身寄りのない少女を引き取ったら有能すぎて困る(困らない)

長根 志遥

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第7章 ゼバーシュの魔女

第99話 開戦

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 アティアスの名前を聞いて驚く男達を見て、彼は以前から考えていたことを聞いた。

「獣たちに何か細工をしてテンセズを攻めさせていたのは、お前たちだな?」
「…………」

 男達は無言だったが、否定をしないということは、あながち間違った考えではなかったのだろう。

「……と、いうことは、先ほどのワイルドウルフは、前と同じようにテンセズに向かわせる予定だったのか。……ファモスと一緒に」
「ちっ……!」

 考えを読まれていることに、男の1人は小さく舌打ちする。

「まぁいい。いずれにしてもワイルドウルフはもういない。残念だったな。……で、お前たちはどうするつもりだ?」
「……我々の仕事はここで送り出すまでだ。その後のことは知らん」

 男は諦めたような苦い顔をする。

「我々を殺すなり、好きにしろ。……どうせ戦争はもう避けられん」
「殺したところで何も変わらないだろ。……ただ、ここは破壊させてもらう。早くここから出ろ」

 ◆

 地下にいた男たちが外に出ると、その周囲の変わりようにどよめきが起こった。
 強力な爆弾でも使ったのかと思えるような惨状だった。

 その様子を気にも留めずに、エミリスはアティアスに確認する。

「それじゃ、やりますよ?」
「ああ、頼む」

 彼女は地下室への入り口から中に向けて、軽く魔法を放つ。
 すると、地鳴りのような鈍い音が響き渡ったあと、地下室のあった場所の地上が大きく陥没した。
 中からの爆発で天井が崩れて中が埋まってしまったのだ。

 男たちは涼しい顔でそれを成した彼女を見て驚くとともに、周囲に広がるこの惨状も彼女の仕業であることを理解した。

「それじゃ、早くテンセズに行こうか」
「はい、承知しました」

 アティアスの言葉に彼女は頷き、ここまで来た時と同じように彼を抱えるようにして浮かび上がる。
 そして男たちの視界から、あっという間にいなくなってしまった。

「あれは……本当に人間か? 飛んでたぞ……?」
「信じられん……」
「魔女の類なんじゃないか?」
「ああ……。本当にな……」

 男たちは呆然としながら今見たことを口にした。
 そして確信する。あれと戦おうなどと考えたことが、そもそもの間違いだったのだと。

 ◆

「なんというか……たまたまあんなところに出くわすとは、運が良かったのかな?」
「そですね……。でもワイルドウルフなんて、どれだけいても数に入りませんけどね」
「それはエミーだけだぞ? 普通の人間だと、あれほどいれば流石に脅威だと思うよ」
「むむ? もしかして、また私を人間扱いしてなかったりします?」

 口を尖らせて言う彼女にアティアスは釈明する。

「『普通』じゃないだけで、人間だとは認めてるから大丈夫だ」
「むー、まぁ良いです。……あ、そろそろ山脈越えますよ」

 眼科を見下ろすと、最も高い山の峰を越えようかというところだった。
 この先はゼバーシュ領になる。
 あと1時間もすればテンセズに着くだろう。

 ◆

 偵察させていた兵士から、早々にマッキンゼ卿の軍がテンセズに到着するだろうと言う話が届き、町は慌ただしかった。
 町民はできる限り、町の中心部に集められた。
 周辺部には兵士と傭兵の混成部隊が編成され、ゲリラ的な戦いに備えて準備を整えていた。

「どんな感じで攻めてくると思うか?」

 マドン山脈に近い方角の北門に程近い、路地の一角に身を潜めているナハトが、トーレス達2人に問う。

「相手は魔導士だからね。普通に考えたら、こういう狭いところでの戦いには慣れていないと思う。……ある程度固まった人数で、周囲からの奇襲に備えながら進軍するんじゃないかな?」

