34 / 45
34話
しおりを挟む
湿気と熱気に包まれたリビングは、窓を全開にしたことでようやく平時の温度を取り戻した。
だが、床一面に咲き乱れた白い花と、家具にこびりついた結露をそのままにしておくわけにはいかない。リィエルは湿って重くなったローブの袖をまくり、作業机の引き出しから予備の魔導パーツを取り出した。
「……手作業での現状復帰は効率が悪すぎる。ガイアスさん、そこに転がっている古代装置の外装パーツを貸してください。これをベースに、自律型の清掃ユニットを構築する」
「掃除用のゴーレムか? 確かにその方が早そうだが、また暴走しないだろうな」
ガイアスは濡れた髪をタオルで拭きながら、リィエルに指定された真鍮の円盤を手渡した。
リィエルは迷いのない手つきで、円盤の裏側に微細な吸引術式と、空間認識用の魔力センサーを組み込んでいく。徹夜明けとは思えない集中力だ。
「今度は安全装置(セーフティ)を二重に階層化しました。動体検知の閾値も調整済みです。……よし、起動」
リィエルが魔力を注ぎ込むと、手のひらサイズの円盤は「ブゥン」という低い駆動音を立てて浮上した。
それは滑るように床を移動し、通り道の水分と花びらを瞬時に吸い込んでいく。リィエルの意図した通りの完璧な動作だ。
「ほう、これは見事だな。王都の魔導工房に見せたら、職人たちが腰を抜かすぞ」
ガイアスが感心した声を上げた、その直後だった。
清掃ユニットのセンサーが、キッチンの隅で毛繕いをしていたシロの姿を捉えた。ユニットは突如として方向を転換し、猛烈な速度でシロへと突撃を開始した。
「きゅうっ!?」
驚いたシロは、尻尾を太くしてリビングの中央へと飛び出した。
だが、ユニットは執拗にシロの足元を追いかけ回す。どうやら、ふわふわしたシロの毛を「巨大な埃の塊」として誤認してしまったらしい。
「あ、こら、待て。シロはゴミじゃない! 認識コードの優先順位が逆転しているな」
「リィエル、止めろ! シロの目が回っているぞ!」
ガイアスが助けに入ろうとしたが、そこにさらなる不確定要素が加わった。
空中を漂っていたルミが、高速で移動する円盤に興味を示し、その天板の上にひょいと着地したのだ。
「ぷる、ぷるるん!」
ルミの重みと魔力が加わったことで、ユニットの出力が異常に跳ね上がった。
ルミを乗せた清掃ユニットは、シロを追いかけながらリビングを縦横無尽に走り回り、ついにはガイアスの足首を掃除しようと突進してきた。
「おい、待て! 俺の靴まで吸い込む気か! リィエル、早くその暴走円盤をオフにしろ!」
「強制停止(シャットダウン)の信号が、ルミの魔力干渉で遮断されている! ……ガイアスさん、捕まえてください! 物理的にひっくり返せば止まります!」
狭いリビングで、大の男と銀髪の少年、そして一匹と一精霊が入り乱れる大騒動が始まった。
ガイアスが長い足を駆使して円盤を追い込み、リィエルが回り込んで杖で進路を塞ぐ。
数分間の格闘の末、ガイアスが鮮やかなタックルで円盤を押さえ込み、リィエルがその裏側の魔力核を引き抜いた。
静寂が戻った室内で、全員が床にへたり込み、荒い息をつく。
「……やれやれ。効率化を目指した結果、最大級の非効率を招いてしまったな」
リィエルは乱れた髪をかき上げ、床に転がった無言の円盤を見つめて呟いた。
その隣では、シロがガイアスの腕の中に逃げ込み、ルミは楽しかったのか、まだぷるぷると小さく跳ねていた。
だが、床一面に咲き乱れた白い花と、家具にこびりついた結露をそのままにしておくわけにはいかない。リィエルは湿って重くなったローブの袖をまくり、作業机の引き出しから予備の魔導パーツを取り出した。
「……手作業での現状復帰は効率が悪すぎる。ガイアスさん、そこに転がっている古代装置の外装パーツを貸してください。これをベースに、自律型の清掃ユニットを構築する」
「掃除用のゴーレムか? 確かにその方が早そうだが、また暴走しないだろうな」
ガイアスは濡れた髪をタオルで拭きながら、リィエルに指定された真鍮の円盤を手渡した。
