転生エルフの天才エンジニア、静かに暮らしたいのに騎士団長に捕まる〜俺の鉄壁理論は彼の溺愛パッチでバグだらけです〜

たら昆布

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34話

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 湿気と熱気に包まれたリビングは、窓を全開にしたことでようやく平時の温度を取り戻した。
 だが、床一面に咲き乱れた白い花と、家具にこびりついた結露をそのままにしておくわけにはいかない。リィエルは湿って重くなったローブの袖をまくり、作業机の引き出しから予備の魔導パーツを取り出した。

「……手作業での現状復帰は効率が悪すぎる。ガイアスさん、そこに転がっている古代装置の外装パーツを貸してください。これをベースに、自律型の清掃ユニットを構築する」

「掃除用のゴーレムか? 確かにその方が早そうだが、また暴走しないだろうな」

 ガイアスは濡れた髪をタオルで拭きながら、リィエルに指定された真鍮の円盤を手渡した。
 リィエルは迷いのない手つきで、円盤の裏側に微細な吸引術式と、空間認識用の魔力センサーを組み込んでいく。徹夜明けとは思えない集中力だ。

「今度は安全装置(セーフティ)を二重に階層化しました。動体検知の閾値も調整済みです。……よし、起動」

 リィエルが魔力を注ぎ込むと、手のひらサイズの円盤は「ブゥン」という低い駆動音を立てて浮上した。
 それは滑るように床を移動し、通り道の水分と花びらを瞬時に吸い込んでいく。リィエルの意図した通りの完璧な動作だ。

「ほう、これは見事だな。王都の魔導工房に見せたら、職人たちが腰を抜かすぞ」

 ガイアスが感心した声を上げた、その直後だった。
 清掃ユニットのセンサーが、キッチンの隅で毛繕いをしていたシロの姿を捉えた。ユニットは突如として方向を転換し、猛烈な速度でシロへと突撃を開始した。

「きゅうっ!?」

 驚いたシロは、尻尾を太くしてリビングの中央へと飛び出した。
 だが、ユニットは執拗にシロの足元を追いかけ回す。どうやら、ふわふわしたシロの毛を「巨大な埃の塊」として誤認してしまったらしい。

「あ、こら、待て。シロはゴミじゃない! 認識コードの優先順位が逆転しているな」

「リィエル、止めろ! シロの目が回っているぞ!」

 ガイアスが助けに入ろうとしたが、そこにさらなる不確定要素が加わった。
 空中を漂っていたルミが、高速で移動する円盤に興味を示し、その天板の上にひょいと着地したのだ。

「ぷる、ぷるるん!」

 ルミの重みと魔力が加わったことで、ユニットの出力が異常に跳ね上がった。
 ルミを乗せた清掃ユニットは、シロを追いかけながらリビングを縦横無尽に走り回り、ついにはガイアスの足首を掃除しようと突進してきた。

「おい、待て! 俺の靴まで吸い込む気か! リィエル、早くその暴走円盤をオフにしろ!」

「強制停止(シャットダウン)の信号が、ルミの魔力干渉で遮断されている! ……ガイアスさん、捕まえてください! 物理的にひっくり返せば止まります!」

 狭いリビングで、大の男と銀髪の少年、そして一匹と一精霊が入り乱れる大騒動が始まった。
 ガイアスが長い足を駆使して円盤を追い込み、リィエルが回り込んで杖で進路を塞ぐ。
 
 数分間の格闘の末、ガイアスが鮮やかなタックルで円盤を押さえ込み、リィエルがその裏側の魔力核を引き抜いた。
 静寂が戻った室内で、全員が床にへたり込み、荒い息をつく。

「……やれやれ。効率化を目指した結果、最大級の非効率を招いてしまったな」

 リィエルは乱れた髪をかき上げ、床に転がった無言の円盤を見つめて呟いた。
 その隣では、シロがガイアスの腕の中に逃げ込み、ルミは楽しかったのか、まだぷるぷると小さく跳ねていた。
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