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24話
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馬車が停まったのは、王都の北端に位置する小高い丘の上の展望閣だった。
ここは古くから天体観測に使われてきた場所で、石造りのバルコニーからは王都の光の海が一望できる。地上の喧騒は遠い波音のように聞こえるだけで、ここには澄んだ夜の空気と、満天の星空だけが支配する静寂があった。
「……ここなら、誰の目も気にせずに観測できそうだな」
リィエルは馬車を降りると、展望閣の最前列にある手すりに歩み寄った。
眼下では、魔法の光が幾何学模様を描きながら街路を巡り、広場では人々が踊り、笑い、そのエネルギーが淡い熱となって夜風に溶け込んでいる。
「リィエル、寒くはないか? 丘の上は風が通りやすい」
ガイアスがリィエルの背後から近づき、彼の肩を包むように、用意していた厚手のショールを掛けた。
その拍子に、ガイアスの腕がリィエルの髪に軽く触れる。冷たい夜風の中で、彼の体温が伝わってくる場所だけが、ひどく熱く感じられた。
「大丈夫です。……それより、あそこ。時計塔の頂部から放たれている光が、特定の周期で色を変えているのが見えますか? あれは単なる演出ではなく、大気中の魔力濃度を一定に保つための調整弁の役割も果たしているようですね」
「……はは。こんなに美しい夜景を前にして、真っ先にシステムの整合性を確認するのは、きっとこの広い王都でお前一人だけだろうな」
ガイアスはリィエルの隣で手すりに腕を預け、空を見上げた。
「リィエル。この王都には、古い言い伝えがあるんだ。星祭の夜、最も高い場所で一番大切な人と星を眺めると、その二人の時間は星の運行と同じように、永遠に途切れることなく回り続ける……という話だ」
「……永遠、ですか。ロジックとしては、エネルギーの保存法則に反した非現実的な仮説ですね」
リィエルはそう答えつつも、隣に立つ男の横顔を盗み見た。
ガイアスの瞳には、夜空の光が反射して、いつもより深く、優しく輝いている。
普段は剣を振るい、軍を率いる彼の指先が、今はリィエルのショールの端を、風で飛ばされないようにそっと押さえている。
「仮説でもいい。俺は、お前と出会ってからのこの数週間が、これまでの人生のどのログよりも鮮明に記憶されている。……お前が森に帰り、また一人で静寂の中に身を置くとしても、この光景だけは共有したデータとして残しておきたいんだ」
ガイアスの言葉は、静かだが重みを持ってリィエルの胸に届いた。
リィエルにとって、他者との交流は常に不確定要素の塊であり、避けるべきノイズだった。
けれど、この不器用で真っ直ぐな男が提供してくれる「ノイズ」は、いつの間にか彼の世界に欠かせない和音(コード)になりつつあった。
「きゅう……」
シロがリィエルの足元で丸くなり、展望閣の床に反射する光の粒を追いかけている。
「……ガイアスさん。永遠なんて保証はできませんが。……少なくとも、来年のこの時期の予定表に、この場所への再訪を書き込んでおくくらいの余裕はありますよ」
リィエルが視線を逸らしながらそう告げると、ガイアスは一瞬、息を呑んだように沈黙した。
そして、これまでに見せたことがないほど、心の底から嬉しそうな笑みを浮かべた。
「……そうか。それは、騎士団長の生涯をかけて守るべき最優先の公務になりそうだな」
夜空の魔導回路が、一段と強い光を放った。
時計塔の鐘が零時を告げ、空からは本物の流れ星のような光の粉が、雪のように静かに降り注ぎ始める。
リィエルは、胸元のペンダントを握りしめた。
石が温かい。
それは、彼一人では決して生成することのできなかった、誰かと共に作り上げた「絆」という名の魔力だった。
ここは古くから天体観測に使われてきた場所で、石造りのバルコニーからは王都の光の海が一望できる。地上の喧騒は遠い波音のように聞こえるだけで、ここには澄んだ夜の空気と、満天の星空だけが支配する静寂があった。
「……ここなら、誰の目も気にせずに観測できそうだな」
リィエルは馬車を降りると、展望閣の最前列にある手すりに歩み寄った。
眼下では、魔法の光が幾何学模様を描きながら街路を巡り、広場では人々が踊り、笑い、そのエネルギーが淡い熱となって夜風に溶け込んでいる。
「リィエル、寒くはないか? 丘の上は風が通りやすい」
ガイアスがリィエルの背後から近づき、彼の肩を包むように、用意していた厚手のショールを掛けた。
その拍子に、ガイアスの腕がリィエルの髪に軽く触れる。冷たい夜風の中で、彼の体温が伝わってくる場所だけが、ひどく熱く感じられた。
「大丈夫です。……それより、あそこ。時計塔の頂部から放たれている光が、特定の周期で色を変えているのが見えますか? あれは単なる演出ではなく、大気中の魔力濃度を一定に保つための調整弁の役割も果たしているようですね」
「……はは。こんなに美しい夜景を前にして、真っ先にシステムの整合性を確認するのは、きっとこの広い王都でお前一人だけだろうな」
ガイアスはリィエルの隣で手すりに腕を預け、空を見上げた。
「リィエル。この王都には、古い言い伝えがあるんだ。星祭の夜、最も高い場所で一番大切な人と星を眺めると、その二人の時間は星の運行と同じように、永遠に途切れることなく回り続ける……という話だ」
「……永遠、ですか。ロジックとしては、エネルギーの保存法則に反した非現実的な仮説ですね」
リィエルはそう答えつつも、隣に立つ男の横顔を盗み見た。
ガイアスの瞳には、夜空の光が反射して、いつもより深く、優しく輝いている。
普段は剣を振るい、軍を率いる彼の指先が、今はリィエルのショールの端を、風で飛ばされないようにそっと押さえている。
「仮説でもいい。俺は、お前と出会ってからのこの数週間が、これまでの人生のどのログよりも鮮明に記憶されている。……お前が森に帰り、また一人で静寂の中に身を置くとしても、この光景だけは共有したデータとして残しておきたいんだ」
ガイアスの言葉は、静かだが重みを持ってリィエルの胸に届いた。
リィエルにとって、他者との交流は常に不確定要素の塊であり、避けるべきノイズだった。
けれど、この不器用で真っ直ぐな男が提供してくれる「ノイズ」は、いつの間にか彼の世界に欠かせない和音(コード)になりつつあった。
「きゅう……」
シロがリィエルの足元で丸くなり、展望閣の床に反射する光の粒を追いかけている。
「……ガイアスさん。永遠なんて保証はできませんが。……少なくとも、来年のこの時期の予定表に、この場所への再訪を書き込んでおくくらいの余裕はありますよ」
リィエルが視線を逸らしながらそう告げると、ガイアスは一瞬、息を呑んだように沈黙した。
そして、これまでに見せたことがないほど、心の底から嬉しそうな笑みを浮かべた。
「……そうか。それは、騎士団長の生涯をかけて守るべき最優先の公務になりそうだな」
夜空の魔導回路が、一段と強い光を放った。
時計塔の鐘が零時を告げ、空からは本物の流れ星のような光の粉が、雪のように静かに降り注ぎ始める。
リィエルは、胸元のペンダントを握りしめた。
石が温かい。
それは、彼一人では決して生成することのできなかった、誰かと共に作り上げた「絆」という名の魔力だった。
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