リィエルは迷いのない手つきで、円盤の裏側に微細な吸引術式と、空間認識用の魔力センサーを組み込んでいく。徹夜明けとは思えない集中力だ。
「今度は安全装置(セーフティ)を二重に階層化しました。動体検知の閾値も調整済みです。……よし、起動」
リィエルが魔力を注ぎ込むと、手のひらサイズの円盤は「ブゥン」という低い駆動音を立てて浮上した。
それは滑るように床を移動し、通り道の水分と花びらを瞬時に吸い込んでいく。リィエルの意図した通りの完璧な動作だ。
「ほう、これは見事だな。王都の魔導工房に見せたら、職人たちが腰を抜かすぞ」
ガイアスが感心した声を上げた、その直後だった。
清掃ユニットのセンサーが、キッチンの隅で毛繕いをしていたシロの姿を捉えた。ユニットは突如として方向を転換し、猛烈な速度でシロへと突撃を開始した。
「きゅうっ!?」
驚いたシロは、尻尾を太くしてリビングの中央へと飛び出した。
だが、ユニットは執拗にシロの足元を追いかけ回す。どうやら、ふわふわしたシロの毛を「巨大な埃の塊」として誤認してしまったらしい。
「あ、こら、待て。シロはゴミじゃない! 認識コードの優先順位が逆転しているな」
「リィエル、止めろ! シロの目が回っているぞ!」
ガイアスが助けに入ろうとしたが、そこにさらなる不確定要素が加わった。
空中を漂っていたルミが、高速で移動する円盤に興味を示し、その天板の上にひょいと着地したのだ。
「ぷる、ぷるるん!」
ルミの重みと魔力が加わったことで、ユニットの出力が異常に跳ね上がった。
ルミを乗せた清掃ユニットは、シロを追いかけながらリビングを縦横無尽に走り回り、ついにはガイアスの足首を掃除しようと突進してきた。
「おい、待て! 俺の靴まで吸い込む気か! リィエル、早くその暴走円盤をオフにしろ!」
「強制停止(シャットダウン)の信号が、ルミの魔力干渉で遮断されている! ……ガイアスさん、捕まえてください! 物理的にひっくり返せば止まります!」
狭いリビングで、大の男と銀髪の少年、そして一匹と一精霊が入り乱れる大騒動が始まった。
ガイアスが長い足を駆使して円盤を追い込み、リィエルが回り込んで杖で進路を塞ぐ。
数分間の格闘の末、ガイアスが鮮やかなタックルで円盤を押さえ込み、リィエルがその裏側の魔力核を引き抜いた。
静寂が戻った室内で、全員が床にへたり込み、荒い息をつく。
「……やれやれ。効率化を目指した結果、最大級の非効率を招いてしまったな」
リィエルは乱れた髪をかき上げ、床に転がった無言の円盤を見つめて呟いた。
その隣では、シロがガイアスの腕の中に逃げ込み、ルミは楽しかったのか、まだぷるぷると小さく跳ねていた。
152
あなたにおすすめの小説
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、
隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。
しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです…
オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が
なかたのでした。
本当の花嫁じゃない。
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
【完結】偏屈司書は黒犬将軍の溺愛を受ける
アザトースト
BL
ブランは自他ともに認める偏屈である。
他人にとっての自分とは無関心と嫌悪の狭間に位置していることを良く良く知っていたし、こんな自分に恋人なんて出来るわけがないと思っていた。そもそも作りたくもない。
司書として本に溺れるような日々を送る中、ブランに転機が訪れる。
幼馴染のオニキスがとある契約を持ちかけてきたのだ。
ブランとオニキス、それぞれの利害が一致した契約関係。
二人の関係はどのように変化するのか。
短編です。すぐに終わる予定です。
毎日投稿します。
♡や感想、大変励みになりますので宜しければ片手間に♡押してって下さい!
