……ほどほどにな」
「はーい」

 アティアスの許可を得たエミリスは、先ほどと同じように、アティアスを抱えてそのまま真上に飛び上がった。
 ある程度高度を取り、眼下を見下ろす。
 ワイルドウルフ達は見上げるようにして様子を窺っているようだ。先ほどよりも数が増えていて、軽く数百頭はいるだろうか。今まで見たことがないほどの大きな群れになっていた。

「それじゃ、いきますね」

 軽い調子で左手の手のひらをゆっくりと下に向ける。
 彼を抱いている片手が離れることで、アティアスは落ちるのではないかとドキッとしたが、ちゃんと魔力で支えてくれているようだった。

 ――――!

 ほんの少しの間のあと、彼は自分の周囲の空気が変わったことを感じた。全身の毛が逆立つような悪寒が身体を巡る。
 それは彼女が放出した魔力を、すぐ間近で感じ取ったからだ、ということに気付いたとき。

 眼下で激しい爆発が起こった――。

 ◆

「……や、やりすぎじゃないか……?」

 更地になるどころか、爆発の中心だったところに大穴が開いているほどの爆発だった。あれほどいたワイルドウルフ達は跡形もない。
 あまりの威力に呆然としたアティアスが問うと、エミリスは何事もなかったかのような顔を見せる。

「えへへ……。どのくらい威力出せるか試してみたかったんです」
「そ、そうか……。全力出すとこれほどなのか……。城が吹き飛ばせるって言うのも、あながち冗談じゃなさそうだな」

 しかしエミリスは更に恐ろしいことをさらっと言った。

「え? いえ、アティアス様に言われたとおり、そんなに力は入れてませんよ? 全力出すとどうなるか私もわからないので……」

 アティアスは絶句する。
 今の一発だけで、この前のダライの砦くらい粉々になるんじゃないか、と言うほどのものだった。にも関わらず、彼女にとってはまだ全力ではないという。

「そ、そうなのか……。あまり強力な魔法は使うのをやめようか。万が一のとき以外は……」

 どこかで歯止めをかけておかないと、後々大変なことになりそうだと感じた。

「はい。わかりました。これ以上はアティアス様のご命令がなければ使わないとお約束します。……私も怖いので」
「そうしてくれると助かる。……じゃ、一度下に降りようか」
「承知しました」

 すぐに降下を開始して、程なく地面に降り立つ。
 周囲の森は完全に吹き飛ばされ、株元が少し残っている程度だった。
 小屋があったところも、更地のようになっている。

「あの小さな小屋にあれだけのワイルドウルフが入っていたとは思えないんだが……」

 アティアスはエミリスを連れて、小屋があった辺りに向かう。

「そうですね……。あ、もしかして……」
「どうした?」

 彼女が何かに思い当たったようだった。

「いえ、地下に何かあるのかもって……」
「可能性がないことはないが……どう見ても何もないぞ?」

 小屋があったところは爆発の余波を受けて、土で埋まってしまっていた。

「土で埋もれているだけかも……。ちょっと掘ってみます」

 彼女は呟くと、以前のように魔力で地面を掘り返し始めた。

「あ、やっぱり。階段があるような感じがしますよ?」

 掘り進めると、硬いところと柔らかいところが混じっているようで、柔らかい土を除いていくと、地下に続く階段のようなものが現れてきた。
 小屋は地上に繋がる入り口を隠すだけの役目をしていたのだと気づく。

「また中からワイルドウルフが出てきたりしてな」
「そうですねぇ。完全に埋まってると探知できないのでわかりませんが……」

 彼女は周囲の人や獣を魔力で感知することができるが、あくまで魔力が到達できる範囲に限られる。
 僅かな隙間――例えばドアの隙間など――があれば壁の向こうでも大丈夫なのだが、今回のように完全に土で埋まっているような時は感知できなかった。

「でも、何が出てきても大丈夫ですよ。ご安心ください」
「そうだな。……いつもありがとうな」

 せっせと穴を掘る彼女に手を伸ばし、後ろから髪を撫でると気持ちよさそうに微笑む。

「穴、繋がりました。……中にはもうワイルドウルフはいないみたいです。でも……」
「……でも?」
「あ、はい。奥の方に何人か人がいるみたいです。どうしましょう……?」

 先を急ぐ必要もあるが、この場所の謎をそのままにしておくのも気になった。
 彼女はどうするべきか、アティアスに判断を仰ぐ。

「うーん。人とワイルドウルフが一緒にいたってことだよな……。気になるな。急いで調べて、先を急ぐか」
「わかりました。じゃ、入りましょうか。……離れないでくださいね」
「もちろんだ。頼む」

 地面をそのまま掘って作ったような階段を2人は降りていく。
 深さはかなりあって、地下2階ほどの場所まで降りると、1つの鉄製と思われる大きな扉があった。
 開けようとするが鍵が閉まっている。
 アティアスは彼女に目配せすると、すぐに鍵を破壊してくれた。

 ギィ……

 扉を押し開く。
 中は真っ暗かと思っていたが、明かりが灯されていた。

「広いな……」

 そこには体育館ほどの広さがある、広大なスペースが広がっていた。
 そして、大きな檻のようなものが、幾つも置かれていた。
 明らかに人為的な場所のように見える。

「誰だ……?」

 不意に奥から2人に声がかけられた。
 その方向に目を遣ると、部屋の奥に3名の男が立っていた。
 その1人が声をかけてきたようだ。

「俺からも問いたい。ここで何をしている?」

 アティアスが逆に問う。

「それは答えられないな。……今しがた狼たちを出したばかりのはずだが、どうやってここに入ってきた?」
「ワイルドウルフたちなら、すべて死んでもらいましたよ?」

 その問いにはエミリスが代わりに答えた。

「――――!」

 男達が息を呑むのがわかった。
 震える声で聞き返してくる。

「そ、そんなはずはないだろう……? あれだけの数だぞ……?」
「そう言われましても……。外に出てみればわかると思いますけど」

 爆発の音はこの地下深くまでは届かなかったのだ。
 彼女の言葉を信じたくはないが、そうは言ってもこの2人が平然と入ってきていると言うことから、信じざるを得ない。

「……それで、結局お前達は何だ……? なんの目的でここに来た?」

 ゆっくりとアティアスが答えた。

「俺はアティアス・ヴァル・ゼルムという。特に目的があって来たわけじゃないが、ここからワイルドウルフが出てきたんでな。気になって入っただけだ」

 その名前を聞いた男達は顔面を蒼白にして呟いた。

「ゼルムだと……⁉︎ お、お前達があの……!」
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

インターネットで異世界無双!?

kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。  その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。  これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

転生したら王族だった

みみっく
ファンタジー
異世界に転生した若い男の子レイニーは、王族として生まれ変わり、強力なスキルや魔法を持つ。彼の最大の願望は、人間界で種族を問わずに平和に暮らすこと。前世では得られなかった魔法やスキル、さらに不思議な力が宿るアイテムに強い興味を抱き大喜びの日々を送っていた。 レイニーは異種族の友人たちと出会い、共に育つことで異種族との絆を深めていく。しかし……

処理中です...