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43話
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昨夜の月下での出来事を思い出すたび、リィエルの思考回路は意味をなさない文字列で埋め尽くされそうになる。
朝食のテーブルで、ガイアスと視線が合うだけでコーヒーを淹れる手元が狂いそうになり、彼は努めて無機質な態度を維持しようと必死だった。
「……リィエル、朝からそんなに難しい顔をしてどうした。昨夜のステップの復習でもしているのか?」
「……違います。今日の気圧配置から、魔力の伝播効率を計算していただけです。それより、その手に持っている赤い封筒は何ですか」
ガイアスが苦笑しながら差し出したのは、王都の魔導紋章が刻印された豪奢な招待状だった。
中には、王都で数年に一度開催される「星霜魔導祭」への、リィエル・アステール個人への招待が記されている。
「陛下からだ。今回の古代装置の修復や、森の環境維持への貢献を正式に讃えたいそうだ。……リィエル、お前は嫌がるだろうが、これはお前の技術を世界に認めさせる絶好の機会だぞ」
「……お断りします。目立つことは生存戦略においてリスクでしかありません。それに、着ていく服も、公式な場での作法も持ち合わせていない」
リィエルが即座に棄却(キャンセル)の意志を示した、その時だった。
リビングの窓から、アイアンがその巨大な指先を器用に差し込み、リィエルの肩をそっと叩いた。
「お母様。衣服の問題であれば、既に解決の目処が立っています。私の内部ストレージに保存されている『宮廷礼装』のデータを基に、森の希少素材を用いた最適解を錬成可能です」
「アイアン、お前いつの間にそんな機能を……。待て、勝手にスキャンするな!」
アイアンの瞳から放たれた計測用の光が、リィエルの全身をなめるように走る。
さらにシロが、お礼として動物たちから貰っていた「光糸の繭」や「深緑の極細繊維」を、誇らしげに口にくわえて持ってきた。
「きゅうっ! これで主様を世界一綺麗にするんだよね、アイアン!」
「ぷる、ぷるるん!」
ルミもまた、衣服に魔法的な耐性と光沢を付与するための魔力触媒として、やる気満々で全身を明滅させている。
ガイアスは、逃げ道を完全に塞がれたリィエルの隣で、椅子を寄せてその手を取った。
「リィエル。俺も、お前が正装して胸を張って歩く姿を見てみたいんだ。……当日は、俺がずっと隣にいる。騎士団長としてではなく、お前のエスコート役としてな」
ガイアスの掌から伝わる、昨夜と同じ熱。
リィエルは、自分の心拍数が再び「異常値」を叩き出しているのを自覚し、溜息を吐いて視線を落とした。
「……分かりました。ただし、一度でも不快なログが蓄積されたら、即座に転移魔法で帰還しますからね」
「ああ、約束する。最高に快適な外出にしてみせるさ」
こうして、引きこもりの天才エンジニアと、彼を溺愛する騎士、そして不器用な仲間たちによる「王都遠征プロジェクト」が、賑やかに開始された。
朝食のテーブルで、ガイアスと視線が合うだけでコーヒーを淹れる手元が狂いそうになり、彼は努めて無機質な態度を維持しようと必死だった。
「……リィエル、朝からそんなに難しい顔をしてどうした。昨夜のステップの復習でもしているのか?」
「……違います。今日の気圧配置から、魔力の伝播効率を計算していただけです。それより、その手に持っている赤い封筒は何ですか」
ガイアスが苦笑しながら差し出したのは、王都の魔導紋章が刻印された豪奢な招待状だった。
中には、王都で数年に一度開催される「星霜魔導祭」への、リィエル・アステール個人への招待が記されている。
「陛下からだ。今回の古代装置の修復や、森の環境維持への貢献を正式に讃えたいそうだ。……リィエル、お前は嫌がるだろうが、これはお前の技術を世界に認めさせる絶好の機会だぞ」
「……お断りします。目立つことは生存戦略においてリスクでしかありません。それに、着ていく服も、公式な場での作法も持ち合わせていない」
リィエルが即座に棄却(キャンセル)の意志を示した、その時だった。
リビングの窓から、アイアンがその巨大な指先を器用に差し込み、リィエルの肩をそっと叩いた。
「お母様。衣服の問題であれば、既に解決の目処が立っています。私の内部ストレージに保存されている『宮廷礼装』のデータを基に、森の希少素材を用いた最適解を錬成可能です」
「アイアン、お前いつの間にそんな機能を……。待て、勝手にスキャンするな!」
アイアンの瞳から放たれた計測用の光が、リィエルの全身をなめるように走る。
さらにシロが、お礼として動物たちから貰っていた「光糸の繭」や「深緑の極細繊維」を、誇らしげに口にくわえて持ってきた。
「きゅうっ! これで主様を世界一綺麗にするんだよね、アイアン!」
「ぷる、ぷるるん!」
ルミもまた、衣服に魔法的な耐性と光沢を付与するための魔力触媒として、やる気満々で全身を明滅させている。
ガイアスは、逃げ道を完全に塞がれたリィエルの隣で、椅子を寄せてその手を取った。
「リィエル。俺も、お前が正装して胸を張って歩く姿を見てみたいんだ。……当日は、俺がずっと隣にいる。騎士団長としてではなく、お前のエスコート役としてな」
ガイアスの掌から伝わる、昨夜と同じ熱。
リィエルは、自分の心拍数が再び「異常値」を叩き出しているのを自覚し、溜息を吐いて視線を落とした。
「……分かりました。ただし、一度でも不快なログが蓄積されたら、即座に転移魔法で帰還しますからね」
「ああ、約束する。最高に快適な外出にしてみせるさ」
こうして、引きこもりの天才エンジニアと、彼を溺愛する騎士、そして不器用な仲間たちによる「王都遠征プロジェクト」が、賑やかに開始された。
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