 自分の経験を考えながらトーレスが答える。

「そうだな。となると、俺たちが飛びかかって数人斬ったところで、蜂の巣にされてしまうな」
「だから、私がいるんだ。向こうからの魔法は私が防ごう。魔法が効かない相手には、魔導士は手が出せないからね」

 トーレスの提案に2人は頷く。
 戦法としては、相手が全員魔導士の場合は、トーレスが防御魔法を維持できている間は耐えられる。
 その間に剣で相手を減らしていく、と言う算段だ。

「わかったわ。……お願いね」
「任せてくれ」

 ――そのとき、近くの北門に魔法が放たれたのか、轟音とともに崩れ落ちる音が聞こえてきた。

 ◆

「……残念ながら、予想と違う展開だな」
「そうだね。どっちが良かったのかはわからないが……」

 冷静さを保ったまま、ナハトが呟くと、それにトーレスが答える。
 魔導士の兵士が攻めてくると予想していたが、実際に町に入ってきたのはワイルドウルフの集団だった。

「夏頃のワイルドウルフ集団は、マッキンゼが絡んでいたのかしら?」
「……そうみたいだな。アティアスの話だとあいつら魔法を使うかもしれん。気をつけていこう」

 ミリーの言葉にナハトが注意を促す。
 ナハト達は魔法を使うワイルドウルフと遭遇したことはなかったが、アティアスが話していたことを聞いていた。

「わかった。どちらにしても私が魔法は防ぐから、一体一体片付けていこう」
「よし。それじゃ行くぞ!」
「うん!」

 ちょうど路地から見えるところに、ワイルドウルフ5頭が、隊列を組んで歩いているところだった。
 どれほどの数がいるのかは未知数だが、少しずつ数を減らしていくしかない。

 最短で仕留められるタイミングを見計らって、ナハトとミリーはワイルドウルフに飛びかかった。

 ◆

「もう始まってるみたいだな」
「ですね。……でも本隊は動いてませんね。町に出ているのはワイルドウルフだけみたいです」
「そう考えると、間に合ったと言うべきか。……大きな被害が出てないといいけど」

 夕日が沈み、周囲が闇に沈もうとしている頃、テンセズの上空に到着した2人は、眼下を見ながら状況を確認する。
 テンセズから少し離れたところに、恐らくファモスが率いる軍が陣取っているのが見える。夜に備えてテントが幾つも張られていた。
 町では時折爆発や雷撃の音が聞こえてくるが、エミリスの目ではワイルドウルフしか確認できなかった。

「どうします?」
「……そうだな。ワイルドウルフに任せて温存してるんだとすれば、ある程度始末すると本隊が動くだろうな。そうなると危険だ。今はワイルドウルフも巻き添えにしてしまうから、使えないんだろうけど」

 エミリスが方針について問うと、アティアスは考えを整理しながら話す。

「前回の5人くらいの魔法なら十分防げますけど、人数が増えたときどうなるかわからないので、できれば受けたくはないですね」
「そう考えると、一気に本隊の中に飛び込んでしまうってのがむしろ安全か?」
「……でしょうね。ファモスに近づいてしまえば、攻撃してこれないでしょうし」
「覚悟を決めていくか。ワイルドウルフを抑えるだけなら、テンセズの守りでもしばらくは大丈夫だろ」
「承知しました」
「本隊は何人くらい居るか分かるか?」
「えっと……。ざっと200人くらいでしょうか。あと、ワイルドウルフが100頭ほど、テントの周囲にいます」

 彼の問いに、エミリスは魔力を使って大体の数を把握して答えた。

「ありがとう。普通なら魔導士とはいえ、これだけの人数で戦争を起こすなんて考えられないけどな。それほどあの魔法石に自信を持っているんだろうな」
「あとはワイルドウルフで人数を補っているんでしょうか」
「みたいだな。さっきの小屋でのワイルドウルフも、後から合流させる予定だったんだろう。……さ、そろそろ行こう。早く片付けたい」
「はい、お任せください!」

 彼女は元気に応えて、ファモスのいるであろう本隊のテントに向け、勢いよく降下を開始した。
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