転生エルフの天才エンジニア、静かに暮らしたいのに騎士団長に捕まる〜俺の鉄壁理論は彼の溺愛パッチでバグだらけです〜

たら昆布

文字の大きさ
35 / 45

35話

しおりを挟む
 掃除機の暴走騒動から数時間後。ようやく平穏を取り戻したログハウスのテラスに、昨日リィエルが治療した角鹿が再び姿を現した。
 その口には、見たこともないほど透き通った、瑠璃色の小さな果実が実った枝が加えられている。

「……また贈り物か。今度は植物性のリソースだな。ガイアスさん、その個体は昨日、角の魔導回路を修復してやった個体だ。おそらく、これが彼らなりの成功報酬なのだろう」

 リィエルが鹿から枝を受け取ると、鹿は満足げに一度だけ鼻を鳴らし、深い森の奥へと軽やかに消えていった。

「瑠璃色の果実か。王都の植物図鑑でも見たことがない。リィエル、鑑定の魔法を使ってみるか?」

「いえ、この魔力波長は既知の毒物とは異なります。解析するより、直接取り込んで反応を見る方が早い」

 リィエルは一粒の果実を口に含んだ。
 舌の上で弾けるような爽やかな酸味と、脳の奥を直接刺激するような微弱な電気が走る。
 その瞬間、リィエルの聴覚システムに劇的な変化(アップデート)が起きた。

「きゅうっ! 主様、さっきの追いかけっこ、次は僕が追いかける側に設定してほしいな!」

 足元で不機嫌そうにしていたシロの声が、はっきりとした言語としてリィエルの脳内に響いた。
 リィエルは驚きのあまり、手に持っていた枝を落としそうになる。

「……シロ? 今、お前、追いかける側に設定しろと言ったのか?」

「きゅう? うん、言ったよ! あと、ガイアスさんのマッサージは指の圧力が少し強すぎるから、もう少し出力を下げてほしいって伝えておいて!」

 リィエルは呆然として隣のガイアスを見た。ガイアスは何が起きたのか分からず、不思議そうな顔で首を傾げている。

「リィエル、どうした? 急にシロの顔を凝視して。果実に変なデバフでもかかっていたか?」

「……いえ、バグではありません。どうやらこの果実、一時的に異種族間の言語プロトコルを共通化する機能があるみたいだ。マッサージ、シロには強すぎるそうですよ」

「なっ、本当か!? 済まないシロ、良かれと思って騎士団流の揉み解しを適用していた」

 ガイアスが慌てて手の力を抜くと、シロは「そうそう、それくらいが最適解だね」と満足げに目を細めた。
 さらに、リィエルの肩の上ではルミがぷるぷると震えながら、高い金属音のような、それでいて楽しげな思考を送ってくる。

「リィエル、リィエル! さっきの掃除機、すごくいい乗り物だった! また魔力をチャージして動かして! もっと速く、庭の向こうまで行けるくらいの馬力(トルク)が欲しいな!」

「……却下だ。ルミ、お前の要望はシステムの安全性を著しく損なう。あれは二度と起動させないからな」

 リィエルが空中に向かって返事をすると、ガイアスは羨ましそうにその光景を眺めていた。

「いいな、お前たち。俺にもその果実を分けてくれ。俺もシロやルミの本音をログに記録したい」

「お勧めしません。情報密度が高すぎて、脳内が通知ログで埋め尽くされますよ。……ほら、シロが次は高級な干し肉を要求しています」

 静かだったはずの森の生活が、翻訳という新機能によって、かつてないほどのお喋りな空間に変わっていく。
 リィエルは、賑やかすぎる脳内の通知にため息をつきながらも、以前より少しだけこの同居人たちのことを深く理解できた気がして、口元の緩みを必死に隠していた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

【完結】偏屈司書は黒犬将軍の溺愛を受ける

アザトースト
BL
ブランは自他ともに認める偏屈である。 他人にとっての自分とは無関心と嫌悪の狭間に位置していることを良く良く知っていたし、こんな自分に恋人なんて出来るわけがないと思っていた。そもそも作りたくもない。 司書として本に溺れるような日々を送る中、ブランに転機が訪れる。 幼馴染のオニキスがとある契約を持ちかけてきたのだ。 ブランとオニキス、それぞれの利害が一致した契約関係。 二人の関係はどのように変化するのか。 短編です。すぐに終わる予定です。 毎日投稿します。 ♡や感想、大変励みになりますので宜しければ片手間に♡押してって下さい!

【完結】悪役に転生したので、皇太子を推して生き延びる

ざっしゅ
BL
気づけば、男の婚約者がいる悪役として転生してしまったソウタ。 この小説は、主人公である皇太子ルースが、悪役たちの陰謀によって記憶を失い、最終的に復讐を遂げるという残酷な物語だった。ソウタは、自分の命を守るため、原作の悪役としての行動を改め、記憶を失ったルースを友人として大切にする。 ソウタの献身的な行動は周囲に「ルースへの深い愛」だと噂され、ルース自身もその噂に満更でもない様子を見せ始める。

声なき王子は素性不明の猟師に恋をする

石月煤子
BL
第一王子である腹違いの兄から命を狙われた、妾の子である庶子のロスティア。 毒薬によって声を失った彼は城から逃げ延び、雪原に倒れていたところを、猟師と狼によって助けられた。 「王冠はあんたに相応しい。王子」 貴方のそばで生きられたら。 それ以上の幸福なんて、きっと、ない。

おしまいのそのあとは

makase
BL
悪役令息として転生してしまった神楽坂龍一郎は、心を入れ替え、主人公のよき友人になるよう努力していた。ところがこの選択肢が、神楽坂の大切な人を傷つける可能性が浮上する。困った神楽坂は、自分を犠牲にする道を歩みかけるが……

きっと、君は知らない

mahiro
BL
前世、というのだろうか。 俺は前、日本という国で暮らしていて、あの日は中学時代にお世話になった先輩の結婚式に参列していた。 大人になった先輩と綺麗な女性の幸せそうな姿に胸を痛めながら見つめていると二人の間に産まれたという女の子がひとりで車道に向かい歩いている姿が目に入った。 皆が主役の二人に夢中で子供の存在に気付いておらず、俺は慌ててその子供のもとへと向かった。 あと少しで追い付くというタイミングで大型の車がこちらに向かってくるのが見え、慌ててその子供の手を掴み、彼らのいる方へと突き飛ばした。 次の瞬間、俺は驚く先輩の目と合ったような気がするが、俺の意識はそこで途絶えてしまった。 次に目が覚めたのは見知らぬ世界で、聞いたことのない言葉が行き交っていた。 それから暫く様子を見ていたが、どうやら俺は異世界に転生したらしく………?

転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。

星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。 前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。 だが図書室の記録が冤罪を覆す。 そしてレイは知る。 聖女ディーンの本当の名はアキラ。 同じ日本から来た存在だった。 帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。 秘密を共有した二人は、友達になる。 人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。

処理中です...