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35話
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掃除機の暴走騒動から数時間後。ようやく平穏を取り戻したログハウスのテラスに、昨日リィエルが治療した角鹿が再び姿を現した。
その口には、見たこともないほど透き通った、瑠璃色の小さな果実が実った枝が加えられている。
「……また贈り物か。今度は植物性のリソースだな。ガイアスさん、その個体は昨日、角の魔導回路を修復してやった個体だ。おそらく、これが彼らなりの成功報酬なのだろう」
リィエルが鹿から枝を受け取ると、鹿は満足げに一度だけ鼻を鳴らし、深い森の奥へと軽やかに消えていった。
「瑠璃色の果実か。王都の植物図鑑でも見たことがない。リィエル、鑑定の魔法を使ってみるか?」
「いえ、この魔力波長は既知の毒物とは異なります。解析するより、直接取り込んで反応を見る方が早い」
リィエルは一粒の果実を口に含んだ。
舌の上で弾けるような爽やかな酸味と、脳の奥を直接刺激するような微弱な電気が走る。
その瞬間、リィエルの聴覚システムに劇的な変化(アップデート)が起きた。
「きゅうっ! 主様、さっきの追いかけっこ、次は僕が追いかける側に設定してほしいな!」
足元で不機嫌そうにしていたシロの声が、はっきりとした言語としてリィエルの脳内に響いた。
リィエルは驚きのあまり、手に持っていた枝を落としそうになる。
「……シロ? 今、お前、追いかける側に設定しろと言ったのか?」
「きゅう? うん、言ったよ! あと、ガイアスさんのマッサージは指の圧力が少し強すぎるから、もう少し出力を下げてほしいって伝えておいて!」
リィエルは呆然として隣のガイアスを見た。ガイアスは何が起きたのか分からず、不思議そうな顔で首を傾げている。
「リィエル、どうした? 急にシロの顔を凝視して。果実に変なデバフでもかかっていたか?」
「……いえ、バグではありません。どうやらこの果実、一時的に異種族間の言語プロトコルを共通化する機能があるみたいだ。マッサージ、シロには強すぎるそうですよ」
「なっ、本当か!? 済まないシロ、良かれと思って騎士団流の揉み解しを適用していた」
ガイアスが慌てて手の力を抜くと、シロは「そうそう、それくらいが最適解だね」と満足げに目を細めた。
さらに、リィエルの肩の上ではルミがぷるぷると震えながら、高い金属音のような、それでいて楽しげな思考を送ってくる。
「リィエル、リィエル! さっきの掃除機、すごくいい乗り物だった! また魔力をチャージして動かして! もっと速く、庭の向こうまで行けるくらいの馬力(トルク)が欲しいな!」
「……却下だ。ルミ、お前の要望はシステムの安全性を著しく損なう。あれは二度と起動させないからな」
リィエルが空中に向かって返事をすると、ガイアスは羨ましそうにその光景を眺めていた。
「いいな、お前たち。俺にもその果実を分けてくれ。俺もシロやルミの本音をログに記録したい」
「お勧めしません。情報密度が高すぎて、脳内が通知ログで埋め尽くされますよ。……ほら、シロが次は高級な干し肉を要求しています」
静かだったはずの森の生活が、翻訳という新機能によって、かつてないほどのお喋りな空間に変わっていく。
リィエルは、賑やかすぎる脳内の通知にため息をつきながらも、以前より少しだけこの同居人たちのことを深く理解できた気がして、口元の緩みを必死に隠していた。
その口には、見たこともないほど透き通った、瑠璃色の小さな果実が実った枝が加えられている。
「……また贈り物か。今度は植物性のリソースだな。ガイアスさん、その個体は昨日、角の魔導回路を修復してやった個体だ。おそらく、これが彼らなりの成功報酬なのだろう」
リィエルが鹿から枝を受け取ると、鹿は満足げに一度だけ鼻を鳴らし、深い森の奥へと軽やかに消えていった。
「瑠璃色の果実か。王都の植物図鑑でも見たことがない。リィエル、鑑定の魔法を使ってみるか?」
「いえ、この魔力波長は既知の毒物とは異なります。解析するより、直接取り込んで反応を見る方が早い」
リィエルは一粒の果実を口に含んだ。
舌の上で弾けるような爽やかな酸味と、脳の奥を直接刺激するような微弱な電気が走る。
その瞬間、リィエルの聴覚システムに劇的な変化(アップデート)が起きた。
「きゅうっ! 主様、さっきの追いかけっこ、次は僕が追いかける側に設定してほしいな!」
足元で不機嫌そうにしていたシロの声が、はっきりとした言語としてリィエルの脳内に響いた。
リィエルは驚きのあまり、手に持っていた枝を落としそうになる。
「……シロ? 今、お前、追いかける側に設定しろと言ったのか?」
「きゅう? うん、言ったよ! あと、ガイアスさんのマッサージは指の圧力が少し強すぎるから、もう少し出力を下げてほしいって伝えておいて!」
リィエルは呆然として隣のガイアスを見た。ガイアスは何が起きたのか分からず、不思議そうな顔で首を傾げている。
「リィエル、どうした? 急にシロの顔を凝視して。果実に変なデバフでもかかっていたか?」
「……いえ、バグではありません。どうやらこの果実、一時的に異種族間の言語プロトコルを共通化する機能があるみたいだ。マッサージ、シロには強すぎるそうですよ」
「なっ、本当か!? 済まないシロ、良かれと思って騎士団流の揉み解しを適用していた」
ガイアスが慌てて手の力を抜くと、シロは「そうそう、それくらいが最適解だね」と満足げに目を細めた。
さらに、リィエルの肩の上ではルミがぷるぷると震えながら、高い金属音のような、それでいて楽しげな思考を送ってくる。
「リィエル、リィエル! さっきの掃除機、すごくいい乗り物だった! また魔力をチャージして動かして! もっと速く、庭の向こうまで行けるくらいの馬力(トルク)が欲しいな!」
「……却下だ。ルミ、お前の要望はシステムの安全性を著しく損なう。あれは二度と起動させないからな」
リィエルが空中に向かって返事をすると、ガイアスは羨ましそうにその光景を眺めていた。
「いいな、お前たち。俺にもその果実を分けてくれ。俺もシロやルミの本音をログに記録したい」
「お勧めしません。情報密度が高すぎて、脳内が通知ログで埋め尽くされますよ。……ほら、シロが次は高級な干し肉を要求しています」
静かだったはずの森の生活が、翻訳という新機能によって、かつてないほどのお喋りな空間に変わっていく。
リィエルは、賑やかすぎる脳内の通知にため息をつきながらも、以前より少しだけこの同居人たちのことを深く理解できた気がして、口元の緩みを必死に隠していた。
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