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31話
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最後の患者であった大きな角鹿の角を磨き終えたとき、太陽は既に西の山並みに隠れようとしていた。
庭のベンチに座り込んだリィエルは、かつてないほどのリソース消費を感じていた。魔力の残量はまだ半分以上あるが、精神的な処理能力が限界に近い。
「……ようやく終わったか。まさか一日の稼働時間が、すべてカスタマーサポートで埋まるとは計算外だったな」
リィエルは深く背もたれに体を預け、空を仰いだ。
視界の端では、ルミが満足げにぷるぷると震えながら、リィエルの膝の上で淡い光を放っている。その隣では、シロが丸くなって小さな寝息を立てていた。
ふと視線を落とすと、庭の入り口付近には山のようなお礼の品が置かれていた。
色鮮やかな森の木の実、見たこともないほど透き通った湧き水の詰まったひょうたん、そして魔力伝導率が極めて高い希少な薬草の束。動物たちは言葉こそ話さないが、リィエルのメンテナンスに対する対価を、彼らなりの通貨で支払っていったらしい。
「これだけの原材料があれば、数ヶ月は調合に困らないな。……だが、今は立ち上がってこれらを整理する気力すら湧かない」
リィエルはまぶたを閉じ、森の涼しい風を肌に感じながら、浅い眠りへと落ちていった。
それから数十分後。
森の結界を正規のパスワードで潜り抜け、一頭の馬がログハウスの前に到着した。
馬から降りたガイアスは、庭の惨状――といっても、平和な贈り物に埋もれたリィエルの姿を見て、思わず声を上げて笑いそうになった。
「……なんだ、これは。リィエル、お前は俺がいない間に森の神様にでも就任したのか?」
ガイアスは足音を殺して近づき、ソファ代わりのベンチで眠る銀髪の少年の顔を覗き込んだ。
リィエルの寝顔は、王都にいたときよりも少しだけ険しさが取れ、この森の住人らしい穏やかさを取り戻している。
ガイアスは持ってきた鞄から、王都の最高級品である薄手の毛布を取り出し、リィエルの肩にそっと掛けた。
その拍子にシロが片目を開けてガイアスを確認したが、見知った顔であると認識すると、ふいとあくびをして再び眠りに戻った。
「よしよし、お前たちも頑張ったみたいだな。……リィエルが起きる前に、この山のような贈り物を片付けて、温かい茶の準備でもしておくか」
ガイアスは袖をまくり、騎士団長とは思えない手際の良さで、庭に散らばった木の実や薬草をカゴにまとめていった。
そして、ログハウスのキッチンを借りて、持参した特別な茶葉を静かに蒸らし始める。
部屋の中に、王都の洗練された香りと、森の土の匂いが混ざり合う、不思議と落ち着く空間が出来上がっていく。
リィエルがゆっくりと目を覚ましたのは、ちょうどお茶が最高の飲み頃を迎えた瞬間だった。
「……ん、……ガイアスさん? なぜ、あなたが俺の視覚情報の中に存在しているんですか。まだログイン中のはずでは」
「おはよう、リィエル。現実の世界へようこそ。お前が森の医者ごっこで疲れ果てている間に、俺は無事に帰還したぞ」
ガイアスは湯気の立つカップを差し出し、いたずらっぽく笑った。
リィエルは毛布の感触に少しだけ驚きつつも、差し出されたカップを受け取り、その温もりに安堵の吐息を漏らした。
庭のベンチに座り込んだリィエルは、かつてないほどのリソース消費を感じていた。魔力の残量はまだ半分以上あるが、精神的な処理能力が限界に近い。
「……ようやく終わったか。まさか一日の稼働時間が、すべてカスタマーサポートで埋まるとは計算外だったな」
リィエルは深く背もたれに体を預け、空を仰いだ。
視界の端では、ルミが満足げにぷるぷると震えながら、リィエルの膝の上で淡い光を放っている。その隣では、シロが丸くなって小さな寝息を立てていた。
ふと視線を落とすと、庭の入り口付近には山のようなお礼の品が置かれていた。
色鮮やかな森の木の実、見たこともないほど透き通った湧き水の詰まったひょうたん、そして魔力伝導率が極めて高い希少な薬草の束。動物たちは言葉こそ話さないが、リィエルのメンテナンスに対する対価を、彼らなりの通貨で支払っていったらしい。
「これだけの原材料があれば、数ヶ月は調合に困らないな。……だが、今は立ち上がってこれらを整理する気力すら湧かない」
リィエルはまぶたを閉じ、森の涼しい風を肌に感じながら、浅い眠りへと落ちていった。
それから数十分後。
森の結界を正規のパスワードで潜り抜け、一頭の馬がログハウスの前に到着した。
馬から降りたガイアスは、庭の惨状――といっても、平和な贈り物に埋もれたリィエルの姿を見て、思わず声を上げて笑いそうになった。
「……なんだ、これは。リィエル、お前は俺がいない間に森の神様にでも就任したのか?」
ガイアスは足音を殺して近づき、ソファ代わりのベンチで眠る銀髪の少年の顔を覗き込んだ。
リィエルの寝顔は、王都にいたときよりも少しだけ険しさが取れ、この森の住人らしい穏やかさを取り戻している。
ガイアスは持ってきた鞄から、王都の最高級品である薄手の毛布を取り出し、リィエルの肩にそっと掛けた。
その拍子にシロが片目を開けてガイアスを確認したが、見知った顔であると認識すると、ふいとあくびをして再び眠りに戻った。
「よしよし、お前たちも頑張ったみたいだな。……リィエルが起きる前に、この山のような贈り物を片付けて、温かい茶の準備でもしておくか」
ガイアスは袖をまくり、騎士団長とは思えない手際の良さで、庭に散らばった木の実や薬草をカゴにまとめていった。
そして、ログハウスのキッチンを借りて、持参した特別な茶葉を静かに蒸らし始める。
部屋の中に、王都の洗練された香りと、森の土の匂いが混ざり合う、不思議と落ち着く空間が出来上がっていく。
リィエルがゆっくりと目を覚ましたのは、ちょうどお茶が最高の飲み頃を迎えた瞬間だった。
「……ん、……ガイアスさん? なぜ、あなたが俺の視覚情報の中に存在しているんですか。まだログイン中のはずでは」
「おはよう、リィエル。現実の世界へようこそ。お前が森の医者ごっこで疲れ果てている間に、俺は無事に帰還したぞ」
ガイアスは湯気の立つカップを差し出し、いたずらっぽく笑った。
リィエルは毛布の感触に少しだけ驚きつつも、差し出されたカップを受け取り、その温もりに安堵の吐息を漏らした。
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