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36話
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翻訳果実の効力は、摂取してから数時間が経過しても衰える気配がなかった。
リィエルの脳内には、森の木々が風に揺れる音さえも「心地よい波長だ」という断片的な思考として流れ込んでくる。
「リィエル、リィエル! こっちだよ、大きな友達がずっと待ってるんだ!」
ルミがリィエルの肩の上で弾みながら、北側の深い茂みを指し示すように光を点滅させた。
普段は立ち入らないその領域は、古くから森の心臓部として守られてきた場所だ。リィエルは杖を手に取り、背後に続くガイアスに視線を送った。
「ルミが案内役を買って出ている。……ガイアスさん、足元に注意してください。この先は倒木が多く、地形のデータが不正確です」
「ああ、分かっている。お前とルミがそんなに乗り気なら、俺も護衛として付き合おう。何より、シロが『冒険だ!』と張り切っているからな」
ガイアスの言葉通り、シロは先陣を切って藪の中を突き進んでいる。
リィエルの脳内には「ここを曲がると美味しい木の実があるよ」「あっちには大きな蛇の気配が残っているね」というシロの偵察ログが次々と入ってきた。
一行が茂みをかき分けて進むこと三十分。
突然、視界が開け、そこには小さな円形の広場が現れた。
広場の中央には、巨大な岩と見紛うばかりの塊が、厚い苔と蔦に覆われて沈黙している。
「……これは。岩ではありませんね。人工的な金属の反応、それも極めて純度の高い魔導合金だ」
リィエルが歩み寄り、表面の苔を不器用な手つきで剥ぎ取った。
すると、そこからは鈍い銀色の装甲が姿を現した。それは人の形を模した、全長三メートルはあろうかという巨大な守護ゴーレムだった。
「ぷるるん! この子、ずっと眠ってるの。お腹の中の火が消えちゃって、動けなくなっちゃったんだって」
ルミがゴーレムの胸部にある円形のパーツに張り付き、心配そうに光を明滅させる。
リィエルはゴーレムの関節部や魔力伝導路の状態を、指先でなぞるように確認していった。
「……驚いたな。数百年は経過しているはずなのに、基礎フレームには一切の歪みがない。当時のエンジニアは、どれほどの予備設計(マージン)を組んでいたんだ。……ただ、ルミの言う通り、心臓部の魔力炉が完全にスリープ状態に入っている」
「リィエル、直せるか? これが動けば、この森の防衛システムは一気に強固になるぞ」
ガイアスが感心したように、巨人の肩に触れた。
リィエルはゴーレムの足元に膝をつき、内部の回路構成を脳内で可視化し始めた。
「……直す、というよりは再起動(リブート)ですね。古い術式言語で書かれていますが、構造は昨夜の古代装置と似ている。俺の最新のパッチを当てれば、現役の機体として復帰させることは可能です」
リィエルの瞳が、夕闇の中で青白く輝き始めた。
彼にとって、この忘れ去られた巨人は単なる遺物ではない。先人の技術者が残した、壮大なプログラムの結晶だった。
「よし。シロ、周囲の監視を。ガイアスさんは、俺が回路を接続する間、その巨体を支えていてください。……ルミ、お前も手伝え。お前の純粋な魔力を、起動のトリガーにする」
森の最深部で、忘れ去られていた古の鼓動が、現代のエンジニアの手によって再び刻まれようとしていた。
リィエルの脳内には、森の木々が風に揺れる音さえも「心地よい波長だ」という断片的な思考として流れ込んでくる。
「リィエル、リィエル! こっちだよ、大きな友達がずっと待ってるんだ!」
ルミがリィエルの肩の上で弾みながら、北側の深い茂みを指し示すように光を点滅させた。
普段は立ち入らないその領域は、古くから森の心臓部として守られてきた場所だ。リィエルは杖を手に取り、背後に続くガイアスに視線を送った。
「ルミが案内役を買って出ている。……ガイアスさん、足元に注意してください。この先は倒木が多く、地形のデータが不正確です」
「ああ、分かっている。お前とルミがそんなに乗り気なら、俺も護衛として付き合おう。何より、シロが『冒険だ!』と張り切っているからな」
ガイアスの言葉通り、シロは先陣を切って藪の中を突き進んでいる。
リィエルの脳内には「ここを曲がると美味しい木の実があるよ」「あっちには大きな蛇の気配が残っているね」というシロの偵察ログが次々と入ってきた。
一行が茂みをかき分けて進むこと三十分。
突然、視界が開け、そこには小さな円形の広場が現れた。
広場の中央には、巨大な岩と見紛うばかりの塊が、厚い苔と蔦に覆われて沈黙している。
「……これは。岩ではありませんね。人工的な金属の反応、それも極めて純度の高い魔導合金だ」
リィエルが歩み寄り、表面の苔を不器用な手つきで剥ぎ取った。
すると、そこからは鈍い銀色の装甲が姿を現した。それは人の形を模した、全長三メートルはあろうかという巨大な守護ゴーレムだった。
「ぷるるん! この子、ずっと眠ってるの。お腹の中の火が消えちゃって、動けなくなっちゃったんだって」
ルミがゴーレムの胸部にある円形のパーツに張り付き、心配そうに光を明滅させる。
リィエルはゴーレムの関節部や魔力伝導路の状態を、指先でなぞるように確認していった。
「……驚いたな。数百年は経過しているはずなのに、基礎フレームには一切の歪みがない。当時のエンジニアは、どれほどの予備設計(マージン)を組んでいたんだ。……ただ、ルミの言う通り、心臓部の魔力炉が完全にスリープ状態に入っている」
「リィエル、直せるか? これが動けば、この森の防衛システムは一気に強固になるぞ」
ガイアスが感心したように、巨人の肩に触れた。
リィエルはゴーレムの足元に膝をつき、内部の回路構成を脳内で可視化し始めた。
「……直す、というよりは再起動(リブート)ですね。古い術式言語で書かれていますが、構造は昨夜の古代装置と似ている。俺の最新のパッチを当てれば、現役の機体として復帰させることは可能です」
リィエルの瞳が、夕闇の中で青白く輝き始めた。
彼にとって、この忘れ去られた巨人は単なる遺物ではない。先人の技術者が残した、壮大なプログラムの結晶だった。
「よし。シロ、周囲の監視を。ガイアスさんは、俺が回路を接続する間、その巨体を支えていてください。……ルミ、お前も手伝え。お前の純粋な魔力を、起動のトリガーにする」
森の最深部で、忘れ去られていた古の鼓動が、現代のエンジニアの手によって再び刻まれようとしていた。
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