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19話
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馬車の車輪が、街道の土から石畳へとその音を変えた。
カチ、カチと規則正しく響く蹄の音が、目的地が近いことを告げている。
リィエルが窓の外に目を向けると、そこには天を突くような白亜の城門がそびえ立っていた。森の中では決して見ることのなかった巨大な建造物。積み上げられた石材のひとつひとつが、帝国の長い歴史という名のデータを物理的に保持しているかのようだ。
「リィエル、見ろ。あれが王都の第一門、白金門だ。あそこを抜ければ、星祭を待つ街の賑わいが見えてくるぞ」
御者台からガイアスが声を弾ませる。
門の前には、商人の荷馬車や旅人たちの列ができていたが、ガイアスが御者台に座るこの馬車が近づくと、門番たちは即座に姿勢を正し、最優先の処理として道を開けた。
「……さすがは騎士団長ですね。アクセス権限が最高レベルだ」
「はは、こういう時だけは便利な肩書きだろう?」
馬車がゆっくりと門を潜り抜けると、そこには別世界が広がっていた。
広場を埋め尽くす色とりどりの屋台、軒先に吊るされた無数の旗。
空気中には、焼きたてのパンの香ばしい匂いや、大道芸人の奏でる楽器の音、そして人々の話し声が混ざり合い、膨大な情報量となってリィエルの五感に流れ込んでくる。
「きゅう……きゅうぅ!」
シロは見たこともない光景の連続に、驚きを通り越して固まっていた。
リィエルの膝の上で、短い毛を逆立てながらも、その銀色の瞳は右へ左へと忙しなく動いている。
「シロ、フリーズするな。ほら、深呼吸して情報を整理するんだ。……ガイアスさん、この活気はすごいですね。森の静寂がデフォルトだった俺には、少しばかり処理能力を超えそうなノイズです」
「慣れるまでは俺の側にいろ。ここは祭りの準備で特に浮き足立っているからな」
ガイアスは馬車を専用の待機所へ停めると、軽やかな動作で降り立ち、客室の扉を開けた。
彼が差し出した大きな手。リィエルは一瞬躊躇したが、周囲の視線から守るような彼の立ち振る舞いに、その手を預けることにした。
地面に降り立つと、石畳を通じて街の熱気が足裏から伝わってくる。
「まずは俺の屋敷へ向かおう。荷物を置いて、シロも落ち着かせてやりたい。……移動は人混みを避けたルートを選ぶから安心しろ」
「助かります。……それにしても、あの塔は何ですか? 頂部からかなり高密度の魔力が放出されていますが」
リィエルが指さしたのは、街の中央にそびえる時計塔だった。
「あれは魔導時計塔だ。星祭の夜、あそこから全街路に魔法の光を供給する、この街の心臓部だな。お前なら、あの構造を見ただけで設計図を書き起こしてしまいそうだ」
「……確かに、興味深い回路構成ですね。後で近くまで解析しに行ってもいいですか?」
「ああ、もちろん。だが今日は、長旅の疲れを癒やすのが先決だ。お前のために、王都で一番柔らかいベッドを用意させてあるからな」
ガイアスはリィエルの肩にそっと手を添え、案内を始めた。
行き交う人々が、見たこともないほど美しい銀髪の少年と、その傍らを歩く威風堂々とした騎士団長の姿に、感嘆の吐息を漏らしながら道を譲る。
リィエルは、胸元のペンダントを無意識に握りしめた。
虹光石が、街に溢れる魔力と呼応して微かに熱を帯びている。
一人きりのログハウスでは得られなかった、圧倒的な生体ログの連続。
リィエルの王都遠征は、まだ始まったばかりだった。
カチ、カチと規則正しく響く蹄の音が、目的地が近いことを告げている。
リィエルが窓の外に目を向けると、そこには天を突くような白亜の城門がそびえ立っていた。森の中では決して見ることのなかった巨大な建造物。積み上げられた石材のひとつひとつが、帝国の長い歴史という名のデータを物理的に保持しているかのようだ。
「リィエル、見ろ。あれが王都の第一門、白金門だ。あそこを抜ければ、星祭を待つ街の賑わいが見えてくるぞ」
御者台からガイアスが声を弾ませる。
門の前には、商人の荷馬車や旅人たちの列ができていたが、ガイアスが御者台に座るこの馬車が近づくと、門番たちは即座に姿勢を正し、最優先の処理として道を開けた。
「……さすがは騎士団長ですね。アクセス権限が最高レベルだ」
「はは、こういう時だけは便利な肩書きだろう?」
馬車がゆっくりと門を潜り抜けると、そこには別世界が広がっていた。
広場を埋め尽くす色とりどりの屋台、軒先に吊るされた無数の旗。
空気中には、焼きたてのパンの香ばしい匂いや、大道芸人の奏でる楽器の音、そして人々の話し声が混ざり合い、膨大な情報量となってリィエルの五感に流れ込んでくる。
「きゅう……きゅうぅ!」
シロは見たこともない光景の連続に、驚きを通り越して固まっていた。
リィエルの膝の上で、短い毛を逆立てながらも、その銀色の瞳は右へ左へと忙しなく動いている。
「シロ、フリーズするな。ほら、深呼吸して情報を整理するんだ。……ガイアスさん、この活気はすごいですね。森の静寂がデフォルトだった俺には、少しばかり処理能力を超えそうなノイズです」
「慣れるまでは俺の側にいろ。ここは祭りの準備で特に浮き足立っているからな」
ガイアスは馬車を専用の待機所へ停めると、軽やかな動作で降り立ち、客室の扉を開けた。
彼が差し出した大きな手。リィエルは一瞬躊躇したが、周囲の視線から守るような彼の立ち振る舞いに、その手を預けることにした。
地面に降り立つと、石畳を通じて街の熱気が足裏から伝わってくる。
「まずは俺の屋敷へ向かおう。荷物を置いて、シロも落ち着かせてやりたい。……移動は人混みを避けたルートを選ぶから安心しろ」
「助かります。……それにしても、あの塔は何ですか? 頂部からかなり高密度の魔力が放出されていますが」
リィエルが指さしたのは、街の中央にそびえる時計塔だった。
「あれは魔導時計塔だ。星祭の夜、あそこから全街路に魔法の光を供給する、この街の心臓部だな。お前なら、あの構造を見ただけで設計図を書き起こしてしまいそうだ」
「……確かに、興味深い回路構成ですね。後で近くまで解析しに行ってもいいですか?」
「ああ、もちろん。だが今日は、長旅の疲れを癒やすのが先決だ。お前のために、王都で一番柔らかいベッドを用意させてあるからな」
ガイアスはリィエルの肩にそっと手を添え、案内を始めた。
行き交う人々が、見たこともないほど美しい銀髪の少年と、その傍らを歩く威風堂々とした騎士団長の姿に、感嘆の吐息を漏らしながら道を譲る。
リィエルは、胸元のペンダントを無意識に握りしめた。
虹光石が、街に溢れる魔力と呼応して微かに熱を帯びている。
一人きりのログハウスでは得られなかった、圧倒的な生体ログの連続。
リィエルの王都遠征は、まだ始まったばかりだった。
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