転生エルフの天才エンジニア、静かに暮らしたいのに騎士団長に捕まる〜俺の鉄壁理論は彼の溺愛パッチでバグだらけです〜

たら昆布

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1話

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 気がついたら、森の中にいた。
 それも、ただの森じゃない。一歩踏み出すごとに虹色の蝶が舞い、空気はマイナスイオンどころか、目に見えるほどの魔力で満ち満ちている。

「……死んだな、これ」

 俺の名前は佐藤誠。二十九歳。職業、システムエンジニア。
 三日不眠不休のデスマーチの果て、異音を吐き出すサーバー室の冷たい床で意識を失ったのが最後だ。あの時、コンパイルが終わるのを待っていたはずが、自分の人生が終了してしまったらしい。

 ふと視界に入った自分の手を見る。
 白かった。透き通るように白く、指が驚くほど長い。
 近くの湖面に顔を映してみれば、そこには銀髪をなびかせた、この世のものとは思えない絶世の美青年がいた。

「……エルフか。しかも、めちゃくちゃ高スペックなやつ」

 耳が少し尖っている。そして何より、体が信じられないほど軽い。
 万年悩まされていた肩こりも、キーボードの叩きすぎによる腱鞘炎も、ブルーライトでやられた眼精疲労も一切ない。
 前世の俺がこのスペックだったら、どれだけデバッグが捗ったことか。いや、そんなことはもう考えたくない。

 俺は決めた。
 今世では、絶対に働かない。
 納期も、クライアントからの無茶振りも、深夜三時の障害対応アラートもない。
 俺はここで、スローライフという名の完全定時退勤人生を謳歌するんだ。

 それから三年の月日が流れた。

 俺――今世の名前はリィエル――は、森の奥に快適な拠点を築いていた。
 エルフの魔力は凄まじい。指先一つで火はつくし、結界を張れば虫一匹入ってこない。
 前世で培った効率化と最適化の精神を注ぎ込み、俺はこの森を自分専用の聖域に作り替えた。

 自動で水を汲み上げる魔導回路。
 魔力で温度調節する全自動の燻製器。
 さらには、周辺の魔物や侵入者を検知する監視結界。

「ふぅ……。今日のタスクは、このベリーの収穫だけだな」

 俺は庭に生えた実を摘み取り、自家製のハーブティーを淹れる。
 最高だ。これこそが人間らしい、いや、エルフらしい生活だ。
 もう誰にも邪魔させない。俺の人生は、俺だけのものだ。

 だが、その平穏な時間は、突如として発生した外部エラーによって破られた。

「おい、誰か……いないか……。頼む……」

 低い、掠れた声。
 監視結界の反応が激しく点滅している。
 見れば、俺の張った結界のすぐ外側に、一団の男たちが倒れ込んでいた。

 全員、ボロボロの鎧を着ている。返り血と泥にまみれ、中には欠損しかけている者もいる。
 その中心に立っていたのは、一際体格のいい黒髪の巨漢だった。
 返り血で黒くなった鎧。鋭い琥珀色の瞳。その眼光は、死を目前にしてもなお衰えていない。

(……めんどくさい。寝たふりしようかな)

 関わったら最後、俺のスローライフの要件定義が大幅に変わってしまう予感がする。
 しかし、その男と目が合ってしまった。
 男は驚愕に目を見開き、ふらつきながらも俺を見つめる。

「……エルフ、か……? まさか、伝説に聞く精霊の守護者に、出会えるとは……」

 男はガクンと膝をつき、そのまま倒れ込んだ。
 重傷だ。出血量から見て、放っておけば数分で強制終了だろう。

「はぁ……。仕様外のトラブル発生かよ」

 俺は深くため息をつき、淹れたてのハーブティーをテーブルに置いた。
 ここで見捨てて、家の前を死体置き場にされるのはもっと後味が悪い。

「……リブートしてやるから、さっさと起きて帰れよ」

 俺は渋々、結界を解除して彼らの方へと歩き出した。
 これが、後に帝国の鉄面皮と呼ばれる騎士団長・ガイアスとの、最悪で最高に面倒な出会いになるとは、この時の俺はまだ知る由もなかった。
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