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30話
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翌朝、リィエルが目を覚ますと、ログハウスの周りがいつもより騒がしいことに気づいた。
鳥のさえずりにしては音域が低く、何かが生い茂った草を踏むようなガサガサという音が絶え間なく聞こえてくる。
「……なんだ。まだ日の出から三十分も経過していないぞ。防衛結界のログに異常はなかったはずだが」
リィエルは寝癖のついた銀髪を指で整えながら、パジャマ代わりの薄いローブを羽織って一階へ降りた。
キッチンでは、シロが既に起きて窓の外をじっと見つめている。その短い尻尾は、警戒というよりも困惑に近いリズムで左右に振られていた。
「おはよう、シロ。外が随分と賑やかだな。……まさか、昨日のマウンテンゴートが仲間を連れて戻ってきたわけじゃないだろうな」
リィエルが玄関の重い扉をゆっくりと開けると、そこには信じられない光景が広がっていた。
庭の境界線に沿って、森に住む小動物たちが整然と列をなしていた。
羽が少し曲がった青い鳥、足を引きずっている野ウサギ、そして魔力の循環が滞って体毛が変色してしまったリス。彼らは皆、昨日リィエルが巨大な魔獣を治したのを見ていたか、あるいはその噂を聞きつけて集まってきたようだった。
「……冗談だろ。ここは森の診療所じゃないぞ。ただの個人所有の拠点だ。ルミのステーションから漏れた魔力波長が、完全に救護信号として認識されてしまったのか」
リィエルは額を押さえてため息をついた。
彼にとって、予定外のタスクが積み上がるのは最も避けたい状況だ。だが、目の前で静かに順番を待っている動物たちの瞳には、縋るような光が宿っている。
「ぷる、ぷるるん」
ルミがステーションから飛び出し、行列の先頭にいた野ウサギの鼻先に触れた。
ルミが放つ淡い光がウサギの患部を照らし出し、どこを修理すべきかをリィエルに示す。どうやらこの光る新入りは、受付係としての機能を勝手に習得してしまったらしい。
「……やれやれ。ルミ、お前までそんな乗り気なら仕方ない。今日一日は、この未承認のメンテナンス作業にリソースを割くことにするか」
リィエルは庭のベンチに腰を下ろすと、一番前の野ウサギを膝の上に乗せた。
シロは自分の定位置を奪われまいと、リィエルの足の甲にしっかりと陣取り、行列を見張るような体勢をとる。
「シロ、お前は助手だ。あまり威嚇して客……じゃなかった、患者を怖がらせるなよ」
リィエルは指先に微細な魔力を集め、ウサギの折れた足にそっと触れた。
折れた骨の結合を促進し、神経の伝達回路を正常な値へと上書きしていく。わずか数分で、ウサギは軽やかな動作でベンチから飛び降り、お礼を言うように一度だけ跳ねて森へと帰っていった。
一人、また一匹。
リィエルは丁寧かつ迅速に、森の住人たちの不具合を修正していった。
どこまでも静かで、それでいて着実だ。
魔法の光が庭を優しく包み込み、傷ついた生き物たちが元気を取り戻していく。それは、効率を何よりも重んじるリィエルにとって、本来は無駄な作業のはずだった。だが、修理を終えた動物たちが満足げに去っていく後ろ姿を見送るたびに、彼の内側にある何かが少しずつ満たされていくのを感じていた。
その頃、森の反対側の街道では。
王都での報告を終え、数々の高級な茶菓子と最新の魔導論文を鞄に詰め込んだガイアスが、愛馬を駆って再びこの森へと足を踏み入れていた。
「……そろそろリィエルの結界内に入るか。あいつ、今度はどんな驚くべきアップデートを仕掛けているのやら」
ガイアスは期待に胸を膨らませながら、森の奥に隠されたログハウスへと続く一本道を進んでいった。
鳥のさえずりにしては音域が低く、何かが生い茂った草を踏むようなガサガサという音が絶え間なく聞こえてくる。
「……なんだ。まだ日の出から三十分も経過していないぞ。防衛結界のログに異常はなかったはずだが」
リィエルは寝癖のついた銀髪を指で整えながら、パジャマ代わりの薄いローブを羽織って一階へ降りた。
キッチンでは、シロが既に起きて窓の外をじっと見つめている。その短い尻尾は、警戒というよりも困惑に近いリズムで左右に振られていた。
「おはよう、シロ。外が随分と賑やかだな。……まさか、昨日のマウンテンゴートが仲間を連れて戻ってきたわけじゃないだろうな」
リィエルが玄関の重い扉をゆっくりと開けると、そこには信じられない光景が広がっていた。
庭の境界線に沿って、森に住む小動物たちが整然と列をなしていた。
羽が少し曲がった青い鳥、足を引きずっている野ウサギ、そして魔力の循環が滞って体毛が変色してしまったリス。彼らは皆、昨日リィエルが巨大な魔獣を治したのを見ていたか、あるいはその噂を聞きつけて集まってきたようだった。
「……冗談だろ。ここは森の診療所じゃないぞ。ただの個人所有の拠点だ。ルミのステーションから漏れた魔力波長が、完全に救護信号として認識されてしまったのか」
リィエルは額を押さえてため息をついた。
彼にとって、予定外のタスクが積み上がるのは最も避けたい状況だ。だが、目の前で静かに順番を待っている動物たちの瞳には、縋るような光が宿っている。
「ぷる、ぷるるん」
ルミがステーションから飛び出し、行列の先頭にいた野ウサギの鼻先に触れた。
ルミが放つ淡い光がウサギの患部を照らし出し、どこを修理すべきかをリィエルに示す。どうやらこの光る新入りは、受付係としての機能を勝手に習得してしまったらしい。
「……やれやれ。ルミ、お前までそんな乗り気なら仕方ない。今日一日は、この未承認のメンテナンス作業にリソースを割くことにするか」
リィエルは庭のベンチに腰を下ろすと、一番前の野ウサギを膝の上に乗せた。
シロは自分の定位置を奪われまいと、リィエルの足の甲にしっかりと陣取り、行列を見張るような体勢をとる。
「シロ、お前は助手だ。あまり威嚇して客……じゃなかった、患者を怖がらせるなよ」
リィエルは指先に微細な魔力を集め、ウサギの折れた足にそっと触れた。
折れた骨の結合を促進し、神経の伝達回路を正常な値へと上書きしていく。わずか数分で、ウサギは軽やかな動作でベンチから飛び降り、お礼を言うように一度だけ跳ねて森へと帰っていった。
一人、また一匹。
リィエルは丁寧かつ迅速に、森の住人たちの不具合を修正していった。
どこまでも静かで、それでいて着実だ。
魔法の光が庭を優しく包み込み、傷ついた生き物たちが元気を取り戻していく。それは、効率を何よりも重んじるリィエルにとって、本来は無駄な作業のはずだった。だが、修理を終えた動物たちが満足げに去っていく後ろ姿を見送るたびに、彼の内側にある何かが少しずつ満たされていくのを感じていた。
その頃、森の反対側の街道では。
王都での報告を終え、数々の高級な茶菓子と最新の魔導論文を鞄に詰め込んだガイアスが、愛馬を駆って再びこの森へと足を踏み入れていた。
「……そろそろリィエルの結界内に入るか。あいつ、今度はどんな驚くべきアップデートを仕掛けているのやら」
ガイアスは期待に胸を膨らませながら、森の奥に隠されたログハウスへと続く一本道を進んでいった。
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