転生エルフの天才エンジニア、静かに暮らしたいのに騎士団長に捕まる〜俺の鉄壁理論は彼の溺愛パッチでバグだらけです〜

たら昆布

文字の大きさ
25 / 45

25話

しおりを挟む
 星祭の余韻が残る早朝、王都の街並みはまだ深い眠りの中にあった。
 ガイアスの屋敷の前に用意された馬車には、往路よりも少しだけ増えた荷物が積み込まれている。そのほとんどは、ガイアスが研究の役に立つだろうとリィエルに贈った、希少な魔導具や文房具の類だった。

「……結局、インベントリが大幅に拡張されてしまったな。これではスローライフという名の軽量化設定が台なしだ」

 リィエルは馬車の座席に深く腰掛け、窓の外を眺めた。
 見送りに出てきた使用人たちは、今やリィエルを伝説の賢者として崇拝しており、別れを惜しんで涙ぐんでいる者さえいる。

「いいじゃないか。たまには贅沢な外部拡張も必要だ。……リィエル、またすぐに会いに行く。次はお前の好きな、あの森の茶葉を補充するタイミングに合わせてな」

 御者台から振り返ったガイアスが、朝日を背に受けて笑う。
 彼はリィエルが森に帰ることを引き留めはしなかった。彼があの場所をどれほど大切にしているか、この数日間で誰よりも理解したからだ。

「ええ。セキュリティレベルを上げて待っています。……シロ、お前もいつまで寝ているんだ。もう出発だぞ」

「きゅう……」

 シロは王都のふかふかな生活に馴染みすぎたのか、クッションの間に埋もれて眠そうな声を上げた。だが、馬車がゆっくりと動き出し、王都の石畳を叩くリズムが始まると、名残惜しそうに窓から遠ざかる城門を見つめていた。

 帰路は往路よりもさらに穏やかだった。
 リィエルは車中で、王都で手に入れた新しいインクの成分を分析したり、ガイアスが時折話しかけてくる王都の古い伝承に耳を傾けたりしながら過ごした。
 数日が経ち、馬車の窓から見える景色が、開けた草原から次第に深い緑の壁へと変わっていく。

「……戻ってきましたね。我が家の魔力波長を検知しました」

 懐かしい、静謐で高密度な魔力の気配。
 境界線を越えた瞬間、リィエルの全身を包んでいた緊張がふっと解け、本来のパーソナリティが再起動していくのが分かった。

 だが、馬車がログハウスの前に到着したとき、リィエルは違和感に眉をひそめた。
 彼が構築した鉄壁の自動防衛システムが、なぜか非戦闘モードのまま、奇妙なノイズを発していたからだ。

「……おかしいな。侵入者ログは記録されていないが、庭の魔力回路が不規則に点滅しているぞ」

 リィエルが馬車を降り、庭のハーブ園へと足を踏み入れると、そこには金色の光の粉を撒き散らしながら、右往左往している精霊の姿があった。

「ああ、リィエル! お帰り、やっと戻ってきたね。大変だよ、君がいない間に、とんでもないものが君のポストにチェックインしてしまったんだ!」

「長老。落ち着いてください。論理的な説明をしてください。とんでもないものとは?」

 精霊が指さした先。そこは、リィエルが魔導郵便を受け取るために設置していた、木製のポストだった。
 その中からは、眩いばかりの純白の光が漏れ出し、時折ぷるぷるという奇妙な振動音が響いている。

「……リィエル、これはお前の知り合いか? 何やら、かなり高エネルギーな生命反応を感じるが」

 剣の柄に手をかけ、警戒しながら近寄るガイアス。
 リィエルはおそるおそるポストの蓋を開けた。

 中にいたのは、手のひらサイズの、半透明で白く輝くスライムのような不思議な生き物だった。それはリィエルの顔を見るなり、嬉しそうに全身を震わせ、ポストから飛び出して彼の肩へと着地した。

「……新種のアプリケーションか? いや、これは……」

 王都から帰ったリィエルを待っていたのは、静寂ではなく、新たな未知の居候だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

きっと、君は知らない

mahiro
BL
前世、というのだろうか。 俺は前、日本という国で暮らしていて、あの日は中学時代にお世話になった先輩の結婚式に参列していた。 大人になった先輩と綺麗な女性の幸せそうな姿に胸を痛めながら見つめていると二人の間に産まれたという女の子がひとりで車道に向かい歩いている姿が目に入った。 皆が主役の二人に夢中で子供の存在に気付いておらず、俺は慌ててその子供のもとへと向かった。 あと少しで追い付くというタイミングで大型の車がこちらに向かってくるのが見え、慌ててその子供の手を掴み、彼らのいる方へと突き飛ばした。 次の瞬間、俺は驚く先輩の目と合ったような気がするが、俺の意識はそこで途絶えてしまった。 次に目が覚めたのは見知らぬ世界で、聞いたことのない言葉が行き交っていた。 それから暫く様子を見ていたが、どうやら俺は異世界に転生したらしく………?

本当に悪役なんですか?

メカラウロ子
BL
気づいたら乙女ゲームのモブに転生していた主人公は悪役の取り巻きとしてモブらしからぬ行動を取ってしまう。 状況が掴めないまま戸惑う主人公に、悪役令息のアルフレッドが意外な行動を取ってきて… ムーンライトノベルズ にも掲載中です。

ゆい
BL
涙が落ちる。 涙は彼に届くことはない。 彼を想うことは、これでやめよう。 何をどうしても、彼の気持ちは僕に向くことはない。 僕は、その場から音を立てずに立ち去った。 僕はアシェル=オルスト。 侯爵家の嫡男として生まれ、10歳の時にエドガー=ハルミトンと婚約した。 彼には、他に愛する人がいた。 世界観は、【夜空と暁と】と同じです。 アルサス達がでます。 【夜空と暁と】を知らなくても、これだけで読めます。 2025.4.28 ムーンライトノベルに投稿しました。

もう一度、その腕に

結衣可
BL
もう一度、その腕に

いい加減観念して結婚してください

彩根梨愛
BL
平凡なオメガが成り行きで決まった婚約解消予定のアルファに結婚を迫られる話 元々ショートショートでしたが、続編を書きましたので短編になりました。 2025/05/05時点でBL18位ありがとうございます。 作者自身驚いていますが、お楽しみ頂き光栄です。

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

【8話完結】俺は推しじゃない!ただの冒険者だ!

キノア9g
BL
ごく普通の中堅冒険者・イーサン。 今日もほどほどのクエストを探しにギルドを訪れたところ、見慣れない美形の冒険者・アシュレイと出くわす。 最初は「珍しい奴がいるな」程度だった。 だが次の瞬間── 「あなたは僕の推しです!」 そう叫びながら抱きついてきたかと思えば、つきまとう、語りかける、迫ってくる。 挙句、自宅の前で待ち伏せまで!?  「金なんかねぇぞ!」 「大丈夫です! 僕が、稼ぎますから!」 平穏な日常をこよなく愛するイーサンと、 “推しの幸せ”のためなら迷惑も距離感も超えていく超ポジティブ転生者・アシュレイ。 愛とは、追うものか、追われるものか。 差し出される支援、注がれる好意、止まらぬ猛アプローチ。 ふたりの距離が縮まる日はくるのか!? 強くて貢ぎ癖のあるイケメン転生者 × 弱めで普通な中堅冒険者。 異世界で始まる、ドタバタ&ちょっぴり胸キュンなBLコメディ、ここに開幕! 全8話

【8話完結】強制力に負けて死に戻ったら、幼馴染の様子がおかしいのですが、バグですか?

キノア9g
BL
目が覚めたら、大好きだったRPGの世界に転生していた。 知識チートでなんとか死亡フラグを回避した……はずだったのに、あっさり死んで、気づけば一年前に逆戻り。 今度こそ生き残ってみせる。そう思っていたんだけど—— 「お前、ちょっと俺に執着しすぎじゃない……?」 幼馴染が、なんかおかしい。妙に優しいし、距離が近いし、俺の行動にやたら詳しい。 しかも、その笑顔の奥に見える“何か”が、最近ちょっと怖い。 これは、運命を変えようと足掻く俺と、俺だけを見つめ続ける幼馴染の、ちょっと(だいぶ?)危険な異世界BL。 全8話。

処理中です...