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33話
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翌朝、ログハウスの寝室で目を覚ましたガイアスは、異常なまでの空気の重さに跳ね起きた。
カーテンの隙間から差し込む朝日は、白く濁った霧のようなものに遮られ、部屋全体がサウナの中に放り込まれたかのような熱気に包まれている。
「……なんだ、これは。森の天候が急変したのか? それとも、魔物の集団が加湿魔法でも放っているのか」
ガイアスがシーツを剥ぐと、上質なリネンは既にじっとりと湿気を吸っていた。
自慢の金髪も、湿気を含んでいつもより数倍のボリュームで広がっている。彼は慌てて一階へと駆け下りた。
一階のリビングはさらにひどい有様だった。
壁の木材からは結露した水滴が滴り落ち、床には水たまりができている。その中心で、リィエルは昨夜の作業着のまま、髪をあちこちに跳ねさせて呆然と立ち尽くしていた。
彼の手元には、昨日まで煤けていたはずの古代魔導具が、眩いばかりの緑色の光を放ちながら鎮座している。
「……おはよう、ガイアスさん。どうやら出力計算に、致命的なヒューマンエラーがあったみたいだ」
「おはよう、ではないだろう。リィエル、家の中がジャングルになっているぞ。シロはどこだ?」
「きゅう……」
シロはキッチンの高い棚の上に避難しており、濡れるのを嫌って四本の足を器用に折りたたんでいた。
一方で、この異常事態を誰よりも満喫しているのはルミだった。ルミは室内に充満する濃厚な魔力交じりの霧を泳ぐように飛び回り、全身をいつもの倍ほどに膨らませてぷるぷると震えている。
「ルミにとっては、この飽和状態の魔力環境が最適解だったらしい。……だが、俺の計算では、この装置は適度な加湿と空気清浄を行うはずだったんだ。古代の術式に組み込まれていた安全装置が、俺の書いた最新のパッチと競合(コンフリクト)を起こして、暴走モードに入ってしまったな」
リィエルは手元のペンで、空中に浮かぶ魔導パネルを必死に叩いている。
だが、装置から放出される魔力霧は止まる気配がない。それどころか、装置の隙間からは、急激な植物の成長を促す緑の光が溢れ出し、床の目地から見たこともない小さな白い花が咲き始めていた。
「おい、リィエル。これ以上放置すると、俺たちの家が文字通り森に飲み込まれるぞ。止める方法は?」
「強制終了のコマンドを受け付けないんだ。ハードウェア側に直接介入して、魔力の供給経路を物理的に遮断するしかない。……ガイアスさん、その大きな手で装置の右側にある第三レバーを固定してくれ。俺がその隙に核(コア)を再起動させる」
「分かった。任せろ!」
ガイアスは水浸しの床に膝をつき、熱気を帯びた装置のレバーを力任せに押さえ込んだ。
リィエルは杖の先を装置の中枢へと差し込み、暴走する術式の糸を一本ずつ丁寧に解いていく。
数分間の激しいデバッグ作業の末、装置は「プしゅっ」という情けない音と共に光を失い、静かに沈黙した。
同時に、室内に満ちていた霧が急速に薄れ、開け放たれた窓から森の爽やかな風が流れ込んでくる。
「……ふぅ。危なかった。家ごと植物化(アップグレード)されるところだったな」
リィエルは膝をついて、大きく息を吐いた。
「全くだ。……だが、見てみろリィエル。お前が直したおかげで、この家の中に咲いた花は、王都でも滅多に見られないほど綺麗だぞ」
ガイアスが指差した先。湿った床には、朝日に輝く小さな花々が、まるで宝石のように咲き乱れていた。
リィエルはその光景を眺め、不器用な失敗のログを少しだけ誇らしく書き換えた。
カーテンの隙間から差し込む朝日は、白く濁った霧のようなものに遮られ、部屋全体がサウナの中に放り込まれたかのような熱気に包まれている。
「……なんだ、これは。森の天候が急変したのか? それとも、魔物の集団が加湿魔法でも放っているのか」
ガイアスがシーツを剥ぐと、上質なリネンは既にじっとりと湿気を吸っていた。
自慢の金髪も、湿気を含んでいつもより数倍のボリュームで広がっている。彼は慌てて一階へと駆け下りた。
一階のリビングはさらにひどい有様だった。
壁の木材からは結露した水滴が滴り落ち、床には水たまりができている。その中心で、リィエルは昨夜の作業着のまま、髪をあちこちに跳ねさせて呆然と立ち尽くしていた。
彼の手元には、昨日まで煤けていたはずの古代魔導具が、眩いばかりの緑色の光を放ちながら鎮座している。
「……おはよう、ガイアスさん。どうやら出力計算に、致命的なヒューマンエラーがあったみたいだ」
「おはよう、ではないだろう。リィエル、家の中がジャングルになっているぞ。シロはどこだ?」
「きゅう……」
シロはキッチンの高い棚の上に避難しており、濡れるのを嫌って四本の足を器用に折りたたんでいた。
一方で、この異常事態を誰よりも満喫しているのはルミだった。ルミは室内に充満する濃厚な魔力交じりの霧を泳ぐように飛び回り、全身をいつもの倍ほどに膨らませてぷるぷると震えている。
「ルミにとっては、この飽和状態の魔力環境が最適解だったらしい。……だが、俺の計算では、この装置は適度な加湿と空気清浄を行うはずだったんだ。古代の術式に組み込まれていた安全装置が、俺の書いた最新のパッチと競合(コンフリクト)を起こして、暴走モードに入ってしまったな」
リィエルは手元のペンで、空中に浮かぶ魔導パネルを必死に叩いている。
だが、装置から放出される魔力霧は止まる気配がない。それどころか、装置の隙間からは、急激な植物の成長を促す緑の光が溢れ出し、床の目地から見たこともない小さな白い花が咲き始めていた。
「おい、リィエル。これ以上放置すると、俺たちの家が文字通り森に飲み込まれるぞ。止める方法は?」
「強制終了のコマンドを受け付けないんだ。ハードウェア側に直接介入して、魔力の供給経路を物理的に遮断するしかない。……ガイアスさん、その大きな手で装置の右側にある第三レバーを固定してくれ。俺がその隙に核(コア)を再起動させる」
「分かった。任せろ!」
ガイアスは水浸しの床に膝をつき、熱気を帯びた装置のレバーを力任せに押さえ込んだ。
リィエルは杖の先を装置の中枢へと差し込み、暴走する術式の糸を一本ずつ丁寧に解いていく。
数分間の激しいデバッグ作業の末、装置は「プしゅっ」という情けない音と共に光を失い、静かに沈黙した。
同時に、室内に満ちていた霧が急速に薄れ、開け放たれた窓から森の爽やかな風が流れ込んでくる。
「……ふぅ。危なかった。家ごと植物化(アップグレード)されるところだったな」
リィエルは膝をついて、大きく息を吐いた。
「全くだ。……だが、見てみろリィエル。お前が直したおかげで、この家の中に咲いた花は、王都でも滅多に見られないほど綺麗だぞ」
ガイアスが指差した先。湿った床には、朝日に輝く小さな花々が、まるで宝石のように咲き乱れていた。
リィエルはその光景を眺め、不器用な失敗のログを少しだけ誇らしく書き換えた。
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