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17話
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王都行きの約束を交わしてから、俺のログハウスはかつてないほどの高負荷状態にあった。
といっても、物理的な忙しさではない。俺が不在の間、この聖域を完璧に維持するための自動運用保守システムを再構築することに、俺の全演算リソースを注ぎ込んでいたからだ。
「よし。これで外周結界の魔力供給は、地下の龍脈からダイレクトに同期される設定になったな」
俺は庭の四隅に配置した触媒石を調整し、満足げに頷いた。
不在時にエラーが発生し、帰宅して家が魔物の巣窟になっていた、なんて事態はエンジニアとして許容できない。
「リィエル、まだその石をいじっているのか? 準備なら、俺の部下たちが運んできた馬車の方も万全だぞ。お前の移動中にストレスがかからないよう、最高級の衝撃吸収の魔石を組み込ませた」
テラスから声をかけてきたガイアスは、どこか楽しげだ。
彼はこの数日、俺の家の防衛システム強化を手伝いながら、同時に王都までの快適なルートの構築に余念がなかった。
「ガイアスさん、俺は別に王都へ移住するわけじゃないんです。あくまで数日の短期滞在ですよ。そんな重装備の馬車なんて必要ありません」
「いや、お前の肌は繊細だ。長旅の振動で体調にデバッグが必要になるような事態は避けたいからな」
ガイアスは俺の語彙を引用しながら、頼もしく胸を叩いた。
一方、足元ではシロが一番忙しそうに動き回っていた。
シロは自分のお出かけ用バッグとして俺が用意した小さなカゴの中に、お気に入りの木の実や、庭で拾った変な形の石を次々と放り込んでいる。
「きゅう! きゅう!」
「シロ、それは持っていけない。ストレージの無駄遣いだぞ。王都にはもっと美味しいものがあるって、ガイアスさんも言っていたじゃないか」
俺がカゴから石を取り出すと、シロは不満そうに鳴き、今度は俺の足首にまとわりついて抗議してきた。
その様子を眺めていたガイアスが、ふっと目を細めて笑う。
「いいじゃないか、リィエル。それだけ彼も、この旅を楽しみにしているということだ。……俺も、お前とシロを俺の街に案内できると思うと、どうにも落ち着かなくてな」
ガイアスはそう言って、俺の隣に並んだ。
彼の背負っている荷物は、騎士団長とは思えないほど生活感に溢れている。予備の毛布や、移動中に俺が退屈しないための本、果ては俺の好みに合わせた軽食の材料まで入っているらしい。
「……あなたは、本当に過保護ですね。俺はこれでも、一人で三年間この森を管理してきたエルフなんですよ」
「分かっている。お前が有能なのは、この身をもって知っている。だが、誰かに守られるという仕様があっても、たまにはいいのではないか?」
ガイアスは、俺の肩を大きな手で軽く叩いた。
その手の温かさが、不思議と俺の警戒システムを静かにスリープ状態へと導いていく。
一人でいることが、最も安全で、最も効率的だと思っていた。
けれど、こうして誰かと行き先を相談し、荷物を詰め込み、不確定な未来を予定表に書き込む作業は、思っていたよりもずっと悪くないエラーだった。
「……わかりました。移動中の温度管理と食事の質に関しては、あなたに全権を委譲します。俺は馬車の中で、新しい魔導書の解析に集中させてもらいますからね」
「ああ、任せておけ。お前の旅路は、俺が世界で一番平和なものにしてみせる」
夕暮れの光が、パッキングを終えた荷物と、整頓されたリビングを優しく照らし出す。
明日の朝、俺たちはこの森の境界線を越える。
三年間、一度も更新されなかった現在地のデータが、いよいよ書き換えられようとしていた。
といっても、物理的な忙しさではない。俺が不在の間、この聖域を完璧に維持するための自動運用保守システムを再構築することに、俺の全演算リソースを注ぎ込んでいたからだ。
「よし。これで外周結界の魔力供給は、地下の龍脈からダイレクトに同期される設定になったな」
俺は庭の四隅に配置した触媒石を調整し、満足げに頷いた。
不在時にエラーが発生し、帰宅して家が魔物の巣窟になっていた、なんて事態はエンジニアとして許容できない。
「リィエル、まだその石をいじっているのか? 準備なら、俺の部下たちが運んできた馬車の方も万全だぞ。お前の移動中にストレスがかからないよう、最高級の衝撃吸収の魔石を組み込ませた」
テラスから声をかけてきたガイアスは、どこか楽しげだ。
彼はこの数日、俺の家の防衛システム強化を手伝いながら、同時に王都までの快適なルートの構築に余念がなかった。
「ガイアスさん、俺は別に王都へ移住するわけじゃないんです。あくまで数日の短期滞在ですよ。そんな重装備の馬車なんて必要ありません」
「いや、お前の肌は繊細だ。長旅の振動で体調にデバッグが必要になるような事態は避けたいからな」
ガイアスは俺の語彙を引用しながら、頼もしく胸を叩いた。
一方、足元ではシロが一番忙しそうに動き回っていた。
シロは自分のお出かけ用バッグとして俺が用意した小さなカゴの中に、お気に入りの木の実や、庭で拾った変な形の石を次々と放り込んでいる。
「きゅう! きゅう!」
「シロ、それは持っていけない。ストレージの無駄遣いだぞ。王都にはもっと美味しいものがあるって、ガイアスさんも言っていたじゃないか」
俺がカゴから石を取り出すと、シロは不満そうに鳴き、今度は俺の足首にまとわりついて抗議してきた。
その様子を眺めていたガイアスが、ふっと目を細めて笑う。
「いいじゃないか、リィエル。それだけ彼も、この旅を楽しみにしているということだ。……俺も、お前とシロを俺の街に案内できると思うと、どうにも落ち着かなくてな」
ガイアスはそう言って、俺の隣に並んだ。
彼の背負っている荷物は、騎士団長とは思えないほど生活感に溢れている。予備の毛布や、移動中に俺が退屈しないための本、果ては俺の好みに合わせた軽食の材料まで入っているらしい。
「……あなたは、本当に過保護ですね。俺はこれでも、一人で三年間この森を管理してきたエルフなんですよ」
「分かっている。お前が有能なのは、この身をもって知っている。だが、誰かに守られるという仕様があっても、たまにはいいのではないか?」
ガイアスは、俺の肩を大きな手で軽く叩いた。
その手の温かさが、不思議と俺の警戒システムを静かにスリープ状態へと導いていく。
一人でいることが、最も安全で、最も効率的だと思っていた。
けれど、こうして誰かと行き先を相談し、荷物を詰め込み、不確定な未来を予定表に書き込む作業は、思っていたよりもずっと悪くないエラーだった。
「……わかりました。移動中の温度管理と食事の質に関しては、あなたに全権を委譲します。俺は馬車の中で、新しい魔導書の解析に集中させてもらいますからね」
「ああ、任せておけ。お前の旅路は、俺が世界で一番平和なものにしてみせる」
夕暮れの光が、パッキングを終えた荷物と、整頓されたリビングを優しく照らし出す。
明日の朝、俺たちはこの森の境界線を越える。
三年間、一度も更新されなかった現在地のデータが、いよいよ書き換えられようとしていた。
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