【完結】悪役に転生したので、皇太子を推して生き延びる
ざっしゅ
BL
気づけば、男の婚約者がいる悪役として転生してしまったソウタ。
この小説は、主人公である皇太子ルースが、悪役たちの陰謀によって記憶を失い、最終的に復讐を遂げるという残酷な物語だった。ソウタは、自分の命を守るため、原作の悪役としての行動を改め、記憶を失ったルースを友人として大切にする。
ソウタの献身的な行動は周囲に「ルースへの深い愛」だと噂され、ルース自身もその噂に満更でもない様子を見せ始める。
声なき王子は素性不明の猟師に恋をする
石月煤子
BL
第一王子である腹違いの兄から命を狙われた、妾の子である庶子のロスティア。
毒薬によって声を失った彼は城から逃げ延び、雪原に倒れていたところを、猟師と狼によって助けられた。
「王冠はあんたに相応しい。王子」
貴方のそばで生きられたら。
それ以上の幸福なんて、きっと、ない。
おしまいのそのあとは
makase
BL
悪役令息として転生してしまった神楽坂龍一郎は、心を入れ替え、主人公のよき友人になるよう努力していた。ところがこの選択肢が、神楽坂の大切な人を傷つける可能性が浮上する。困った神楽坂は、自分を犠牲にする道を歩みかけるが……
転生DKは、オーガさんのお気に入り~姉の婚約者に嫁ぐことになったんだが、こんなに溺愛されるとは聞いてない!~
トモモト ヨシユキ
BL
魔物の国との和議の証に結ばれた公爵家同士の婚約。だが、婚約することになった姉が拒んだため6男のシャル(俺)が代わりに婚約することになった。
突然、オーガ(鬼)の嫁になることがきまった俺は、ショックで前世を思い出す。
有名進学校に通うDKだった俺は、前世の知識と根性で自分の身を守るための剣と魔法の鍛練を始める。
約束の10年後。
俺は、人類最強の魔法剣士になっていた。
どこからでもかかってこいや!
と思っていたら、婚約者のオーガ公爵は、全くの塩対応で。
そんなある日、魔王国のバーティーで絡んできた魔物を俺は、こてんぱんにのしてやったんだが、それ以来、旦那様の様子が変?
急に花とか贈ってきたり、デートに誘われたり。
慣れない溺愛にこっちまで調子が狂うし!
このまま、俺は、絆されてしまうのか!?
カイタ、エブリスタにも掲載しています。
きっと、君は知らない
mahiro
BL
前世、というのだろうか。
俺は前、日本という国で暮らしていて、あの日は中学時代にお世話になった先輩の結婚式に参列していた。
大人になった先輩と綺麗な女性の幸せそうな姿に胸を痛めながら見つめていると二人の間に産まれたという女の子がひとりで車道に向かい歩いている姿が目に入った。
皆が主役の二人に夢中で子供の存在に気付いておらず、俺は慌ててその子供のもとへと向かった。
あと少しで追い付くというタイミングで大型の車がこちらに向かってくるのが見え、慌ててその子供の手を掴み、彼らのいる方へと突き飛ばした。
次の瞬間、俺は驚く先輩の目と合ったような気がするが、俺の意識はそこで途絶えてしまった。
次に目が覚めたのは見知らぬ世界で、聞いたことのない言葉が行き交っていた。
それから暫く様子を見ていたが、どうやら俺は異世界に転生したらしく………?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる