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32話
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ガイアスが淹れた茶を一口飲むと、リィエルの思考回路にようやく鮮明な電力が戻ってきた。
夕闇が迫る室内で、王都の最高級茶葉が放つ華やかな香りが、先ほどまで庭に漂っていた森の土の匂いを優しく上書きしていく。
「……ふぅ。驚きました。まさか本当にそのタイミングで戻ってくるとは。ログハウスの防衛システムをもう少し厳重にしておくべきでしたね」
「はは、お前が設定した正規のパスワードで入ったんだから、そう責めるな。それよりリィエル、茶請けにこれを食べてくれ。王都の陛下から預かってきたものだ」
ガイアスがテーブルの上に置いたのは、金色の封蝋が施された小さな木箱だった。
リィエルが蓋を開けると、中には宝石のように美しい色とりどりの砂糖菓子が並んでいる。リィエルがその一つを口に運ぶと、洗練された甘みが疲れ切った脳に直接染み渡っていく。
「……美味しいな。糖分の補給は効率的なリカバリーに直結する。陛下というのは、意外とユーザーのニーズを理解しているらしい」
「だろう? だが、陛下が本当に渡したかったのはこっちだ。重いから足元に置いておくぞ」
ガイアスがどさりと床に置いたもう一つの大きな鉄の箱。
リィエルが中を確認すると、そこには複雑な歯車と魔石が組み合わさった、ひどく煤けた金属の塊が転がっていた。
「……これは、古代の環境維持装置の一部か。随分と派手に回路が焼き切れているな」
「魔導院の連中が百年かけても直せなかった代物でな。お前ならこれを直す過程そのものを楽しむだろうと、特別に貸し出されたんだ。言わば、お前への報酬兼、挑戦状といったところだな」
リィエルは無言でその金属塊を手に取った。
指先から微弱な探査魔力を流し込むと、内部で眠っていた休止状態の術式が、かすかに火花を散らして反応する。
リィエルの瞳が、瞬時にエンジニアのそれへと切り替わった。
先ほどまでの疲労困憊した様子はどこへやら、彼は既に脳内で欠損した魔導回路の再構成を始めている。
「……ひどい設計だ。当時の技術者は、並列処理という概念を知らなかったのか? 効率が悪すぎて、これでは魔石の寿命を無駄に削るだけだ。今すぐ全面的なリファクタリングが必要だな」
「おいおい、リィエル。茶を飲み終えてからにしろ。シロも呆れているぞ」
足元では、シロがリィエルの膝に飛び乗り、主人の急激な集中力の高まりに「きゅう」と小さく鳴いた。
ルミもまた、新しいおもちゃを見つけた子供のように、金属塊の周りをぷるぷると飛び回っている。
「ガイアスさん、作業用のランプに魔力を充填してください。今夜は寝る間も惜しい。この古代のバグの塊を、最新の規格にアップデートしてやる」
「……やれやれ。これでは俺が持ってきた安眠用のハーブティーの出番はなさそうだな」
ガイアスは肩をすくめながらも、嬉しそうにリィエルの机の魔導灯に手をかざした。
リィエルは既にペンを手に取り、羊皮紙の上に複雑な幾何学模様の数式を書き殴り始めている。
静かな森の夜。
ログハウスの窓からは、深夜まで絶えることなく、規則正しい魔法の火花と、熱中する少年の独り言が漏れ聞こえていた。
夕闇が迫る室内で、王都の最高級茶葉が放つ華やかな香りが、先ほどまで庭に漂っていた森の土の匂いを優しく上書きしていく。
「……ふぅ。驚きました。まさか本当にそのタイミングで戻ってくるとは。ログハウスの防衛システムをもう少し厳重にしておくべきでしたね」
「はは、お前が設定した正規のパスワードで入ったんだから、そう責めるな。それよりリィエル、茶請けにこれを食べてくれ。王都の陛下から預かってきたものだ」
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リィエルが蓋を開けると、中には宝石のように美しい色とりどりの砂糖菓子が並んでいる。リィエルがその一つを口に運ぶと、洗練された甘みが疲れ切った脳に直接染み渡っていく。
「……美味しいな。糖分の補給は効率的なリカバリーに直結する。陛下というのは、意外とユーザーのニーズを理解しているらしい」
「だろう? だが、陛下が本当に渡したかったのはこっちだ。重いから足元に置いておくぞ」
ガイアスがどさりと床に置いたもう一つの大きな鉄の箱。
リィエルが中を確認すると、そこには複雑な歯車と魔石が組み合わさった、ひどく煤けた金属の塊が転がっていた。
「……これは、古代の環境維持装置の一部か。随分と派手に回路が焼き切れているな」
「魔導院の連中が百年かけても直せなかった代物でな。お前ならこれを直す過程そのものを楽しむだろうと、特別に貸し出されたんだ。言わば、お前への報酬兼、挑戦状といったところだな」
リィエルは無言でその金属塊を手に取った。
指先から微弱な探査魔力を流し込むと、内部で眠っていた休止状態の術式が、かすかに火花を散らして反応する。
リィエルの瞳が、瞬時にエンジニアのそれへと切り替わった。
先ほどまでの疲労困憊した様子はどこへやら、彼は既に脳内で欠損した魔導回路の再構成を始めている。
「……ひどい設計だ。当時の技術者は、並列処理という概念を知らなかったのか? 効率が悪すぎて、これでは魔石の寿命を無駄に削るだけだ。今すぐ全面的なリファクタリングが必要だな」
「おいおい、リィエル。茶を飲み終えてからにしろ。シロも呆れているぞ」
足元では、シロがリィエルの膝に飛び乗り、主人の急激な集中力の高まりに「きゅう」と小さく鳴いた。
ルミもまた、新しいおもちゃを見つけた子供のように、金属塊の周りをぷるぷると飛び回っている。
「ガイアスさん、作業用のランプに魔力を充填してください。今夜は寝る間も惜しい。この古代のバグの塊を、最新の規格にアップデートしてやる」
「……やれやれ。これでは俺が持ってきた安眠用のハーブティーの出番はなさそうだな」
ガイアスは肩をすくめながらも、嬉しそうにリィエルの机の魔導灯に手をかざした。
リィエルは既にペンを手に取り、羊皮紙の上に複雑な幾何学模様の数式を書き殴り始めている。
静かな森の夜。
ログハウスの窓からは、深夜まで絶えることなく、規則正しい魔法の火花と、熱中する少年の独り言が漏れ聞こえていた。
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